六十一話
暴走魔法≪バーサーク≫。
それは大昔、まだ魔王と争っていなかった時代。
人と多種族が争っていた時代。
その時に開発された魔法だ。
暴走魔法≪バーサーク≫を作ったのは、エルフだ。
魔法では勝るものの、数では人に勝てないエルフ。
ならば、その不利な数を補うために別の物を戦力とした。
それは魔物。
ただし、魔物は全ての敵において仲間にはならない。
なら、けしかければいい。
その願いによって生み出されたのが、暴走魔法≪バーサーク≫。
これを使い、エルフは人間に魔物を襲わせた。
結果は、想像以上のものだった。
襲い掛かろうとした兵士を、魔物は全て皆殺しにした。
成功したことにエルフは喜んだ。
だが、それだけでは終わらなかった。
魔物は兵を殺し、前に進む。
そこにある村、人を惨殺し、さらに進む。
それに気づいたエルフは、恐怖した。
自分たちはなんて魔法を作ったんだ、と。
戦い方を見ても、分かる。
魔物に軟な攻撃は効かない。
自身の肉体が鎧代わりになっているからだ。
人も、暴走魔法≪バーサーク≫によって変わった魔物を倒すのに苦労し、戦争どころではなくなった。
戦力が減った人間は和平条約を多種族と結んだ。
多種族も互いに連携しておらず、協力してなかったため衰退しており、和平を結んだ。
そして、エルフは誓った。
災厄をもたらす暴走魔法≪バーサーク≫は使わないと。
しかし、その誓いは破られた。
アルフィーの目の前に、暴走魔法≪バーサーク≫を掛けられたリザードマンがいるのだから。
「どうしてここに暴走魔法≪バーサーク≫に変わった魔物が!」
アルフィーは吠える。
暴走魔法≪バーサーク≫を生み出したのはエルフだ。
しかし、エルフの首都は武刀が転移で呼び出された国、アザカの近くにある。
わざわざこんな辺鄙で、別の大陸にエルフが来るとは思えなかった。
エルフとは、閉鎖的な種族だ。
他種族との交流をあまりしないのがエルフだ。
そうなると、アルフィーの頭の中には、答えが一つしか思い浮かばなかった。
これは聞いた話で、本当かどうか分からない。
長老が言っていた。
遥か昔に、エルフでも木を好む我らと違う、土を好む黒い肌をしたエルフに、暴走魔法≪バーサーク≫を教えたことがある、と。
その昔とは人と争っていた時代だ。
そして、土を好むエルフは完全に覚えていないが、たしかこの大陸で生きているはずだ。
しかし、土のエルフがやった証拠もない。
もしかしたら奴隷となったエルフがやったのかもしれない。
だが、やることは分かっている。
「どこのどいつか分からないが! この魔法は使ってはならないと! 言われただろう!」
アルフィーは叫び、火精霊サラマンダーを呼び出す。
「全てを、……燃やせ!」
アルフィーの頭上に、赤く、燃えるような大きな魔法陣が現れる。
それが一つ、二つ、三つ、と増え、未だに増え続ける。
その魔法が見た事ない武刀やジブでも、魔法の危険さが分かり、二人はアルフィーを抑えた。
「落ち着け。それは多分やばい」
「ここでそんな強力な火魔法はやめたほうがいいよ」
二人に両側からくっつかれ、拘束されたアルフィーは不自由さから暴れて拘束を解こうとする。
「離せ。お前らがあれの恐ろしさを知らないから、そういうことが言えるのだ。あの魔物は存在してはいけない。だから、ここで絶対に消さなければいけないのだ」
「分かった。分かったから、ここでそれはやめてくれ。森が近くにあるから、ただじゃすまないから。森燃やしちゃ捕まるから」
「手伝うから、僕と武刀も手伝うから、ね!」
武刀とジブの説得に、アルフィーは火魔法を使うのをやめた。
それにより、頭上にあった魔法陣が消える。
武刀はアルフィーから離れながら、リザードマンを見る。
リザードマンは走りながらこちらに迫り、、先頭が森をでた辺りだ。
「ジブ、俺がやる。あとは頼むぞ」
「分かった」
武刀はジブに伝え、前にでる。
リザードマンとはまだ距離が離れている。
その間は武刀にとって、間合いでもあった。
左足を前に、右足を半歩後ろに下げた状態で、両足を踏ん張る。
その状態で、思いっきり先頭にいるリザードマンに槍を投げつけた。
二つの強化により、武刀の強化された肉体は素人でもプロ顔負けなほどに速い。
槍の穂先はリザードマンの顔に目掛けて跳び、触れる直前で止まった。
リザードマンが槍の穂先を掴み、受け止めたのだ。
それに武刀は驚き、リザードマンを見くびっていた。
今まで、武刀はなんとか自身の魔術により、生き残って来た。
だから今回もなんとかなる、と密かに心の片隅で思っていた。
それは甘えであり、慢心であった。
その結果が今の状況だ。
槍を掴まれ、リザードマンは平然とし、手から血も流れていない。
それは、武刀の槍では傷つかない、ということだ。
自身が役に立たない、ということ分かり、武刀は悔しかった。
槍を掴んだリザードマンは槍を放り捨て、走って近づいて来る。
その槍を転移で呼び戻し、掴んで後ろに下がる。
「アルフィー。あれは何!? 攻撃が効かないぞ!」
「あれは暴走魔法≪バーサーク≫。掛かった魔物を凶暴にする魔法だ。魔物が求めるものは、ただの殺戮と戦いのみ」
そんな魔法があるのかよ。初耳なんだが。魔物を凶暴にする、か。
ん? 待てよ。この魔法を解析できれば、戦いは戦いでも夜の戦いに流用できないか?
それはすごく良い! 求められるのは凄く良い!
「その暴走魔法≪バーサーク≫とやら、後で教えてもらえないか?」
「今の緊急事態に、なにか変な事考えていないか?」
阿保なことを言う武刀に、アルフィーが切羽詰まった顔をして声を荒げる。
バレてる。けど、大事なことなんだよ。求められるのは。
ちょっと待て! 一日のノルマが五人だから、それはキツイな。
「やっぱりいいかも……」
「いきなりどうした!? というか、来るぞ!」
「分かってる。俺は倒せないから、注意をひく」
武刀が槍を構える。
自分では倒せないことは分かっている。
ならば、それなりの戦い方があるというものだ。
「何体までいける?」
「最大二体だな」
「ジブは?」
「全て倒せるよ」
斧を持ったジブは、自身の肉体と斧にある強化魔術を起動し、斧も含めて強化する。
「なら、ジブは四体お願い。私は二体引き受けるから」
「うん、分かった」
「アルフィーにお願いがあるんだが、あの団体さんを分裂させてくれないか?」
「引き受けた」
頷き、アルフィーはリザードマンに右手を向けた。
「来い。フロスト」
アルフィーは、氷の精霊を呼び出した。




