五十九話
「天から降る雨は槍に」
武刀の右腕から、魔術により生まれた水の弾丸が、空に放たれた。
「天から舞い降りる雷光は槍に」
それは雲をも突き破り、穴を開けた。
水の弾丸は空中で弾け、残滓が周りに広がる。
「天槍雷雨≪てんそうらいう≫」
空に舞う水の残滓は槍となり、雨のように降り注ぐ。
範囲はそれほど広くなく、そして、綺麗に馬車を避けて槍は振る。
水の槍は木を破壊し、魔物を貫いた。
降り注いだ槍は水になり、地面に染み渡る。
「凄い……」
降り注ぐ槍の中、馬車は進む。
それが異様の光景で、アルフィーは呟く。
馬は周りに槍が降り注いでいるが、何故か止まらない。
進んでいる。
もしかしたら、槍から逃げようとして一生懸命走っている。
空から降り注ぐ槍は時折、大きな残滓から大きな水の槍となり、雷のように一瞬で振る。
雨のように降り注いだ槍は通り雨のように、すぐに止んだ。
魔術が終わったあと、範囲にいた魔物は全て消えていた。
魔物が消え、馬車は止まった。
「どうした?」
「ちょっと聞いて来る」
アルフィーが理由を聞きに、馬車を降りて御者のほうに行く。
「ストリア。お疲れ」
少し時間が空き、武刀はストリアに感謝した。
「うん。頑張った」
その声には少し、疲れが感じた。
初めてであの魔術を使ったんだ。
しょうがないか。
今はストリアもう頼らないでおこう、と心に決めた。
決めた時、アルフィーが飛んで戻って来た。
「どう?」
「馬が疲れてるようだ。少し休憩が必要だと」
「チッ。足止めか。まあ、あれだけ走ってくれたんだから当たり前か」
武刀は舌打ちをするが、馬には感謝する。
アルフィーは呼んだ精霊を帰還させ、風の精霊シルフに周りの索敵を頼んだ。
それが終えたあと、武刀が後ろから近付き、喋りかけた。
「アルフィー。今の襲撃、どう思う?」
「今のか? あれは……少し連携が取れていたように感じた」
「やはりか。俺もそう思う」
同時に襲って来る。なんてこと、あるとは思えない。
全員が知能があるなら分かる。
しかし、魔物達は本能に従って行動するはずだ。
それなのに、魔物達は同時に襲い掛かった。
魔物が全て同時に辿り着いた、なんて奇跡が起こったとは思えない。
魔物が獲物を目の前にして待って、襲い掛かった、と考えるのが自然だ。
「狙われた、と考えるのが自然か?」
武刀はアルフィーに聞く。
これが偶然狙われたのか、狙ってやったのか、によって話は違う。
「多分ね」
アルフィーは頷く。
俺たちは今、大事な物を持っている。
だからこそ、そう考えるのが必然的だった。
「魔物はかなりの数が多かったが、あれは出来るのか?」
「襲わせる、ということか? 出来るぞ。昔からよく使われる手だ。魔法で魔物に暗示を掛けたり、好きな匂いをつけて襲わせたり、と。ただ、数がおかしい」
「そう、だな。今考えると数がおかしいな」
前を見ていたから分からないが、数は五十はいたと思う。
「あの転がっている魔物、どうする?」
武刀は馬車の後ろに転がっている魔物を見る。
「血の匂いを嗅ぎつけて魔物は近付くが周りにはいない。基本的に回収するが、魔物はほぼ近くだから低ランクだ。放っておけ。ここに人も来ないから何も問題はない」
アルフィーは言う。
そして馬車の中では、体育座りをしたジブが魔物が来るのをひたすら待っていた。
「まだかな。まだかな」




