五十一話
武刀は斧を両手で持ち、掲げて軽く振り下す。
普通の状態なら、斧を両手で持っても振るころは出来ない。
そのため、今は強化魔法を使ってギリギリ扱える状態である。
斧の魔術回路を探る。
強化、あとは……複合魔術か。
それは一秒程度で済む。
「よーし、やるぞー」
「がんばれー」
「ファイトー」
「おう」
アルフィー、ジブ、ストリアは少し離れた場所で見学している。
「まずは強化」
強化魔術を起動する。
「範囲は最小限に。名前は何にしよう。この魔術の組み合わせだと!」
武刀はしゃがみ、足をバネに変えて真上に跳ぶ。
斧を振り上げ、落下速度が乗った斧を地面に振り下す。
「大地よ割れろ! イグニッションブレイク!」
斧が地面に振り下された。
衝撃が地面に伝わり、辺りにヒビが入る。
そのヒビに沿うように地面が無数に割れる。
そして。
武刀が斧を右手だけで持ち、横に勢いよく振るった。
「あぶねあぶね。このまま続けてたらこの辺りの木が倒れて、森じゃなくなる所だった」
最後まで発動する魔術を、武刀はキャンセルした。
あの魔術には、まだ続きがあった。
それは、振り下した時に地面に与えた衝撃が戻ってきて、ヒビが伝わった場所まで空中に吹き飛ばされるものだ。
自身だけは無事で、周りに被害が及ぶ。
加えて、斧の衝撃がそのまま戻って来る分、足元から斧で殴られるような感じになる。
「ふう。まあ、こんなもんだわな」
斧を肩に担ぎ、一度息を吐く。
周りの地面にはヒビが入っている。
それは地震によってコンクリートにひびが入ったようにも見える。
「今のはなんだ?」
アルフィーは驚いて目を見開き、口も開いたままだ。
「魔術だよ」
「魔術でこんなふうになるのか?」
「なるよ。これは少し複雑でね。複合魔術、という」
「複合魔術? なんだそれは」
「複数の魔術をタイムラグなしで、流れるようにすること」
例を挙げるとして、爆雷一閃。
あれは足に強化魔術を掛け、槍の穂先には電撃の魔術が。
一歩強く踏み出してトップスピードになり、敵を突く。
突いた時には、既に敵は後ろにいて、敵は爆発する、というものだ。
爆雷一閃の電流には、秘密がある。
それは触れた相手を爆発させるもの。
また、電流には近づくと当たる仕組みがあるため、躱しても電流に触れ、爆発してしまう。
爆雷一閃は二つ。電流と爆発の魔術が複合されている。
イグニッションブレイクは、衝撃、衝撃、衝撃、三つの衝撃の魔術が複合されている。
単体の魔術を複合するのは凄く簡単であり、且つ強力な物が多い。
この複合魔術を、物好きは技、と読んだりする。
「僕でも出来るかな?」
ジブが上目遣いで、キラキラとした目で言う。
まるで犬のように尻尾振っている幻想が見えた。
「できるさ」
「本当。やった! ストリア、行こう」
「うん」
二人は武刀に背を向け、駆けていく。
遠くで、二人が新しく覚えた魔術を練習していた。
魔術回路は覚えた。
あとはどの魔術回路でどんな魔術を発動するか、自分で確かめるのみ。
そんな二人を遠くから、アルフィーと武刀が座って話しながら眺めていた。
「どうして魔法陣が身体にある場合、他の魔法が使えないんだ?」
「魔法陣は一つの魔法に決まったものがある。だから、その魔法陣が身体に刻まれてれば、他の魔法が使えなくなるんだ」
武刀とアルフィーはさっきの話の続きをしていた。
「なるほどな。魔術は魔法陣を基礎にしているから、魔法を使えないのか」
「そっ! けど、今の複合魔術、というのは魔法では少し難しいな」
「なんでー?」
少し能天気に武刀は聞く。
「別の魔法を同時に放つ場合、その複数の魔法を同時進行で作業をしなくちゃならないから。魔術はどんな感じなんだ?」
「複合魔術の場合、複数の魔術を一つの魔術として作り上げるかな。俺の場合、ちょっと違うけど」
魔術回路も人によって特徴があり、武刀の場合はあみだくじの形が多い。
その訳は、強者の多くが血統魔術を使う。
血統魔術を使う者に勝つには、普通の、基本の魔術を多く使う必要があった。
それがあみだくじの形。
線一つ一つに意味があり、何通りの魔術を発動をすることができる。
しかし、それは全て正確からであって、間違えてしまえば魔術回路は台無しになってしまう。
精密機械のような物である。
武刀の魔術回路は何通りの魔術を発動することができ、それは状況によって最善の魔術を組み合わせることができる。
「どう違うの?」
「俺な場合、状況や環境によって戦い方を変えるんだよ。魔術回路の多さが、それを可能にしている」
アルフィーは魔術としての知識は少ない。
そのため、魔法にして置き換える。
「化け物だな」
「何度も聞き慣れた言葉だよ」
武刀はその言葉にあっさりと頷く。




