表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/126

三十一話

 夜になると、学校は薄暗くなって不気味に感じる。

 それにより人が来ることはあまりない。

 だが、悪戯目的で来る者がいたりする。

 そのために、学校には警備員が巡回していたりする所がある。


 武刀が転入した学校も、警備員がいた。

 が、こちらには魔術がある。

 おかげで警備員を無力化することができ、目的地であるクラスに入ることができた。

 

 クラスの中にはあるはずの机や椅子が、全くといっていいほどない。

 

「すっからかん? みたいですね」


「みたいだね~。いえ~い」


 アリシアがだだっぴろい教室に飛び込み、解放感に浸っていた。

 

「杏氏。頼む」


 周宇が名を呼ぶと、いつの間にか周宇の近くに美女がいた。

 彼女は一直線に、迷うことなく進み、教室の中央で止まった。

 

「ここにあります」


「そうなんですね。全員に見えるよう、目視化できるようお願いします」


「分かりました。マスター


 屈んで膝を地に着け、両手も地に触れる。

 手の触れた部分から広がるように、見えなかった魔法陣が赤く染まっていく。

 魔法陣は教室に入るぐらいの大きさだ。

 

「ありがとう。杏氏」


「いえ」

 

「本当に魔法陣。行き先はどこか分かる?」

 イリスが周宇に尋ねた。

 

「杏氏、分かるかい?」


「見てみます。……これは……」


「何か分かったのかい?」


「いえ、その、分かったというか」


 杏氏は戸惑った顔をしながら、言うかどうか迷っていた。

 

「分かったのなら言ってごらん。今は何が何でも情報が欲しいからね」


「分かりました」


 主に言われ、杏氏は喋ることにした。

 

「この魔法陣を一目見た感想として、無駄が多すぎる、と思いました」


「無駄? とはどういうことだい?」


「転移するのに必要な部分が、ほんの一部しかないです。いらない部分のせいで、複雑な形をしています」


「そう。で、行き先が分かるかい?」


「そう、ですね。場所の設定は……知らない所ですね」


「それってどういうこと~」


 部屋の中でクルクルと舞っていたアリシアが、立ち止まって身体を斜めに傾けて質問した。

 

「見た事ない場所に設定されています。なので、私が知らない所になります」


「そうかありがとう。周宇の契約者のおかげで、分かったことが二つある。一つ目は転移魔法陣の設定が知らない場所ということ、二つ目はその魔法陣が拙い、ということ。それでアルフレッド、理由は分かる?」


 後ろにいるアルフレッドに話を振る。

 

「ん~そうだねー」


 長い金髪を手で払い、考える。

 その動作が一々キザに見える。

 

「魔術師の腕が拙かった、とかかな?」


 アルフレッドが答えると。

 

「そんなわけあるか!」


「理不尽!!」


 アルフレッドの側頭部に蹴りが入り、吹き飛ぶ。

 吹き飛んだアルフレッドはきりもみし、顔面から着地する。

 

「凄く、良かった……」


 尻を突き出した状態で倒れているアルフレッドが、身体を震わしながら呟くと、そのお尻にイリスの右足が突き刺さる。

 

 イリスの足は、学校であるはずだが靴を履いている。

 そして、その靴はハイヒールだった。


 ハイヒールの踵が尻の穴に突っ込まれ、またも喘ぎ声が上げている。

 男の気持ち悪い喘ぎ声が部屋に木霊し、誰もがそれを無視しBGMとなる。

 

 その裏で、武刀が契約した人外である小学生の耳と目を、中学生と大学生が塞いでいた。

 

「武刀の秘書、えっと、ヴァル、でしだっけ? 質問良い?」


「何でしょう?」


「今の空間魔術を生み出した、というか作り出したのは貴方の主よね?」


「はい。そうです」


 その武刀がこの魔術を生み出した理由は、邪な理由。

 他の人外っ娘に会うのに、時間が掛かるじゃないか! と憤慨した武刀が昔あった転移魔法をアレンジして生み出した。


「ならその武刀は、転移魔術を教えた者はいるか知ってる?」

 

「私が知る限り、教えたのは周宇さんしかいないと思います」


「どうしてそんな凄い魔法を周宇だけに……」


 事実を知ったイリスは悔しがる。

 イリスは過去に、武刀に空間魔術の魔術回路を教えてくれるよう、頼んだ。

 だが、断られたことがあったのだ。

 

「えっと、確か主が言うには、同胞だと」


「そういえば周宇も人外好きだったか」


「人外好き、と一括りにしないでください。私は死体が好きなんです。綺麗なままの状態の人間が。衰えて醜くなった存在に慈悲なんてものを与える必要ありません」

 

「武刀もそうだけど、この似た者同志達は」

 いつも大人しい周宇が熱弁している姿を見て、イリスは呆れて右手で目を覆った。


「話が逸れてるよ~」


 話が進まなくなった様子を見て、アリシアは口添えした。


「そうだな、話を進めるとしよう。私が言いたいのは空間魔術を現在扱えるのは二人。武刀ともう一人、周宇だけ。ならここにある魔術はこの世界の人間じゃない、ということになる」


「それはあれかな~? 神降ろし的なやつかな~。だ、け、どぅ、あれは武刀君がいたからできたんだよ~」


 昔あった出来事を、思い出しながら話す。

 

「あれはそう。で、神様の力を借りたからこそできた。だから今回も、もしかしたらそういった線の可能性がある」


「神様か~。こりゃまた強敵だね~」


「神の肉体は死体になるんでしょうか?」


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア」


「戦う前提の話になってる」


 イリスは戦う前提の話が先が思いやられ、頭を抑える。

 

「だけど、神を痛めつけてみたいな」


 獲物を仕留める前にのように、唇を舌で舐めた。

 そこでふと、ヴァルの事情を思い出した。

 

「ヴァルは大丈夫? 元は神に仕えていた身でしょ?」


「私の今の主は神ではないので、大丈夫です」


 ヴァルは顔色一つ変えずに言う。

 だが、

 

「私は断固反対!」


 武刀の人外である中学制服を着た少女が、声を上げる。


「けどまあ~、どっちみち武刀君を助けに行くには~、その本人の元に会いに行く必要

があるよね~」


「それは……」


「というわけで~周宇君~!」


「分かりましたよ。杏氏」


「なんでしょう?」


「魔術を起動してください。私達も移動します」


「了解です」


 杏氏は頷き、しゃがんで魔法陣に触れる。

 胸の真ん中にある転移魔術の魔術回路が光、共鳴するように魔法陣が光る。

 

「やります」


 声を発した直後、皆の姿が消えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ