六話
あれから、その日に色々と起こりすぎたせいもあり、ぐっすりと眠れた。
さすがの俺も、別の世界に移動したのは始めてであり、こんなことが起きるとは予想だにしてなかった。
翌日、俺らは城で働く人達が食べる食堂の隅に集まり、朝食を取った。
みんなは既にグループができてあるらしく、仲の良いグループで集まって、食べ始めた。
俺は勿論、転校してばっかり、こんな見た目もあり、一人で食べた。
見れば、俺と同じように一人で食べている奴もいた。
それは普通の奴だ。
至って普通。特徴が全くない男。
しいて言うなら、特徴がないのが特徴、とでもいうような。
彼には覚えがある。
能力を調べるとき、王様に出来損ない、みたいなことを言われた少年だ。
能力はたしか、短距離移動だ。
物を瞬時に移動できる能力だが、軽い物しか移動できない、という情報があったらしい。
それで俺は彼の時、同じ仲間がいたと思ってホッコリしたんだと思う。
それが俺には、どうして一人で食べているのか分からなかった。
印象が良ければ、普通は会話をしたりするはずだ。
もしかしたら、それに失敗したのかも、と食べながら考えていた。
食事を終えた俺たちに待ち受けていたのは、座学、お勉強だった。
場所は城の中にある広場、というより、特訓場である。
俺たちが来るのを見越して、作り出したのだと言う。
そのため、日を遮る物が何もないため、影のある木陰で講義を受ける。
ここも食堂の時と同様に、グループに纏まって地べたに座っていた。
だが、食堂で俺と同じように一人で食べていた少年が前に座り、その少年の元に一人の少女が近寄ってきているのが見えた。
彼女は黒髪でふんわりと丸みを帯びて、肩に届くぐらい。
パッチリとした大きな黒目で、このクラスの中で一番可愛いらしい少女だった。
彼女が一直線に、一人で座る少年に向かって歩いていると、後ろから彼女の右腕を掴んで引き留めた。
それは、新堂だった。
「沙織。何をする気だ?」
新堂が険しい顔をしていた。
声が小さく、離れていれば聞き取れにかったが、近かったお蔭で聞き取れることができた。
「私は裕一君と……」
「その男には近づくなと言ったろ? もうやめとけって」
「けど……」
「行くぞ」
新堂が沙織と呼ばれる少女を引き戻し、後ろに戻って行く。
その様子を一部始終を見ながら、
ふ~ん。あの少女は沙織。あれは裕一、か。
どうして一人なのかも、なんとなく察しがつくな。
去って行く沙織の姿を横目で見て、前にいる裕一の姿を見る。
すると、視界の中にクラスの目の前に立つ青髪の少女がいた。
「ええ~私が講師であり、司書のアルフィー・シスタードです。よろしく」
青髪の幼い少女が、皆の目の前に立ち、頭を下げる。
講師のアルフィーは、髪が肩に掛かるぐらいあり、目は碧色。
幼い見た目もあって、顔も幼い、幼女のようで可愛いらしい。
だけど、幼女というには少し大人びている気がする。
なんというか、幼女特有の天真爛漫、明るさといものがない。
これでは、幼女失格だと思う。うん。
アルフィーが現れてから、今まで喋っていた生徒達が黙る。
その時、
「あなたが先生なの?」
一番前にいた、健康的な小麦色の肌をしたスポーツ少女が質問した。
「疑問か? まあ、よく言われることだからな、この見た目だし。私の身体が幼いのには、一つの理由がある。それは」
髪で隠れていた左耳を晒す。
左耳は人の耳のように丸みが帯びておらず、妖精のように尖っていた。
「私が、エルフだからだ」
「「「うおおおおおおぉぉぉぉッッ!!!」」」
男子たち、少数の女子が、歓声を上げる。
それは俺も同様で、歓声まではあげないものの、驚かされた。
エルフ、この世界にもいるんだ。
すげー。だからロリッ子なのか。
見たことはあるし、手持ちに二人いるから欲しくは、ないな。
けど、人外。
やっぱりいいな。人外。
色々な人間がエルフについても思いながら、
「あの、私達を何を教わるんですか?」
一番前に座っている結城先生が手を上げる。
歓声は突如おさまり、最後まで聞いてアルフィーが頷き、
「私が教えるのは、君たちの世界にはなかったかもしれないけど、魔法だ」
その言葉に、生徒達が興奮し、思わず声を上げる。
魔法は子供の時には誰だって、魔法を使う自分、を想像したりするはずだ。
まあ、昔の俺だったら興奮してたと思う。
けど、今は魔術師。その業界の人間のため、平常を保つことが出来た。
それに、俺たちの世界にも昔は魔法と呼ばれるのは存在してたから、この世界の魔法は興味があった。
「魔法というのには、必要な物がある。それはマナだ。魔法や君たちが扱う神の力の一端だって、マナを必要とする。マナは心の中にあり、こういう風にすると、勝手にでたりする」
両手を身体の前に出し、手の平を平行にして一定の距離を保って離す。
すると、手の平の間からぽわぽわした緑色の球体が生まれる。
「これがマナ。みんな、やってみるといい」
アルフィーに促され、みんながアルフィーと同じように手の平を向かい合わせにする。
まあ、成功するでしょ。
俺も軽い気持ちでやってみるが、一向にマナと呼ばれる物は生まれなかった。
周りを見ていると、他のクラスメイト達は上手くいっていた。
「ふむ。君、あとで、全てが終わってから私の元に来てくれ。待っておくから」
皆の様子を、マナが生まれたかを見て、アルフィーは失敗した俺に指を指す。
「はい……」
クラスメイトの視線が一点に、俺の元にアツ松。
俺だけ失敗して、悔しかった。
魔術師であるのに、他は一般人なのに。
成功すると思ってた。だけど、失敗して悔しかった。
「じゃあ、次のステージだ。この魔法は身体強化と呼ばれる、肉体を強化する魔法だ。やり方としては、マナを身体全てに行き渡るようにイメージすればいい」
アルフィーは目を瞑った。
すると、足元に魔法陣が生まれて魔法が発動する。
落ち込んでいた俺はその魔法、正確には魔法陣を見て、固まった。
なぜなら、
どうして? あれは似すぎてる。強化魔法に。どうして?
多少は違っているが、強化魔法にそっくりだ。
そもそも、強化魔術は、身体だけじゃなくて、物の自体の性能をワンランク上にするもの。
身体だけとは教わらないはずだ。
いや、それは魔術になってから分かったこと、か。
どういうことだ?
この世界の三回も見た魔法が、俺のいた世界にそっくり過ぎて、もう何が何だか分からなかった。