三十七話
神との戦いがまた始まった。
始まった、と言っても戦いはそれほど時間は経っていない。
だが、これは始まったと言っていいほどにさっきまでの戦いとは、変わりすぎていた。
今までは、内に潜む神を救出する戦いを行っていた。
しかし相手は内に神がいなかった。
それは高位次元に住む神の力を借りずに、神の力を扱っているということになる。
高位次元にいる概念的な存在である神ではないこの神は、偽りの神であり倒せると判断し、倒す方向にシフトした。
神は障壁を張る間もなく、アリシア、フェン、ユーミルの神特化の魔術、ヴァルの魔法と魔術の混合の攻撃を与える。
障壁を張ることができない神は、攻撃するがその全てはアルフレッドの魔術により吸い寄せられ、意味をなさなかった。
自分の攻撃は効果がなく、一方的に相手の攻撃を受け続け、戦いは長くは続かなかった。
消耗と疲労により、身体を維持すること難しくなった神は、老人の姿となり倒れている。
しかし、倒れても尚、力強くアリシアを睨んでいる。
アリシアは睨まれているが分かり。
「フェンちゃん。やるよ~」
「おー!」
槍で何度も突き、噛み続ける。
そんなことをしていると、イリスが近づいてき。
「終わったの?」
「ん? 終わったよ~」
「ならこのゴミを借りてくわね。いい?」
「ん~。いいよ~」
アリシアは考える素振りをし、すぐに答えた。
イリスは神の残り少ない髪を右手で握りしめて、引きずって奥に連れて行く。
神は両手で髪の毛を握っているイリスの右手を掴んで必死に抵抗するが、抵抗空しく連れていかれる。
イリスが神を連れて行くとき、アリシアはイリスを一目見た。
その目に映ったものは、服で仄かに見えるイリスの胸に赤く光る魔術回路があった。
「うわ~、イリスちゃんの血統魔術か~。あれは任せたほうが良いな~。も~どろう~」
アリシアは唖然とした顔で離れていくイリスを眺め、無視するようにスキップをして去っていく。
「どんな血統魔術なのお!?」
フェンは人外状態から人化状態になり、ヴァルに大きな声で聞いた。
「イリスさんの血統魔術は痛覚の鋭敏化。痛みが増す魔術です」
「こわーい!」
彼女は万歳するように両手を上げ、回りながらアリシアの向かった方向に進んでいく。
イリスは皆から離れた所で、掴んでいた神を前に投げ飛ばす。
「おいゴミ。お前は何者だ」
「誰が答え……」
反抗しようとした神に、イリスは頭を踏んで喋らせないようにした。
「勝手に喋るな、ゴミが。ゴミは答えるだけで十分だ。いいな?」
「命令なんぞ、聞くものか」
「そう……」
頭を踏まれても反抗の色を見せる神に、イリスは血統魔術を発動した。
足と接触している頭に、奇妙な模様が浮かぶ。
それは頭から生えている少ない髪の毛と、異様に似合っていた。
神は自分の頭に模様が浮かんでいることに気づかず、イリスは踏むのをやめて神から半歩距離を取り、鞭を取り出す。
そして、鞭を神に振るう。
鞭は綺麗に当たり、ピシッと乾いた音が響いた。
身体に鞭が当たると、その部分が赤く腫れる。
強化魔術を使えば、さらに痛みが増すが使わない。
なんせ、痛覚の鋭敏化、という血統魔術が既に発動しているのだから。
鞭が当たると、神は今までにないほどの絶叫を上げる。
「さあて、ゴミがどれだけ耐えられるのか? 見ものね。フフフ、フフフ」
イリスは妖艶な笑みを浮かべ、鞭を舌で淫らに舐める。
「アリシア、どうでした? 戦ってみて」
着くなり、周宇はアリシアに尋ねた。
「そうだね~。弱かったよ~。神様、といっても~、今まで戦った中でも最弱? という感じだったよ~」
「やはりですか。その神との交渉はイリスに任せましょう」
「交渉? あれがですか?」
ヴァルの一声で、全員がイリスのいる方向に振り向く。
そこには、大きく鞭を振るっているイリスの後ろ姿が見える。
鞭が振るわれる度に、神の絶叫が離れたここまで聞こえてくる。
「あれが本当に交渉ですか?」
「彼女にとっての交渉なんですよ、あれが。本性をさらけ出してますが」
「ああ、気持ちよさそう」
アルフレッドが光悦とした表情を浮かべている。
「これからどうするの~?」
「現状はまだなんとも言えません。教室の魔法陣から主のいる場所に行ける、と考えていたのですが……この白い空間にいる以上、あの神様になんとかしてもらわないと」
「それであの交渉か~」
「はい。なので、終わるまで待ちましょうか」
「そういうことなら、紅茶でも飲むかい?」
イリスの交渉が終わるまで、休憩をすることにした。




