五十四話
夕食を食べ終え。
「俺が寝てる時はどうだった? 何もなかった?」
「特に問題なかったぞ」
アルフィーが答えてくれる。
横ではストリアが向かい側にいるジブ、談笑している。
「魔物とかは?」
「そもそも近くに強いのはいない」
「あ、そうなんだ。こんなド田舎だし、強いのいそうだけど」
「強いのは大抵、人が多いとこにいることが多い。魔物が強いと冒険者が集まる。冒険者がいると、商人が集まる。金に余裕が出来ると、生活環境が改善される。そして町や都市になる」
なるほど。なるほど。
考えてみればそうだ。
強い魔物がいれば、それを目的とした冒険者が集まる。
あの村には、冒険者がいたようには見えなかった。
宿屋はあったが。
「なら盗賊は?」
「盗賊の目的は金だ。こんな金にもならない獲物を襲って、なんの利益になる。無闇に殺したって、ただ国に狙われるだけだ」
なら、この馬車を襲う者はいないのか。
ドラゴンの鱗もまだあるとは思っていないだろうし。
「それなら、この七日の旅は何もないな」
ん? これってフラグじゃね?
けど、そういえばドラゴンの鱗の時も盗賊の時にもフラグを建てたけど、何もなかったな。
焚火で燃えている木が割れ、パチ、という音がし、火が小さくなる。
アルフィーが木を数個、焚火に投げ込むと火は少し強くなったように見える。
夜がだいぶ深まって来た。
「そろそろ夜番を決めよう」
そう言ったのは、アルフィーだ。
「なら、俺がするよ。ずっと寝てたし」
武刀が立候補した。
「お願い。次にジブ、私、ストリアの順で良い?」
「大丈夫」
「うん」
ジブとストリアが答えた。
三人は横になり、眠る。
ジブとストリアは一緒に、アルフィーその場からあまり離れず、焚火に背を向けている。
さっきまでは談笑したりと少し賑やかだったが、今では音があまりせず寂しい気持ちになる。
焚火の木からなるパチパチ、という音。
時折起こる風。
風によって揺れる木の葉の音。
音がなさ過ぎて、逆に夜番にとっては嬉しい。
今の音から異常な音が聞こえれば、それは襲撃だと分かる。
まー、全て襲撃という訳ではないと思うが。
もしかしたら、動物、という可能性もある。
しかし、こんなに静かで喋る相手もいないと、少し心がざわつく。
なんと表せばいいのだろうか。
ちょっと落ち着かない感じなのだ。
いつもは気にしないことなのに、気にしてしまう、そんな感じだ。
こういう時はよく嫌なことや、失敗したりする。
これが昨日の夜にもあった。
魔術回路を見た後の夜、その日は少し寝付けなかった。
その時に思ったことは、空から落下して地面に落ちた時に散らばった、ジブの鱗はどうなったのか、と気になってしまった。
だから俺は、落ちた場所に向かった。
行くときには半日掛かったが、魔術と魔法の強化を使うことで行き帰りで半日掛かった。
辿り着くと、そこにはまだ鱗が転がっていた。
何もないと分かると、心のもやもやは消えた。
帰り着いた時には、朝日が昇ろうとしていた。
それが今日の眠かった原因だ。
そして今、またモヤモヤする。
それとは裏腹に、悪いことは何もなく、夜番をジブに変わった。
また、それ以降も何もなく、朝が来た。




