七十話
アルフレッドはアリシアを連れて、イリス達がいる屋敷に戻った。
アリシアがあのままの恰好、男物の服を無理矢理着れば周りからの目が痛い。
そのため移動する事前に、男になってもらった。
ただ、匂いはなんともならないため周りからの目が痛いのは変わらなかった。
屋敷に入り、アルフレッドが向かった先はイリスとあの男、貴族が交渉した部屋にだった。
アルフレッドが部屋に入り、アリシアが部屋の中を見渡した。
そこには、椅子がどかされて置いてあった場所で椅子に座っているイリス。
そのイリスに座られている男。
服がここに来るまでに見てきた人とは恰好が随分と違うため、金持ちか偉い人間と分かる。
その男は嬉しそうな表情をしている。
既に手遅れのようだ。
そして、その姿を見て驚いて止まっているアルフレッド。
手遅れなのがもう一人いた。
反対側には武刀の女の子達がいる。
彼女らは彼女らで、二組に分かれていた。
一組はヴァルと白。
二人は鬼の形相で万里とユーミルを睨んでいた。
睨まれている万里とユーミルは、勝ち誇った表情で見下していた。
アルフレッドの喋り声、主に譲ってほしい、羨ましい、の言葉を背景にして白達のお喋りに耳を澄ます。
魔術を発動し、背中から僅かな血が漏れて垂れる。
それは下に垂れてるだけでなく、円になったり上がったりする。
その形は魔術回路。
場所が背中なだけに見えることはなく、誰にも気づかれずに強化魔術を発動した。
範囲は身体全体ではなく両耳。
小さい音でも良く聞こえるようになった。
「くそっ! どうして」
ヴァルが毒づいているのが聞こえる。
「まさかあそこであやつらが動くとはのう」
白は驚いている。
「所詮は雑兵、ということね」
万里が勝ち誇って完全に見下している。
「ご主人は言いました。意見が割れた時は多数決で、と」
ユーミルが諭すように言っている。
もう一度武刀の女の子達を見る。
二つに分かれているがさらに離れた所で、フェンが獣となり胡坐を足を伸ばして座っている。
人化状態となっているようだ。
そのフェンの上に、アルが座っている。
アルの腰にはフェンが腕を組んで、まるでシートベルトのようであった。
聞いた内容から察するに、フェンとアルが万里とユーミル側に参加したのだろう。
「まさか食べ物でつるなんて!」
「ふっ 勝てばいいのよ。勝てば」
ヴァルの言葉を万里は負け犬の遠吠えと捉え、見下していた。
「あら、帰ってたの?」
白とヴァルの方に顔を向けていると、イリスが声を掛けてきた。
「今まで気づかなかったの~?」
イリスは、アリシアを連れてくるためにアルフレッドを向かわせた。
帰ったときには、アルフレッドがイリスと話しているのは見えた。
だから帰っていたのは気づいていたはずだ。
そのアルフレッドは今、這いつくばってイリスの足置きになって凄く嬉しそうである。
「気づいていたわよ。ただ、匂いが、ね」
不快な顔をするイリスは、嫌々な感じで言う。
ただ、アリシアはイリスの表情が気に食わなかった。
「イリスが言ったことじゃん~。それに~イリスも楽しんだようだし~」
アリシアの目線は下に、イリスの椅子になっている男を向ける。
「凄く気持ちよかったわよ」
誇らしげに、イリスは言う。
「なら、僕も」
それを聞いたアルフレッドが懇願した。
「ま、イリスがそんな様子になっていることも分かっていたし、周宇にお風呂の用意をさせといたわ」
アルフレッドを無視してイリスは言う。
それを聞いたアリシアが、途端に嬉しそうな顔をする。
「さっすが~分かってる~」
振り返って浴場に向かおうとする。
場所は分からないが、聞けば済む話だ。
「ちょっと待って」
浴場に向かおうとするのを、イリスは止めた。
「な~に~。どったの~」
アリシアは、お風呂に入れるため上機嫌に答えた。
「今向かうと大変なことになるから待ちなさい」
「?」
大変、という意味が分からず、アリシアは首を傾げた。
「ハッスル中」
イリスが答えたのはたった一言である。
それだけでアリシアは言葉の意味を察した。
「なるほど~。で、どうすればいいの~」
「部屋で待ってなさい。メイドを呼ぶから」
そう言ったイリスはメイドを呼び出した。
メイドは周宇により意識のないただの操り人形となっており、表情は無表情である。
しかし、無表情でも目の前にいるメイドは綺麗であった。
凄く綺麗だった。
綺麗すぎて、食べごたえがありそうだった。
お風呂に入ることとは別の意味で上機嫌となり、メイドを連れて部屋に行こうとすると。
「食べないでよ。めんどくさいから」
アリシアの行動を先読みしイリスが言及すると、アリシアが不貞腐れた。
「わかってるよう~もう~」
メイドがアリシアを部屋に教え、アリシアは部屋で寛ぐ。
周宇が戻って来たのは、それから三十分後のことだった。




