四十五話
結果的に言えば、俺たちは泊まらせてもらうことが出来た。
ドラゴンの鱗を上げたのだ。泊まるぐらい当然だ。
泊まっているのは、宿屋兼道具屋の店だ。
借りた部屋は一部屋。
当初、アルフィーは二部屋借りようとしたがあまり部屋がないことと、とある人物が即座に一部屋でいい、と断言したからだ。
その部屋には右奥の壁際にベッドが一つしかなく、ベッドに眠る人数には限度がある。
武刀達四人は夕食を食べて、疲れ果てていた。
ダンジョンから落下し、空から落下し、半日歩き通した。
このハードな一日を過ごせば、誰だって疲れ果てる。
しかし、問題が一つある。
それは、ベッドが一つしかないことだ。
「ベッドは一つしかないけど、武刀はどうする?」
問題を解決するべく、アルフィーは乗り出した。
「ベッドはアルフィーが使っていいぞ」
「そ、そう」
あっさりと引いた武刀に、アルフィーは驚いていた。
アルフィーの武刀の印象は、変態、という一言に尽きる。
そのため、アルフィーはてっきり武刀が一緒に眠る物ばかりだと考えていた。
まあ、それでも武刀を信じることが出来ず、ベッドで横になった後でも警戒を解きはしないが。
「ストリア、ありがとう。もう十分だ」
武刀がそう言うと、身体に纏わりつくストリアが剥がれ落ち、足から流れていく。
床に流れたストリアは水溜りの状態から上に伸び、人の形になる。
人となったストリアに、武刀はとある提案を持ちかけた。
そしてジブは、ポツン、と一人でいて女の子座りをし、モジモジと身体を僅かに揺すっていた。
「どうしたの?」
それに気づいたアルフィーが声を掛けた。
「落ち着かないんだ」
「ムトウー! ちょっと来てー」
「どうした?」
アルフィーに呼ばれ、武刀はストリアとの会話を切り上げ、ジブに近付いた。
「ジブがちょっと落ち着かないみたい。何か分かる?」
「それはト……」
トイレ、と言おうとしたとき、武刀は言い留まった。
トイレというと、絶対怒られそうだな。
そのため、別の答えを考えてみる。
そして思いつく。
「今の人状態が不満なのかもね。一度、人化状態に戻ってみれば?」
「やり方は?」
「ドラゴンに戻った時と一緒」
そう言うや否や、ジブを中心に白煙が発生し、人化状態に戻った。
「うーん。こっちの方がやっぱり楽だな~」
ジブは両手を組んで真上に上げ、伸びをしながら言う。
今までのモジモジと困惑していいた表情から、一変してスッキリとした表情になっていた。
ただし、裸である。
ジブはそのことに気づいておらず、他の者も突然の事に驚いて止まっている。
裸体を晒していることにジブも気づいていない。
さっきまで窮屈な状態から解放された開放感から、ジブはそのことに気づいていない。 一番早く我に返ったのはアルフィーだった。
辺りを見て身体を隠せる物がないかを捜し、ベッドにある生地の薄い毛布を引っぺがし、ジブの前に毛布を仕切りのようにして、身体を隠した。
そのことに疑問を思ったジブは、目線を下に、自分の身体を見る。
そして気づいた。
自身が裸であることに。
今まで裸を晒していることをジブは思い出し、顔が赤くなり身体も熱くなる。
「これは先に魔術よりも服を買ったほうがいいかも。ムトウ、いいよね?」
アルフィーが毛布をジブの身体に包む。
「いいよ。こちらもやりたいことあるし、ここに一日篭ることにするよ」
「一日籠って何をするの?」
「槍に魔術を付与する。今のままじゃ戦力外だからな」
武刀はそう言い、ストリアに近寄る。
「ストリア。お願い」
「うん」
頷くと、ストリアは横になる。
「ストリアに何をさせるの?」
「ベッド代わり」
武刀が笑いながら、アルフィーの方に振り返って言う。
横になったストリアは人の形であったが、それが横に大きく広がっていった。
それはまるで、お布団のようであった。
左奥側にできたお布団になったストリアに武刀は寝っ転がり、思う。
ああ、スライムはやっぱり便利だ、と。
ストリアの横になった武刀を見たアルフィーは、ベッドに座る。
「ジブ。おいで」
「そっちに来てもいいの?」
「いいよ。だって、毛布はジブが持ってるから」
「そうだった」
アルフィーが手招きをすると、ジブもベッドに近付き一緒に横になる。
「おやすみ」
「おやすみ?」
「寝るときはおやすみ、て言うの」
「そうなんだ。おやすみ」




