五十三話
翌日、村の出口には馬車が一台止まっていた。
木の馬車で帆が張られ、雨風を凌げる仕組みとなっている。
また、帆は御者との間に張られ、外から中の様子が見ることができないよう、プライバシーの配慮がされている。
いつもならこんなことはしないが、今回は護衛がいることから見えないようになっている。
その馬車に武刀が乗り込み、既に眠ろうとしていた。
ストリアは武刀と一緒に。
アルフィーとジブは村人、村長と話していた。
「では、お願いします」
村長はドラゴンの鱗を布に包み、アルフィーに手渡す。
アルフィーは鱗を大切そうに、懐に仕舞い、二人は馬車に乗った。
「では、行ってきます。村長」
「頼んだぞ」
村人の御者をやる者が村長と話していた。
馬車の中で、朝なのに眠ろうとしていた武刀にアルフィーが話しかけていた。
「どうして朝なのに眠いの?」
「寝不足」
「夜に出歩いたのが問題だろ?」
「知ってるなら聞くなよ」
武刀はぶっきらぼうに答えると、横になる。
馬車は硬くて寝るにはキツイが、そこは大丈夫。
ストリアがいる。
彼女がいれば、どんなことにも対応できる。
馬車との接触面にストリアが広がり、即席のベッドとなる。
「やわらかーい」
か細い声で武刀は言い、眠った。
「──きろ」
声が聞こえた。
誰だろう?
「起き──」
なんとなくだが、聞き覚えのある声のような気がする。
ならいいや。眠ろう。
「起きろ!」
杖で頭を叩かれて、武刀は起きた。
しかし、万能道具ストリアによって防がれ、衝撃が軽くなった。
「朝か?」
「違う。夜だ」
起きると、朝だったはずが既に夜になっていた。
「時の流れは早いな」
「何馬鹿の事を言ってる。とっとと来い」
寝惚けた事を言う武刀にアルフィーは馬車から降りて、近くにある焚火に歩きながら言う。
武刀は伸びをしながら、焚火に向かって歩く。
街道から少し道外した所に馬車を止め、休んでいた。
「御者は?」
「もう眠っている。一日馬車を動かしてたんだ。疲れるさ」
「そっ」
武刀は頷き、服を右手人差し指でつつく。
「ストリア。出てきていいよ」
武刀のズボンの裾からストリアが流れ落ち、人の形を形成する。
「ごっはん。ごっはん」
スキップしながら言う感覚で言い、焚火に向かって行く。
焚火の周りには座るのに丁度良い丸太が、二つほどある。
「この丸太、どうしたの?」
森の中にこんな丸太があるとは思えない、と武刀は考え、質問した。
「斬った」
答えたのはジブだ。
「斧で斬ったのか」
聞くと、ジブは頷く。
「一応そういう使い方じゃないけど、まあ、俺も本来の用途とは別の事をやってたりするし」
よく見れば、焚火の近くに木の枝や細かくなった木と、燃えやすい物が集まっている。
本当の目的はこれで、丸太はついでなのだろう。
考えながら丸太に座る。
横にはストリアがおり、対面にジブとアルフィーがいる。
「はい。これ」
アルフィーから渡されたのは、夕食である。
パンと乾燥した肉。
一週間もの長い旅だ。
日持ちの良い食べ物じゃなきゃ、腐ってしまう。
今はまだ初日。腐りはしない。
パンを食べる。モソモソ。
肉を食べる。本来の味。
「お家に帰りたい」
「どうしたの? 突然!」
夕食を食べ始めてすぐに泣き言を言った武刀に、アルフィーは動揺しつつ聞く。
「なんでもない」
武刀は食べながら答える。
パンはフワフワではないから、パンに似た何かと思ってしまう。
あと味がしない。
肉は、凄く硬い肉、という感じだ。
犬の気分になってしまう。
そういえばフェンも、こんな肉をよく好んで食べてたな。
なんだっけ?
ジャーキーか。
それに、味も薄い。
香辛料があまり使われてないんだろう。
しみじみと考えながら食べていると、ふと気づいた。
こういった夜はあんまりなかったな、と。
今にして気づけば、元の世界じゃあ馬鹿なことをしていた。
夜は四人から五人ぐらい、よく相手していた。
エロイことは欲望に従ってやるものであって、義務でやるものではない。
毎日やるべきものではなかった。
若いといったって、流石に五人の相手はキツイ。
あの時のキツさを考えると、今のような休憩もいいかな、と武刀は思ってしまった。
これにて、連続投稿は終わりです。
九月、十月と忙しくなるため、投稿は一週間に一回、土曜の二十二時に投稿しようと思います。
十一月からは三日か、四日おきに投稿して、十二月末にまた連続投稿しようかな、と考えています。
変更になるかもしれませんので、あしからず。




