五十七話
「それは、殺す、ということでいいんだな?」
真横から、見下ろすように武刀は睨まれていた。
「いや、殺すわけじゃない。もし殺す前提なら、俺がやるさ」
武刀の考えに、ジブが死ぬ、ということは入っていない。
そもそも、死なれたら武刀が発狂する。
それは本人も理解している。
だからこそ、そんな作戦は建てないし、危険な役回りは自分がする。
「ならどういうことだ?」
「もし、魔物が強くなければ囮にはしないが。弱ければ、彼女には実戦経験になる、ということ」
武刀の考えを知り、アルフィーは理解した。
魔術を発動させることはした。
しかし、ジブは魔物相手には使っていない。
それを武刀は、今やろう、と言っている。
「武刀。私は思うんだが、ドラゴンのジブより強い魔物はいないと思うんだ」
「……」
アルフィーの言葉を一度頭の中に入れ、考えて一言言う。
それは、強すぎて経験にはならないのではないか、という意味も含まれている。
少し考え、武刀は答えた。
「そうだな」
アルフィーは武刀との作戦会議を終え、下に降りた。
降りてすぐ、ジブとストリアに内容を伝えた。
「囮になればいいだね」
「分かった」
二人は頷いた。
そして、準備をする。
武刀は馬車の上で、前を見る。
アルフィーも武刀の後ろで馬車の上に立ち、仁王立ちしている。
ジブは後ろを見たまま、斧を握る。
ストリアは武刀の一緒にいて、戦いが始まるのを待つ。
待つこと、十分。
それは長くて、短くて。
人によって感じ方は違う。
そして少し気が緩んだりする間でもある。
その隙を逃さず、魔物共は襲ってきた。
魔物共は襲ってきた。
それは全て、この近くにいる弱い魔物達だ。
しかし、一斉に襲い掛かってきた。
もしこれが、一つ種族であれば納得できた。
しかし、襲ってきた魔物の種族は多種多様だ。
本来なら揃って襲うことはまずありえない。
ということは、この魔物達を指揮する者がいるということだ。
それをアルフィーは見て、瞬時に理解した。
だが、言う暇なんてなかった。
なにせ、魔物が同時に襲ってくるとは予想してなかった。
アルフィーは、魔物が多く現れても、バラバラに出てくると予想していたのだ。
しかし、その予想は外れて、同時に襲ってきた。
アルフィーはそれを、左右、二つ対処する。
流石のアルフィーでも、これには苦戦した。
ほんの少しだけ。
馬車の右側から、魔物が来た。
しかし、数は少ないが狼系の魔物に統一されていた。
加えて、魔物はそれほど強い個体がいるわけではなかった。
「現れろ。サラマンダー」
アルフィーが一つの手札を切った。
呼んだのは、火精霊だ。
翼の生えた赤いトカゲがアルフィーの横に、呼ばれて現れた。
「燃やせ」
アルフィーが右手を突き出し、命令した。
命令すると、サラマンダーは近づく魔物に狙いを定め、口を開けた。
小さな口から火を吐く。
火はまるで火炎放射のようで、馬車に近付こうとした魔物は炎上し、脱落していく。
だが、それでも他の魔物が襲い掛かろうとし、燃えて火達磨と化した。
アルフィーはサラマンダーを呼び、すぐに左側に移った。
左側は森で、右側よりも隠れる所が多い。
そのため、魔物が多い。
しかし、言い方を変えれば隠れる所が多いということは、移動の時には障害物となって遅れる、ということだ。
本来は、前者ばかりを気にして後者を気にすることはない。
だが今回は違う。
迎撃するのはアルフィーで、指示や命令する者はいない。
それは各々判断し対処する、ということであり、アルフィーは判断する。
魔物を殲滅するためなら、木なんて壊してしまえばいい、と。
「シルフ。ウンディーネ。ノーム。殲滅!」
アルフィーの一声で、背に緑の羽を持つ幼い少女。蒼色の肌の乙女。小麦色の肌の小人が現れた。
三体の精霊が、風、水、土の魔法を放つ。
風は暴風となり魔物達の進行を鈍らせ、水は洪水のようになり魔物を押し返す。
土はぬかるみとなった地面は固め、身動きを封じる。
魔物達は暴風によって移動がままならず、洪水によって押し返される。
それも耐える魔物は洪水でぬかるんだ土に足を取られ、その地面が固められて足が動かすことができず、水と風で呼吸することができなく死んだ。
精霊はエルフにとって大事な存在だ。
四大精霊と呼ばれている精霊は、サラマンダー、シルフ、ウンディーネ、ノーム。
精霊は名前が同じでも姿は全く異なり、エルフが契約することで力を分けてもらえる。
その力とは、二つ。
一つ目は精霊の力を借りて魔法の威力を増す事。
二つ目は魔力を与えることでその属性に応じた自然界での事象を引き起こす。
アルフィーが行っていることは、二つ目である。
精霊たちに魔力を供給し、強制的に事象を引き起こしている。
ただ、エルフでも精霊と同時に呼び出すのはせいぜい二体が限界である。
それは、魔力の消費が大きすぎるせいで二体じゃなければ、魔力切れを起こしてしまうからだ。
四体を同時に呼び出したアルフィーは、それでも自身で魔法を放つ。
周りを見て、危ない所を助けに行く。
後ろでは、近づいて来る魔物達をジブが火の魔術で迎撃していく。
しかし、後ろから来る魔物があまりに少なく、少し不満であった。




