四十三話
アルフィーが言うには、ここは今までいた国アザカから一番遠い場所にいるらしい。
ここの近くは村があり、半日歩けば村に着くらしい。
但し、魔物は出る。
今歩いている道は森を抜けた草原。
でこぼこで、馬車が通ったであろう草が掻き分けられた道を進む。
森より草原のほうが、魔物が出ず安全だ。
しかし、でない訳ではない。
武刀は多少戦えるが魔術は使えず魔法も未熟。槍しか武器を持っていない。
ストリアは戦う術を持ってはいない。
ジブは斧を持っているが魔術はまだ扱えず、魔法は使うことができない。
そのため、現状は戦えるのが一人しかいない。
「敵、後方から接近! 数は二、狼系。師匠、お願いします」
「私はいつからあんたの師匠になったのやら」
後ろから叫ぶ武刀に、アルフィーが呆れ顔で振り返る。
そして、アルフィーは魔法で魔物を倒した。
「右の森から魔物が来たよー」
アルフィーの後ろからジブの声が聞こえた。
「分かった。すぐやるって、既にヤってるー」
顔を向けると、魔物の群れがいた。死体となって。
血溜まりと亡骸の中心には、血だらけのジブが斧を地面に突きたてて、右手で親指を上げてガッツポーズをしていた。
そして、ドヤ顔である。
「すげー羨ましいー」
ジブの姿を見た武刀が呟いた。
力を持っていたが今は使えず、それを発揮することが悔しかった。
本音を言えば、誰かに頼らず自分で倒したかった。
「左の林から魔物が来たよ」
ジブの後ろにいるストリアが呟いき、それに反応する者がいた。
「ストリアー。行くぞー」
「おー」
武刀が魔物に向かって走り出し、ストリアは右腕を真上に突き上げて一緒に走る。
その後ろ姿をアルフィーとジブが眺め。
「てったーい」
逃げていく姿が見えた。
「予想はできてたよ」
「魔術も魔法も使えなくちゃ、そうなるよね」
ジブの言葉を聞いて、え? と心の中で呟き、顔を向ける。
彼女は言った。魔術と魔法も使えなくちゃ戦えないと。
たしか、ジブは魔術と魔法は使え、あ! そういえば竜だったか。
彼女は納得していると、ジブが助けるために向かっていくのが見えた。
こちらに来る武刀とストリアをジブは通り過ぎ、魔物に襲い掛かっていく。
魔物と戦いながら、武刀達は村に近付いた。
しかし、入ることはなかった。
「はい! 緊急かーいぎ」
武刀が右手を上げて、皆を集めてしゃがんだ。
「どうしたの?」
入らないことに疑問を思ったアルフィーが聞いた。
「ストリアが入れない」
「「あー」」
皆の視線がストリアに集まりその理由に納得し、ストリアは首を傾げた。
ジブは外見は人だから大丈夫だ。
しかし、ストリアはだめだ。
形は人。肌は青、と人としては見えない。
そのため、村に入ることができないでいた。
「まー。案はあるんだけどね」
「案?」
「聞こうじゃないか」
ジブ、アルフィーの順に喋る。
「身に着けるんだ」
「どんなふうに?」
「こんなふうにね。ストリア、カモン!」
武刀に呼ばれてストリアは近づき、足元から身体の中に入って行く。
ストリアは武刀の身体を覆う。
「できた!」
「見た目は変わらないな」
「当り前。スライムは万能。生体アーマーさ」
「なるほどね。身に纏うことでストリアを
隠すということなのか。これは思いつかなかったよ」
「まあね」
ジブに褒められ、武刀は満足そうな顔をする。
この案は昔よく使っている。
今ではあまり使わなくなったが、強敵と戦う際に鎧代わりにしていた。
お蔭で命を救われたのは、両手で数えきれないほどだ。
「よし、行くぞー」
遠足でも行くように、気軽に武刀は村に向かった。
ジブとアルフィーも武刀の後を追った。
村は森の開けた草原の上にあった。
外側は木の柵で囲まれている。
これは魔物の侵入の時間稼ぎと子供たちが無闇に外にでないためだろう。
木の柵は複数の木を紐で固く結ばれ、ちょっとのことでは外れそうにはない。
村の中に畑が幾つもあり、収入源は農作物だと分かる。
出入口は二つあり、門番的な者はいない。
村に近付くと、色んなことが分かった。
「アルフィーに質問。村に門番とかいないの? 不用心すぎない?」
疑問に思ったことをアルフィーに聞いた。
「門番というのは守る者達のことだ。それは魔物であったり、盗賊であったり。ここは立地がいい。周りには障害物がない。隠れることはできないけど、見つけるのは簡単だ。それに、こんな辺鄙な村には強い魔物はいないし、金にならない村を襲う奴はいないよ」
強い魔物はいないから村人が集まればで倒せる。金にならないから盗賊はこない。それなら門番はいらないな。まあ、これは小さい村だけなんだろうな。きっと。
アルフィーの言葉を考えていると、既に村の中に入るぐらいに近付いて来ていた。
外から見ると、村に人が誰一人としていない。
その割には壊れたりしている所はなく、盗賊に襲われたようにも見えない。
「人が全くいないな」
「そうね」
不安な気持ちを持ちながら、村に入った。
「アルフィー。村に入ってから何すんの?」
不用心な村に入るなり、武刀はアルフィーに尋ねる。
「まずは村長の元に行こうと思う。武刀はジブに魔術を教えたりするんでしょ?」
「ああ」
「なら時間が掛かるから、長くいることを伝えないと」
お世話になる、ということか。けどそうなると、泊まったりご飯を食べたりとお金が掛かるよね。無料は絶対ないはずだし。俺はお金持ってないけど、アルフィーは持ってるのかな?
「アルフィーはお金を持ってるの?」
「持ってないよ。ムトウが持ってるんじゃ……」
「……」
武刀はゆっくりと顔を背けた。
とある言葉がある。沈黙は肯定、と。
アルフィーは最後尾にいる武刀に小走りで近付き、両肩を掴んで抑え込んで顔を近づける。
「どうすんの! 私はてっきりムトウが持ってるものかと」
誰にも聞こえないように、アルフィーは小声で喋る。
それは村人にお金がないことを聞かせないようにするためだ。
「持ってるわけないだろ。ハハッ!」
焦るアルフィーとは逆に、武刀は能天気そのものだ。
「くそ! どうする? お金がないのなら魔物の素材でも、けどそれは持ってないし」
武刀の両肩を離し、自身の頭を掴んで必死に考える。
その壊れたアルフィーを武刀は眺めていると、誰かが身体に触れてくる。
触れた場所はお腹。
しかし、そこにいるのはアルフィー。
アルフィーは今、壊れたロボットのような動きをしている。
ジブは小声で喋っているので、聞こえずにこちらを見ている。
そうなると、一人しかいない。
「どうしたんだ?」
誰にも聞こえないよう、ストリアに喋る。
もし誰かに聞かれれば、頭がおかしいと思われてしまう。
「これ、使って」
袖から伸びたストリアの触手から渡されたのは、黒い欠片だった。
黒い欠片は手と同じくらい大きく、質感としてはかなり固くざらざらしている。
「アルフィー。ストリアからこれを渡されたんだけど」
「ん?」
武刀の手と同じくらいの黒い欠片を見て、怪訝な目をしていた。
だが、すぐに目を見開いた。
「これって」
アルフィーが黒い欠片を奪い去り、何度も触って振り向いてジブに黒い欠片を見せた。
「ジブ。これってあなたの鱗?」
「どれどれ?」
黒い欠片に顔を近づけ、ジブは目を細めた。
「これは僕の鱗で間違いないね。どこで取れちゃったんだろう?」
ジブは首は僅かに傾げる。
「多分だけど、落ちたときじゃないかな?」
ジブの疑問に、アルフィーが答えた。
そして答えたアルフィーは、ん? と呟いて眉を細めた。
「落ちた時? そういえばジブが落下した……」
途端に、ジブは悪い顔になる。
「これは使える」
村長の元に向かうため、家の中にいる村人に尋ねた。
おかげで、村長の家を教えてくれた。
さらに、村の男達が村長の家にいることも教えてくれた。
その理由は、空から竜が落ちてくるのを見たからだと言う。
その理由を聞いたアルフィーは。
「やっぱり」
と呟き、また悪い顔をしていた。




