表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/126

二十五話

 ジブラリアが、人の形となって倒れている。

 ただし、それは本当の人ではない。

 真っ黒の竜が、そのまんま人になったような感じだ。

 

 真っ黒な髪をゴムで後ろで一つに纏めてある。

 顔はドラゴンのときと違って愛着が湧くような、可愛らしい感じになっていた。

 身体は大人のように大きくはないし、そんなに幼くもない。

 高校生よりも、幼いぐらいだ。

 

「これは、ある程度想像できた感じに仕上がったな」


「私はちょっと予想外だったな~」


 俺の横からアルフィーが顔を覗かせ、反対の意見を言う。


「どうして?」


「だって、人には見えないし」


 アルフィーの言う人には見えない、という意味は、きっと人そのものではない、ということなんだろう。

 ストリアも、言い方を変えれば人のように見える。

 

「人になる、といっても元は魔物だからね。それはしょうがないよ。まあ、人に近い形にはなれるけど」


「人に近い形?」


「ああ、今のジブラリアみたいに、短剣の呪いで人の形しかならないけど、それは人の世界で生きるには不都合だから、短剣を改良して人になるようにしたよ」


 ふ~んそうなんだ。けど、驚きだな。ジブラリアがまさか雌だとはな」

 

 半分本気に半分疑いながら頷いていると、倒れていたジブラリアがゆっくりと起き上がった。


 ジブラリアは頭を右手で押さえている。

 しかし、大切なことが一つある。

 それは彼女が、衣服を着ていない、裸ということだ。

 

 胸やお腹の部分だけは鱗で覆われておらず、肌が白い皮で大事な部分が色々と露わになる。

 けど、両手でその大事な部分をきっちりガードしていた。

 

「くそっ! 何が……」

 

 

 

「おーい、裸だぞー」


 一応、忠告しておく。


「は? 何を言って……」


 彼女は頭を下げて、自身の身体を見る。

 

「──」


 声にならない叫びをあげ、また倒れた。

 

「あ、倒れちゃった」


 その様子を見ていたアルフィーが、起きたことを全て言った。

 

「しょうがないよ。なんせ、ドラゴンだったのに人になってるんだから。自分が違う生き物になったことを考えてみるといいよ」


「それは……」


 別の所を見て、考え込んでいる。

 

「たしかにそれは驚くな」


「だろ! だからしょうがないんだよ。あとは、服だな」


「服?」


「だって何も着てないし」


「私は替えは持ってないぞ」


「マジで! そうなると……」


 極力この手段は使いたくはなかったが、使わざるを得ないな。

 

 横にいるストリアの頭に、手を置く。

 

「すまんが、彼女の肌を見えないようにしてくれないか?」


「分かった」


 ストリアは静かに頷くと、ジブラリアに近付いて肌を覆った。

 それは濃い青色の服のようにも見えた。

 

「スライムって、便利なんだな」


 アルフィーは、心に思ったことを言う。

 そして俺も、

 

「スライムはやっぱり、世界共通なんだな」


 頷きながら、呟いた。

 

 

 

 

 

 橋には、ジブラリアが現れて以来、魔物が現れることはなかった。

 そのため、ジブラリアが目覚めているのを待ちながら、魔物が現れていないせいか、気が緩んでいた。

 

「アルフィー、待つのも暇だしここから抜け出す方法を考えないか?」


「そうだな。そうしよう」


 アルフィーも待っているのが暇なのか、頷いた。

 

「俺はここから帰る方法を三つ考えてある。一つは転移魔法でここから帰る方法。それでアルフィー、転移魔法は使えるか?」


「問題ない」


「そうか。なら帰れるな」


 アルフィーが使えることに、ほっと息を吐き、安心した。

 

「それは無理です」


 安心した直後、服となっていたストリアが上半身だけを姿を晒し、否定した。

 

「どうして?」


 突然否定されて、ストリアの方に向いた。

 

「ここには、転移封じの魔法陣があって、入ることはできても、出ることは出来ないんです」


 ストリアはぎこちなく答えた。


「無理か。なら、二つめの方法は階段を登ることだが……」


 視線の先には、巨大な門番がいる。

 それをストリアも見て、意味が分かった。

 

「あの門番は、入る者は赦すけど、出ていく者には立ちはだかる」


「なるほど。入口があって入れるけど、出ることができない、ということか。そうなると、三つ目の方法、降りていく方法だが……」


 嫌な顔をし、歯切れが悪く言う。

 

「どうした? どうしてそんな嫌な顔をしている?」


 俺の顔を見ながら、アルフィーが首を傾げている。

 

「だってさ、ここより下はスピアとの前に戦った魔物よりも強いんでしょ?」


「それは当たり前だろ。どうしてそんなに嫌がるんだ?」


 それが、アルフィーには理解できなかった。

 アルフィーにとっての武刀のイメージは、戦うことが好き、というもあり、理解できなかった。


「えっと、俺さ、魔導書がなくなったから、魔術、使えないんだよね」


 苦笑いを浮かべながら、アルフィーを見ないためにも顔を逸らしていた。

 

「え!?」


 そしてアルフィーも、どうして嫌な顔をしているのかも理解した。

 

「もしかして、あの時か?」


 武刀が、スピアに最後の一撃を与えた時のことを思い出した。

あのとき、スピアに痛手を与えたのと引き換えに、魔導書が燃えていたのが思い出した。


「あの時?」


 アルフィーの言う、あの時、というのが俺には分からなかった。

 

「魔導書が燃えた」


「ああ、うん。それ。それで俺は魔法は使えるけど魔術は使えないから、戦えないんだよ」


 魔術を使えば一人前。魔法を使えば半人前。それが俺。

 

「まあよい。私がやるとしよう。そういえば、他のスライムを使役しているような言い方をしていたが、いるのか?」


「うん、そうだよ」


 隠すような素振りをせず、答えた。

 なんせ、特に隠す内容でもなかったからだ。

 

「そのスライム、ここに呼び出したり出来ないの?」


「呼び出せたら、こんなに苦労しないよ」


 そのスライムは、この世界にはいない。

 元いた世界にいる。

 もし呼び出すことができたら、元の世界にだって帰れる。

 呼び出すには、身体にある魔術回路が必要。

 

 そしてその魔術回路は、枷があって使用できない。

 結果、出来ない。ということになる。

 

「それは残念だ。なら、私だけ……いや、ジブラリアもいるじゃないか!」


 良い案を思い浮かんだ、という感じでアルフィーが声を出した。

 

「ジブラリアも戦わせる、てこと?」


「そう。だって元は竜。強いじゃないか


「うん。それは構わないが良い奴、とは限らないぞ」


「どういうこと?」


 アルフィーは意味が分からず、首を傾げている。

 

「この短剣で刺された魔物は、俺に危害を加えることが出来なくなる。お・れ・に・は」


 重要な部分を強調し、分かるように伝えた。

 それが功を奏し、アルフィーは何度も頷いていた。


「なるほど。ならまずはジブラリアを起こさないと話が進まない、ということか」


「そういうことだ。ジブラリアさんやーい。起きろー」


 ジブラリアの真横でしゃがみ、頭を右手の指先で何度も突く。

 指で突く度にジブラリアの頭が揺れる。

 

「ううん……」


 何度も突いたせいか、ジブラリアが目を覚ました。

 

「お! 目を覚ました」


「起こしたんだろうが」


「そうだけど、起こさないと話が進まないからね~」


 目を覚ましたジブラリアは、ゆっくりと起き上がる。

 

「うっ。俺が人になったような夢を」


「夢じゃありません。現実です」


 寝ぼけているジブラリアに、事実を伝えた。

 

「ホントだ」


 呟き、ジブラリアは右手で右の頬を抓る。

 

「痛い。夢じゃない」


 紛れもない事実と知り、顔を下に向ける。

 

「あれ、おかしいな? 俺、男だったはずなんだけど……」


 その一言で、この空間の時が止まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ