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三十四話

 魔術は本来、肉体に魔術回路を描くことで魔術を発動するのが普通だ。

 その魔術を研究し、代々受け継いでいく魔術を、血統魔術と呼ぶ。

 

 血統魔術は普通の魔術よりも優れているが、欠点があった。

 それは、他の魔術を身体に描くことが出来ないことだ。

 

 もし描いてしまえば、血統魔術の動作を妨害してしまう。

 そのため血統魔術を扱う者は、他の魔術を扱えなかった。

 

 だが、その常識を打ち破った者がいる。

 阿崎武刀。

 彼は血統魔術を持たず、肉体に幾つもの魔術回路を描いていたが、それがいつしか限度が来た。

 

 そのため彼は、武器に魔術回路を描いた。

 その試みは成功し、魔術は発動した。

 魔術が発動したことで、魔術師達は武器に、道具に魔術回路を描き、自身の手足のように扱った。

 

 初めの頃、人気だった魔術は障壁の魔術であった。

 血統魔術を持つ魔術師達は、自身を守る術を持たない者が多かった。

 そんな事情もあり、障壁の魔術を扱う者が多かった。

 

 武器にも特性があり、剣は魔術の威力を上げ、槍は射程距離が伸びる。

 本は魔術回路が破壊し燃えても、そのページを破ればまだ扱うことができ、なにより、描ける魔術回路の量が多い。

 

 その多様な特性があっても、障壁を破るのは困難であり、障壁一強の時代が続いていた。

 だが、障壁一強の時代はすぐに幕を閉じた。

 

 銃である。

 特性は破壊率の上昇。

 その特性を持つことで、障壁一強の時代は幕を閉じた。

 が、この話には裏があり、今まで武器を持たなかった魔術師も多く、上手く操れていなかったのである。

 

 そのため、時間が経った今ならば銃を持たずに障壁の魔術を倒すことも出来る。

 

 

 

 これが、魔術を発動する武器、道具、魔術触媒デバイスの歴史である。

 

 

 

 

 

 私にとって、弓はただの歴史的な遺物だと思う。

 家族や族長たちは、弓に生きる、と戯言を言っているけど、それは今の時代では生きていけない。

 

 時代は進む。それも凄い速度で。

 なのに、私達が停滞してしまえば、いつか私達は滅びてしまう。

 私は普通じゃない。エルフだ。

 

 ご主人が言うには、私達は特別だという。

 その自覚は私にはない。

 だけど、ジロジロと見る目、好ましそうに見る目、身体全体を粘つくように見る目、そのほとんどが気持ち悪かった。

 

 けど、ご主人が私を人間にしてくれた。

 おかげで前よりも生きやすくなった。

 ご主人のためなら。

 

 意思を再び固めてると、尖った両耳がピクピクと動く。

 

 そうだった。私の仕事をしないと。

 

 ユーミルはスコープを覗く。

 彼女は二脚バイポッドを展開し、腹を地に着けて横になっている。

 今持っている銃は大きく括れば狙撃銃という分類に入るかもしれないが、正確には対物ライフル、と呼ばれる代物だ。

 

 この銃は魔術触媒であり、引き金を引いても銃弾は発射されない。

 発射するのは、魔術である。

 そのため、魔術触媒の多くは形を模してるだけなのがほとんどだ。一部を除き。

 

 照準をデカブツに狙いを定め、ユーミルは引き金をゆっくりと引いた。

 銃自体から、魔術を発射した銃声が発し、ほんのり温かくなった。

 

 

 

 

 

 銃声が聞こえた。

 直後、障壁が割れる、ガラス音が何度も聞こえた。

 割れた事により、ユーミルの魔術触媒による魔術が神を貫き、厚いぶよぶよとした身体にめり込んだ。

 

 傷口からは赤い血を流すが、神は気にも止めていなかった。

 

「障壁が破壊されたか! ならば、さらに障壁を何重にも、グホッ!!」


 喋っている途中で、中断した。

 その理由は、吐血だ。

 神は喋っている途中で口から血を吐き出し、話すことが強制的に止められた。

 

 成功しましたね。

 

 ヴァルはユーミルのいる方向を見る。

 

 神殺しの魔術回路は成功した。

 なら、囮の私は十分に働いた、ということ。

 最後は二人に任せるとして、あとは作戦通りに。

 

 浮遊していたヴァルは下降し、地面すれすれまで降りる。

 

「何をしたァ!」


 神を口から血を吐き続けながら、問いかける。

 

「神殺しの魔術回路です。神であるあなたならば、猛毒でしかないですが」


「神殺しだとゥ! そんなものお!」


「いいんですか? 私に気を取られて。次が来ますよ」


 神は焦り、すぐに障壁を全方位に貼る。

 だが、二射目は来ることはなかった。

 

 

 

 

 そのユーミルはというと、周宇が開くお茶会でお茶を飲んでいた。

 

「あの、私は飲んでいていいんですか?」


 ユーミルはばつが悪そうに身体を縮こませ、紅茶をちびちびと飲む。

 

「いいんですよ。作戦ではあなたは一発しか撃たないことになっている。それに、私なんて何も力を持ちませんから、戦場に来てすることといったら、士気を上げることしかできませんよ」


 周宇は悲しそうに言う。

 中国という国で最強の王周宇。

 だが、その肩書とは裏腹に彼の持つ魔術は死人を生き返らせることしかできない。

 言い方を変えれば、自分では何もできないのだ。

 周りを頼ることしか。

 

 周宇に言われ、ユーミルは心持ちが少し楽になった。

 現在、このお茶会にいるメンバーは相性が悪く戦えない者達がほとんどだ。

 一人だけ、戦う力を持っていても戦わない者がいるが。

 しかし、ユーミルは違った。


 彼女は戦う意思があり、ここにいる。

 だけど、今は周宇に呼ばれてこうして紅茶を飲んでいる。

 ユーミルはこんな所で油を売っていいのか、と心の中で自問自答していた。

 

「それに、頼ってください。私達はこれでも強さでは五本の指に入ります。まだ一人、何もしていない人がいるでしょう? 彼に頼りましょう。あれは、本当の化け物ですから」

 

 周宇の独り言を、首を傾げて聞いていた。

 

 

 

 

 神がヴァルの嘘に気を取られる中、一匹の化け物が小さく産声を上げた。

 

「身体がやっと修復した~。さ~て、あ~そぼう」

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