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四十二話

「ん? どうかした?」


 頭を振り回していた武刀は、やっと正気に戻ることができた。

 そして、ジブラリアが戸惑っているのを見て、呟いてしまった。

 

「なんでもないよ」


 ジブラリアは疲れたのか、ため息を吐く。

 

 彼女が見ぬ間、武刀は真面目な顔になる。

 

「ジブラリア。君に重大な話をしよう」


 武刀の真面目な顔を見て、ジブラリアも気を引き締めた。

 

「ジブラリアは飛ぶことに魔法を使う。だよね?」


「うん」


「飛べない理由は一つ。ジブラリアの身体には既に魔術回路が刻まれているから」


「魔術回路?」


「あー、そこからか」


 めんどくさそうな顔をし、武刀は俯いて右手で頭を押さえた。

 

「魔術回路、というのは魔法でいうマナのこと。魔術回路があれば魔術が扱える。その魔術が魔法を扱うことを封じている」


「それなら、魔術を使わなければ魔法が扱えるんじゃないかな?」


「だったら、飛べたよね」


「あ! そっか。なら」


 ジブラリアは少し間を置いてから喋り出し、首を傾げた。


「武刀はどうして魔法が扱えるの?」


「それは俺にも分からない。だけど、多分枷があるからだと思う」


「枷?」


「魔術を使えなくなるものだ。そんなことよりさ」


 武刀はゆっくりと立ち上がる。


「ジブラリアは付き合っていく必要がある。魔術と」


 両手を大きく横に広げる。


「魔術、僕は使えますか?」


 ジブラリアは不安な顔をして言う。

 誰しも、初めては不安になってしまう。

 ならば、伝えて安心させなければいけない。真実というものを。

 

「使えないよ」


「え!?」


 ジブラリアは不安な顔から驚いた顔に変わった。

 さっきまでは魔術回路があるから魔術が使える、という話をしていたが今は魔術が使えないという。

 

 それは明らかな矛盾で、ジブラリアは訳が分からなくなっていた。

 そのジブラリアに武刀は近づき、しゃがんで身体を右手の人差し指でつつく。

 

「ジブラリアの身体には、魔術回路がある。ただし、それはまだ目覚めていない状態。目覚めさせるには一つの行為をしなくちゃいけない」


「何をすればいいの?」


「名前を付けるんだ。そうすれば、魔術回路は意味を持つ」


「けど、僕には既に名前があるよ。ジブラリアって」


「そう。だけどその名前は男だったときの名前。今は女の子だから可愛らしい名前にしないとね。アルフィー、何かいいのある?」


 横になっているアルフィーに武刀は尋ねた。

 アルフィーは目を瞑っていて、起きている訳ではなかった。

 それは、ジブラリアも確認して分かった。

 しかし、アルフィーは恐る恐る起き上がった。

 

「ばれてた?」


「だって、起こすために頬を叩いていたからな。起きてるかなー、と思って声を掛けてみたけど、やっぱり起きてたか」


「ごめん。二人で話てたからちょっと起き辛かった。それでジブラリアの名前を決めるんだっけ?」


「そうそう。一人じゃ考えるのもあれだしね。何かいいのある?」


「そういうのはジブラリアの要望を聞いてみたら? 自分の名前なんだし」


「なるほど!」


 その案は思い浮かぶことはなかった。

 たしかに、親の決めた名前を変えたい、と思う奴もいるしな。

 

「ジブラリア。どんな名前がいい?」


「う~ん」


 彼女は顔を上げて目を瞑り考え。

 

「昔の名前をあまり変えてほしくないかな」


「ということは、ジブラリアを少し変える、女の子っぽい……」


 頭の中でジブラリアという言葉が反芻し、少し変えた名前を考えて似合わなければ別の名前、また別の名前と変えていき、一つ思い浮かんだ。

 

「ジブ、というのはどうだろう?」


「うーん。ジブ、か。呼びやすくなった感じでいいね」


 ジブラリアの反応は凄く良く、新しい自分の名前を何度も小さく言葉にしている。

 

「ジブラリア。君の名前は新しく、ジブだ。問題ない?」


「構わないよ」


 彼女は肯定した。

 すると、身体が光だした。


 ジブが光だしたのを見て、アルフィーはストリアが光った時のことを思い出していた。

 光った影響により、今まで服代わりになっていたストリアが水のような液体に変わって、地面に流れて水溜りと化す。

 

「これって、あれ? ストリアの時みたいな」

 

「うん、そうだよ。ただ、ストリアとは少し違うと思うけど」


「違う? どういう風に?」


「見れば分かるさ」


 少し待つと、光は消えた。

 そこには、ジブがいた。

 彼女は女の子座りで座り込んでいる。

 何が起きたのか分からず、呆けている。

 

 そして、アルフィーも突然のことに驚いている。

 なぜなら、ジブは人になっていた。

 

 黒竜ジブラリアと言われてはいるが、肌は黒に近い色ではなく、健康的な小麦色。

 しかし、髪の色は黒一色で何の色も混じっていない。

 肩甲骨辺りまで黒髪が伸び、それを肩のライン辺りで朱色のリボンで結んでいる。

 

 彼女は人よりも倍以上の歳を取っているが、いるのは可愛らしい少女だった。

 クリッとした大きな金色の瞳。

 唇は仄かな桃色で、シュッとした小麦色の頬。

 

 服、というよりも黒色の薄い金属製の鎧を纏っており、身体全体を覆ているのではなく、太た二の腕に隙間があり、小麦色の肌を覗かせている。

 ジブが竜だったこともあり、鎧は竜のようなデザインが施されている。

 

 薄い鎧を着ているからこそ、身体のボディラインがはっきりと分かる。

 少し痩せていて、その分、とある二つの部分も大きくなかった。

 

 手には黒のグローブを嵌め、右手に大人と同じくらいの黒い片刃の斧を持っていた。

 斧には刃に隙間が幾つもあるが、刃先は綺麗で指を軽くなぞるだけでパックリ斬れてしまうほどに。

 刃の反対部分には実用的ではなさそうな二つの棘が伸びている。

 

「これは……」


「斧か、接近型だな。魔術回路は後で確認するとしよう」


「人になるのか?」


 ジブの方を見ていると、アルフィーがこちらを真剣な目で下から覗き込んでいた。

 

「前にも言ったろ。今のストリアや前のジブみたいなそのまんま人の形をした人化状態。今のジブみたいなのが人状態。本来は名前を付けると、人になるんだよ」


「ならどうしてストリアは人にならなかったんだ?」


「それは俺にも分かっていない」


 後頭部を右手で掻きながら答える。

 

「ただ、人状態にならない娘たちもいたりするということだけ分かっている」


 アルフィーと話していると、ジブはやっと自身の身体に気づいた。

 

「お! 人になってる」


 人となった自分の手を色んな角度から眺めていると、ゆらー、と近づいて来る者がいた。

 

「どんな感じ?」


 ストリアだった。

 彼女は水溜りようになっていて、そのまま移動してきた。

 そのせいか、地面に転がっていた黒い欠片が何個か呑み込んでいた。

 

「う~ん。なったばかりでまだ良く分かっていないな」


「羨ましい」


「羨ましいの?」


「うん。楽しそうだから」


 二人で話している時、武刀とアルフィーの会話に変化があった。

 

「ジブはもう魔術が扱えるの?」


「扱えるよ。ただ、練習したりしないと無理だから、どこか腰を落ち着ける場所に行きたいんだけど、アルフィーは知ってる?」


「なるほど。だからジブラリア。今はジブか、ジブを人に変えたのか」


「まあね」


「ここには一度だけ、この近くに来たからことがあるから案内しよう」


「助かるよ。ジブ、ストリア。ここから離れるぞ」


「移動するのか? 分かった」


「うん」


 ジブ、ストリアの順に答え、、武刀達は先に行くアルフィーを追いかける。

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