二十八話
俺たちはダンジョン攻略に向かった。
そして、逃げ帰って来た。
途中までは良かった。
だけど、罠に引っかかってどこかに移動した。
そこで魔物と戦い、スピアと名乗る四天王と出会い、アルフィーさんを生贄に、犠牲にして俺たちは帰ることが出来た。
門を潜って帰る際、武刀は俺を突き飛ばしてあの場に残ってしまった。
気づけば、地上の入口にいた。
周りにはクラスメイトもいて、俺たちは馬車に乗って王城に戻った。
馬車の中は、非常に暗い空気が流れていた。
俺たちは生き残ることが出来た。
だけど、二人の犠牲がでた。
それはまるで無双でもしているように、魔物を蹂躙していたクラスメイト達にとって、圧倒的な存在の敵と出会った事、犠牲が出たことが、今までの考えが全て否定されたような気分だ。
魔物を蹂躙するクラスメイト達は、ゲームをするような、自分が主人公のような感覚を味わっていた。
それが全て否定された。
犠牲が出ることを知り、今までぬるい国、ぬくぬくと兵士に育てられたせいもあり、現実に引き戻された。
王国に戻ってから、二人を助けようと意見が上がり、救出隊を編成しようとする段階までいっていた。
しかし、四天王の名前がでた途端に、救出隊の案は消え去った。
兵士達が無駄死にする可能性があるからだ。
アルフィーさんがいなくなったこともあり、魔法の授業の指導役が変わった。
武刀がいなくなったことで、クラスメイトに変わった様子はない。
彼が転校してきたのは、この世界に転移した当日。
自分も、そしてクラスメイトも、武刀に構う暇なんてなかった。
だからこそ、武刀と話す知り合いがいないこともあって、クラスメイトは武刀のことをそれほど重く考えていない。
二人を除けば。
とある二人の男女が、夕食を終えて食堂から少し離れた場所で話し合いが行われていた。
「玄道君、どうする? 武刀君があのダンジョンに残ったまんまだけど」
「俺は、助けに行きたい」
あの噂を聞いても、知っても尚彼は、態度を変えないでくれた。
それだけ嬉しくもあり、助けたい、と心の底から願っていた。
「それは私も同じ。だけど、それはここから離れる、ということだから、ここに戻ることは出来ないよ。それでも?」
「ああ、それでも」
そもそも、ここに残る必要性が考えられない。
仲間が、友がいないここには未練というものは一切存在しない。
「神山さんはどうなの? ここに残る? それとも」
「私も行こうかな、と考えているの」
彼女の言葉に、驚きを隠せず目を見開いた。
俺と違って、彼女には友達が多い。
なのに、一緒に行こうと考えようとはしないはずだ。
「そんなに驚く事?」
唯は口をくちばしのように尖らせ、拗ねる。
「だって、友達とか多いでしょ? だから一緒に行くとは考えられなくて」
「友達、と言ってもここのクラスの友達のほとんどが上辺だけ、みたいな感じだから、気にする必要はない」
さっきまでの拗ねた、子供っぽい表情ではなく、真面目な表情を、大人の風格を醸し出していた。
そのギャップに、裕一はドキッとした。
「分かった。ならいつここから出る? 俺はいつでもいいけど」
「なら明日の夜にしない? それと一人呼びたい人いるけどいい?」
「それは、信用できる人、だよね? この話は国にバレたら……」
「それは大丈夫、安心して。なら、明日の夜ね」
唯は大きく手を振りながら、去って行った。
コンコン、と扉をノックする音が聞こえた。
時刻は既に夜。
弓月沙織は、ベッドで横になって眠ろうとする直前だった。
ベッドから身体を起こし、扉を開ける。
そこには、神山唯がいた。
「どうしたの? こんな夜更けに?」
「ちょっと聞きたいことがあってね。沙織ちゃんは玄道君のことが好きだよね」
「な、何言ってるの!?」
沙織は顔を真っ赤にして、早口口調で答えた。
ただその反応だけで、唯には真実であることが確信できた。
「私ね、いや、私達か。私と玄道君で、ここから抜け出そうと考えているの。それでもしよければ、一緒にここから出ない?」
「それは……」
一緒に出たい。
ここにいれば、彼と一緒にいることがない。
やろうと思っても、止められてしまう。
けど、友達だっている。
離れ離れだと考えると、答えるのに戸惑ってしまう。
「ここから出るのは、明日の夜。だから、それまでに答えを決めてほしい、かな。このことは秘密でね。それじゃあ、またね」
唯は沙織に手を振って、自分の部屋に戻って行く。
彼女の後ろ姿を眺めながら、考える。
友を優先するか、自分の気持ちを優先するか。
答えは、すぐに決まった。
二日後、城から三人の勇者がいなくなった。
もう少し更新速度を速めたいんですが、八月の頭から三週間、とある事情があるためストックを貯めるために現在、更新が速度が低下しています。
なので、ある程度自由になったら少しの期間は早く投稿できるよう心がけます。




