三十二話
景色は教室から一変して、白い空間に変わる。
「う~ん、神秘的というか何もな~い」
人を小馬鹿にしたように笑うアリシアは、周りながら人影を捜し、見つけた。
ポツン、とそこに人がいた。
白い空間と合わせているようにも思えてしまう、ぶかぶかの白い服を着た老人がいた。
老人は胡坐を掻いてこちらを見ていた。
「おじいちゃ~ん。何してるの~」
アリシアが前に出て、尋ねる。
言葉の端々には、敵意が込められていた。
なんせ、魔法陣で跳んだ先には一人の老人が待っていれば、何者か分かってしまう。
「まさか利用してくるとは思わなかったぞ。邪魔者が」
相手も明らかに敵意を隠していない。
「あれが神様なのかい?」
「じゃないの? 周宇はどう見る?」
「ただのお爺さん。だけど、陣形は取るとします。アリシアが前に出ている間に、後ろに下がっておきます」
老人とアリシアが話している間、三人は連絡をとった。
「私達は自分なりの行動を取ります。いいですよね?」
「ええ、構わないわ」
ヴァルがイリスの近づいて了承を得たあと、仲間の元に戻った。
その裏で。
「あなたはだ~れ? 神様~」
「いかにも」
「お名前はなんて言うの~?」
「貴様に吾輩の名を教える必要はない」
「そ~。なら~あの魔法陣で人をどこに転移させたの~」
「吾輩の世界だ」
「返してくれない~。私の友達がいるんだ~」
「返さないさ。死ぬまであの世界で生きててもらう」
「そう~。なら、あなたを倒せば教えてくれるわけ~?」
「倒せれば、な」
神様は鼻で笑った。
「そっ! なら、戦おうか~」
アリシアが魔術を起動させ、身体の魔術回路が鼓動する。
足を横に大きく開き、腕と足を曲げて腰を落とし、構える。
それと同時に神様の魔法が起動した。
神様の背後に大きな魔法陣が横向きに浮かび、アリシアに狙いを定めていた。
「へ?」
驚きのあまり、アリシアは思わず声を出してしまう。
それは魔法陣の大きさなどで、声を出した訳ではない。
あの魔法陣よりも大きな物と、戦ったことのあるアリシアは、そんなに驚きはしない。
では、なぜ声をだしてしまったのかというと。
声を出した直後、アリシアの頭と胴体、手足は綺麗に斬られ、白い地に転がる。
聞こえたのだ。感じたのだ。自分の身体が斬られたのを。
「まずは一人」
アリシアを殺した神様は、口の両端が真上に跳ね上がり、嗤う。
「敵は一人。神だと分かった。各自、神殲滅方針で」
イリスはアリシアが目の前で死んだにもかかわらず、臆さなかった。
それは他の者達もだ。
「豚ッア!! 前に出て壁になれ! 能無しが!」
アルフレッドの背中を蹴り飛ばして前にだしながら、イリスもまた前に出る。
前に出ながら、スカートの中に手を突っ込み、足に巻き付いてあるとある物を引っ張り出す。
それは茶色の鞭だ。
鞭には、なんの模様もない、普通の鞭のように見えた。
が、
「さあて、楽しませてもらいましょうか」
サディスティックな笑みを浮かべたイリスは、鞭の魔術を起動させる。
起動した魔術は、鞭に描かれた魔術回路を鼓動させた。
神様が右手を上げ、下した。
それが合図となり、背後の大きな魔法陣から風の斬撃が無数に生まれ、前にいる者も、後ろにいる者にも放たれる。
この魔法が、アリシアを一瞬で肉塊にした魔法だ。
透明で、全てを両断する。
さっき肉塊にしたのを見て、またなるだろうと考え、神様はまた同じ魔法を放った。
それは、相手を過小評価しているのと同時に、怠慢している証拠だ。
その結果、風の斬撃に異常が発した。
「ん?」
それに気づき、自動が手動に切り替え、自分で操作しようとする。
だが、魔法の風の斬撃は反応しない。
まるで、そちらを優先するように、一ヶ所に向かって行く。
その先にいるのは、少し髪の長いイケメンがいた。
彼に向かって、風の斬撃は全方位から襲いかかった。
男の服を、肌を切り裂く。
肌からは血を流し、服に染み付き赤く染まる。
だが、肉塊には変わらなかった。
肌が薄く切られる程度で済んだ。
「まだ、足りない」
「は?」
「もっと私に痛みをおおおおおお!」
魔法で全方位から襲われたにも関わらず、男はさらに強い魔法を相手に渇望した。
その後ろで、
「やっぱお前は良い壁だよ」
イリスが前に鞭を振るった。
それはアルフレッドに紙一重で触れなかったが、風の斬撃に触れた。
「この地面は何か分からないし、これを利用するとしよう」
鞭が風の斬撃を真っ二つにすると、二つの破片が互いに交じり合い、膨張し、形を膨れ上がらせる。
膨れ上がった風は色を灰色に変え、形を変える。
それは大蛇。
さらに、その大蛇がまた一つ、増えた。
二匹の暴風の大蛇は、イリスを挟むように待機している。
命令されれば、いつでも動けるように構えてはいる。
「いけ」
念願の命令を受けた大蛇は、神様に向かって一直線に突き進む。
進行を止めるべく、神様は火、水、風、雷、氷、地の壁を幾重にも張る。
だがそれは全て意味なく散り、二匹の大蛇は神様に襲い掛かった。
大きな口を開き、そこからが二本の鋭い風の牙が覗かせている。
ピクリとも動かなかった神様は、壁を壊されたことで緊急手段をとった。
それは、
神様の足元に魔法陣が生まれ、転移しようとした。
だが、魔法陣が霧散した。
「なに!?」
霧散した理由を考える。
思い浮かぶのは一つ、妨害である。
後ろに離れていた奴らか!
答えに辿り着いた時には既に遅く、神様の両側を二匹の大蛇が突っ込み、神様は消し飛んだ。




