二十四話
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短剣を叩きつけられたジブラリアは、その短剣から流れ込む黒い液体にもがき苦しみ、暴れる。
「やめとけ。暴れた所で無意味だ。その短剣から出ているのは呪いに近いものだ。逃れることはできない」
抵抗を続けるジブラリアに説明をするが、より一層抵抗を激しくなる。
「だからやめろって! そんな巨体であばれちゃあ、こっちにも被害がくるの! それを呪いだけど、死なないよ。だから安心して暴れるのやめて」
すると、途端に暴れるのをやめた。
あれ? 言葉が分かるの、かな?
結構協力的だ。
呆気なく抵抗するのをやめたことに、少しばかり毒気が抜かれ、振り向く。
そこには、さっきまで怯えていたアルフィーが、毅然としていた態度でこちらを見ていた。
それを見ていると、
「さっきまで怯えていたのに……」
アルフィーから視線を逸らし、ボソッと言う。
「うるさい!」
顔を真っ赤にして、アルフィーが叫んだ。
聞こえないように小声で言ったはずなのに、聞こえていたみたいだ。
恐ろしい。気を付けないと。
「そんなことより、ジブラリアが包まれている黒い液体みたいなものについて、説明してくれるか?」
「あれか? あれを説明するには──」
アルフィーに近付きながら喋り、
「俺の性癖について喋らないといけないぞ」
「どうしてそうなる!?」
アルフィーが俺の突然の告白に、声を荒げた。
「いやだって、あの短剣は元々俺の性癖を叶えるために見つけたものだし」
「分かった。じゃあ、性癖も一緒でいいから教えてくれ」
「オッケー、オッケー。まず、俺の性癖、というか好意を抱けるのはは異種族、人以外なんだよ」
「え゛え゛!?」
また突然の告白に、アルフィーが次は変な声を上げた。
「どうした? 大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ。私が生きている中で、両手の指に入るぐらい驚きの内容だったからな。少しびっくりしただけだ。続けてくれ」
「そう。で、俺は異種族しか愛せないんだが、あの短剣は魔物や人外を人に変えることが出来るんだ」
「そんなこと、出来るのか?」
アルフィーは、魔物を人に変える能力を初めて聞き、信用できず問いただした。
だけど、既に成功例が一ついる。
「出来るぞ。ほれ!」
まるで気軽に差し出すように、服の下で生体アーマーとして働いていたスライムが、服の袖から出てこさせた。
「うわ!」
服の裾から出てきたスライムの塊に、アルフィーは突然でてきたことに驚いて後ずさった。
「何、これ?」
「スライムだよ?」
「どうして疑問形?」
二人で言い合う中、スライムは人の形になっている。
「それで、彼女、スライムも、短剣を突かれた、ということ? というか、全裸なんですけど!?」
「服がないから、しょうがないんです。ちょっとさっきみたいに丸まってて」
命令を受け、スライムはさっきのように丸まった。
「ふう、これでよし。それでさっきの質問だけど、この子は魔物なのに人みたく喋ったりすることが出来る。あと呪いのせいで、この子は人の姿になることもできるようなになったわけだ」
「そうなんだ。で、裸の理由は?」
人を殺せるのではないかと思うほど、睨んでくる。
「魔物を人の姿に変えるとき、裸になるんだよ」
「なるほど。わざとではない、と?」
「そうなんです。不可抗力なんです」
「なら良かった。もしわざとだったらお仕置きしないといけないし。で、この子に名前はあるの?」
アルフィーはスライム少女にしゃがんで目線を合わせ、手を出している。
スライム少女は器用に手を出し、握手をしている。
「まだ決めてないんだよね。何か案ある?」
「いきなり言われてもな~」
アルフィーが戸惑った表情をして答え、
「何か参考できるものがあるか?」
「参考……」
それは難しい質問だ。
元の世界にいたスライムは、現在……何種類いるんだ?
まず、各種属性。服を溶かすの、大きいの、毒、あとは、あとは。
指で数えながら、名前以前にスライムの数を確認する。
そして指の動きが止まり、
もういいや。まず名前からだ。
名前は大抵、スライムの言葉のスとスラを頭文字にすることが多いからな。
「最初にスかスラが付くことが多いな」
「それって、スライムだから?」
「うん」
「安直だな」
「うっせえ!」
アルフィーは目を瞑って上を向き、スライム少女の名前を考える。
そして、
「ストリア」
「あの言葉、そっくりそのまま返そう。安直だな」
「うっさい! この短時間だと──」
「けど、安直だけど、俺はその名前、好きだよ」
なんせ、武刀のネーミングセンスは酷いものだ。
よほどの物じゃない限り、酷いとは思わない。
そのことに気づかないアルフィーは、頬を少し赤らめる。
「ありがとう……」
名前を褒められたことが嬉しくて、アルフィーは照れた。
それに気づいて、
「あれー、もしかして俺に惚れちゃった?」
少し気味の悪い笑みをしながら言うと、アルフィーは素に戻り、
「次、そんなこと言ってみろ。殴るぞ」
「落ち着けって、冗談だよ」
動揺しながら答えた。
「さてと、君の名だけど」
気分を変えながら、スライム少女の方を向く。
視線に気づいたスライム少女が、人の形の頭が顔を出す。
「お前をストリアと名付けよう」
「はい」
ストリアの頭に右手を置いて名前を告げると、ストリアの身体が光った。
「何! 何が起きたの!?」
「多分、名前を付けたからだろうな」
「どうして?」
「魔物にとって、名前というのはそれほど大事なことなんだよ。一種類の魔物であったこいつが、名前を得たことで個体として認められた、ということだな」
既に頭の中で一つの答えがあったからこそ、スラスラと答えることができた。
「そうなのか。へー」
アルフィーが納得していると、ストリアの光が消えた。
そこには、人の形でワンピースを着たストリアがいた。
但し、ワンピースの色もストリアの肌と同一色で、スライムような質感に見えた。
「服?」
「いつものことだよ。本当は武器とかもついてくるんだけど」
ストリアの身体のあちこちを両手で触る。
それがストリアは居心地が悪いのか、戸惑った顔をするが口にはしない。
「ふむ」
ストリアの頭に手を置いて、
「可愛いなあ、もう」
思わず、抱きしめてしまう。
両手でストリアを抱きしめ、頬ずりをしていると、動かした左腕が痛んだ。
「うっ!」
痛みのせいで口からうめきが零れた。
「だ、だいじょうぶですか?」
ストリアが恐る恐る尋ねてくる。
「うん、大丈夫だよ」
作り笑いを浮かべて答えた。
だが、実際には痛いものは痛い。
それを堪えて、ストリアが気にしないように演技をする。
「左腕を差し出せ」
「ん? はい」
もしかしてバレたのではないかと思いながらも、アルフィーから言われてストリアを抱き着いていた手を開放し、アルフィーに左腕を差し出した。
アルフィーに言われ、痛みを我慢して怪我をしている左腕を差し出した。
その左腕をアルフィーが両手で包む。
すると、アルフィーの手が仄かに光、手から安心する温もりが感じた。
すると、左腕から感じていた痛みが薄れてきた。
「これは……」
「回復魔法だ」
痛みが完全に消えたとき、感じていた温もりが消えた。
アルフィーが左腕から手を離し、傷が感じなくなった左腕を動かす。
ぶんぶん振り回すと、痛みが感じることは全くない。
「ありがとう。助かったよ」
「気にするな。私も助けられたからな。それで、ジブラリアの方はいいのか?」
「そっちは……」
振り向いてジブラリアを見る。
黒い液体、呪いは全身に回っていたが消えてなくなっていた。
「術式が終わった、か。さてさて、何が生まれるかな~」
短剣を取ると、ジブラリアの身体が急激に小さくなり、人の形となって倒れている。




