表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/126

三十八話

 休憩を初めて、紅茶を五回ぐらいおかわりしたぐらいか。

 イリスが戻って来た。

 その後ろには、神が配下のようにイリスとの一定の距離を保ち続けている。

 

 戻って来たイリスは、今までにないほどスッキリとしていた。

 神がこちらに近づいて来ることに、武刀の人外達が気を引き締めた。

 

 

「どうでした?」


「あらかた教えてもらったわ。それで、何から話しましょうか」


 イリスが周宇の用意した椅子に座ろうとすると、神が椅子を引いた。

 

「ありがとう」


 お礼を言い、椅子に座った。

 前まで敵対行動を取っていたが、今は完全に従順になっている。

 その行動を見るだけで、敵対することがないということが分かる。

 

 気を引き締めていた人外達は、気を緩めた。

 

「わ~お。完全に手懐けてる~」


 従順になっているのを見て、アリシアを呟く。

 

「それで、何から聞きたい?」


「えっと、私の主は無事ですか?」


 ヴァルが右手を上げた。


「武刀は無事みたいよ。女の子数人と一緒にいるみたい」


「そうですか、それはよかった」


 ヴァルは主が無事でいることに、ホッと安堵の息を吐いた。

 

「なんでも、魔物を人にしてたから気になったみたい」


 最後の余計な言葉で、ヴァルの動きが止まった。

 

「はい。集合」


 ヴァルは死んだ目をし、ここから離れて武刀の配下である仲間達を呼び寄せる。

 フェンを除いた武刀の他の配下も、ヴァルと同じように目が死んでいた。

 

 

 

 

 

「はい。うちの馬鹿な主がまた仲間を増やしました」


 全員で円陣をするように、囲う。

 

「みたいだねー! どうする!?」


「どうするもこうするもありません。早く見つけなくては」


 ヴァルの言葉に、配下達は何度も頷く。

 武刀は人の女に対して好意は抱くが、恋愛感情になることはない。

 

 だが、人外に対しては違う。

 恋をする。

 少し目を離せば、思い人ならぬ思い人外が増えてしまう。

 

 黒いあの虫を見たら三十匹いると思え、という言葉があるのと同じように、もし武刀から少しでも目を離せば人外が増えてしまう。


 それは絶対に避けなければならない。

 なぜなら、武刀と一緒にいる機会が減ってしまうからだ。

 彼女達にはそれが一つの課題でもある。

 

 わざわざ五人を選らぶために競争をしたのも、一緒にいる機会を増やすためだ。

 もしこれが現実世界であったら最悪、裁判が起きるところなのだ。

 

 本来ならば各々武刀に会うため暗躍、騙し合いをするのだが、今回は互いに武刀と一緒になるためにも、協力することを誓った。

 

「協力するなら、武刀さんの枷を解くパスワードを教えてもらえないかい? ヴァル」


 戦闘にも参加しなかった白が、ヴァルを真っ直ぐ見ながら言う。

 

「ん? なんのことですか?」


 ヴァルはキョトンとした顔で首を傾げる。


「協力すると言ったよね?」


 さきほどは協力すると誓ったはずなのに、ヴァルはその誓いを速攻で破った。

 もし教えてしまえば、他の者が褒められてしまう。

 ヴァルはその褒められる対象を、自分だけに、独り占めしたいのだ。

 

 全員の視線がヴァルに注がれ、ヴァルは居心地が悪そうに目を逸らした。

 協力をすると誓い合った五人は、即座にその誓いは叶うことはなかった。

 

 

 

 

 

 武刀の配下が離れても、魔術師たちの話し合いは続いた。


「今の状況はどうなってるんですか? 教えてください」


「分かりました」


 神はお辞儀をし、話し始めた。

 

「現在、人と魔族が争う戦争が起きています。状況は接戦です。理由は、魔王の城が強固の護りがあるからです。その護りを解くには、四大ダンジョンに潜む魔王の四天王を倒すしかありません。それを打破すべく、人は召喚の儀式を行いました。その召喚にあなた方の友人が巻き込まれてしまいました。召喚された方々は力をつけて四大迷宮の一つに潜り、あなた方の友人だけは帰ることが出来ませんでした」


「なるほどなるほど~。めんどくさいことに巻き込まれたね~」


 アリシアは手を広げ、大きくくるくると回り始めた。

 

「で」


 急停止した。

 

「そのあとはどうなったの~?」


「分かりません。私の目はあなた方の友人にはありませんので」


「目とはなんですか?」


 周宇が手を上げた。


「目、というのはこちらの世界に来る際に私が監視するために着けたものです」


「僕からも質問。君はなんだい? 本当に神なのかい?」


 アルフレッドが手を上げ、質問をする。


「私は神です」


「どうして神様になったんだい?」


「魔王を倒した私は神になる資格を得られました。そのため、私は神になりました」


「ん~めんどくさい予感」


 話を聞いていたアリシアがまた呟く。

 

「好きでしょ? めんどくさいの」


 座っている周宇が含んだ笑みを浮かべ、アリシアに尋ねる。

 

「うん、好き~」


 アリシアは空いている席にダイブし、座って紅茶を飲む。

 周宇とアリシアが無駄話をしている中、アルフレッド、神の三人は会話を続いていた。

 

「神の資格を持つ者は私ですが、その候補者に魔王と儀式に呼ばれた者達も含まれています。あなた方の友人は候補者ではありませんので、大丈夫です」


「候補になると、何か問題があるのかい?」


「はい。候補者になると、この世界に縛られて帰ることが出来なくなります」


「そうなると、武刀君と一緒に来た学生たちはどうなるんだい?」


「彼らは選ぶことになります。力を失ってこの世界から去るか、力を持ったまま残るか」


 神は悲しそうな顔をして言う。

 

「私の時には、帰ることが出来ませんでした。だから、もし帰るときには協力するつもりです」


「そう」


 アルフレッドは頷く。

 さっきまで戦ったからこそ、相手がどういう性格なのかはある程度分かる。

 だからこそ、ここまで豹変するのはおかしすぎるのだ。

 

 そう考えると、イリスの力が素晴らしい、ということなのだろうか。

 

「君はどうしてそこまで協力するつもりになったんだい?」


「私は、ずっと一人でした。帰る方法を捜し続け、見つからず、目の前が真っ暗になったように絶望している時、一筋の光を見たのです。その光に、私は縋りました。そして気づくと、神になっていました。神になってから、ずっと一人でした。永遠にも感じるほどに一人で。いつしか何も考えなくなり、自分にあるものが、証明できるのは、神、というだけでした。だからこそ、あなた方が着た時は最後の私だと証明するものを奪いに来た、と思い襲いました」


「そうだったんだね」


「はい。しかし、イリス様の込めた思いに私は気づいたのです」


 アルフレッドは、重い一撃を喰らった感覚がした。

 それは頭の片隅にあった一つの疑惑が、確信に変わった証拠である。

 

「君は同士、なんだね」


 その一声で、神も確信した。

 

「あなたも、なんですね」


 二人は一緒に頷くと。

 

「「イリス様」」


 二人はイリスの後ろで傅いた。

 一人は豚として、一人は従者として。

 互いに思い思いは違うものの、心は一つであった。

 

 それを見たアリシアが。

 

「増えてる~」


 机を左手でバンバン、と何度も叩いて笑っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ