二十二話
いつもより量が多いです
俺は彼女、アルフィーの元に向かった。
背後で、魔法の気配を感じた。
振り向けば、真後ろの地面には魔法陣が光っていた。
転移? まさか!
光っている魔法陣の上に、スピアが現れ、右腕を後ろに引いていた。
咄嗟に、左腕を身体の前に出してくの字に曲げ、盾にした。
スピアは引いた右腕は、真っ直ぐ、俺の左腕を撃ち突けた。
左腕とスピアの右腕がぶつかった。
俺の身体には防御魔術、障壁が膜のように身体全体に纏っている。
そのため、普通に殴られても痛みはいつもよりは抑えられる。
だけど、左腕に障壁があるにも関わらず、左腕を中心に激しい痛みを感じた。
痛みを感じた瞬間、吹き飛ばされた。
身体が浮き、すぐに背が地面にぶつかる。
地面に背がぶつかり、勢いが途切れずそのまま後ろ吹き飛ばされる。
地面に滑るように後ろに吹き飛ばされ、勢いが途切れたときには、横にアルフィーがいた。
背が痛い。
左腕も痛い。
痛みを堪えながら、身体を起こす。
槍で受け止めた時よりも、衝撃が強かった印象がある。
もしかして、
「お前、さっきが俺が戦っていたのは人形か!」
「人形? あれは私が生み出した分身だ。断じて、人形ではない」
人形じゃない。
というと、分身、というやつか。
どっちみちめんどくさいじゃないか!
未だに痛む左腕を、少し動かす。
それだけで痛みがより激しくなる。
骨にひびが入ったかな?
極力、動かさない方向で行こう。
槍を右手で、今まで以上に短く持つ。
この槍は両手持ちだが、魔術と魔法で二重に強化しているため、片手でも持つことが出来た。
槍を片手で持ち、構える。
今までの魔術は見られているし、スピアに対抗することはできない。
それに、左腕も痛い。
時間を長くかけることが出来ない。
そうなると、大魔術をやるしかないか。
魔導書が二ページ目を捲くる。
「対滅封魔陣」
槍が、白く光る。
それを見て、スピアは警戒する。
今までの戦いを知っているからこそ、槍に変化が起きれば危険なことが起きる、と分かっているはずだ。
何か音が近付いてることに気づいて、目を覚ました。
目を開けると、そこにはムトウが目の前にいた。
彼は立ち上がって、槍を両手ではなく片手で持っている。
もしかして、怪我をしているの?
治癒魔法をしよう、と頭では思っているけど、身体が思うように動かない。
「対滅封魔陣」
ムトウが何かを言った。
だけど、それが私には理解できなかった。
一番必要なのは突破力。
痛みを気にしない精神力、忍耐力。
なら、相手の攻撃を紙一重に躱して倒す。
強化魔術を足にはかけず、右手に、両目を
対象にする。
槍を右手でしっかりと握り、スピアの間合いを詰める。
スピアは両手を握って叩く。
それが合図となり、スピアの周りに魔法陣が幾つも現れる。
魔法!? そういえば、スピアの分身は使ってなかった!
だけど、退くわけにはいかない。
退いてしまえば、あるのは、死だけだ。
魔法陣から、小さい黒い火の球が無数に放たれる。
まるで弾幕だ。
だけど、小さい分、威力も低い。
これなら、少しは耐えられる。
しかし、いかんせん数が多すぎる。
弾幕の薄い部分を進むしかない。
進むための対策を、既にしてある。
魔術で、目を強化した。
それは今よりも早く、今よりも遠く、今よりもはっきりと見ることができる。
本来なら避けられない弾幕も、目を強化したおかげで躱しながら進むことが出来た。
あまり弾幕がない場所まで来れた。
目の前に、スピアがいた。
それは、既にあいつの目の前に来た、ということだ。
スピアが右足を浮かし、回し蹴りをしてくる。
右足はちょうど、俺の頭と同じ高さにある。
前だったら、回し蹴りを受けていた。
だけど、今は左腕を怪我している。
だから躱す。
しゃがんで回し蹴りを躱し、槍を突く。
狙う場所は、唯一地面に触れている部分、左足首。
槍は左足首を狙っていたが、、足の甲をほんの僅かに掠っただけだ。
躱された。
スピアは左足だけで跳んで、身体全体を浮かした。
真上を見ると、スピアはいる。
右足だけを真上に振り上げて。
これを見れば、何をしてくるか分かる。
踵落としだ。
分かった時点で、後ろに下がろうとした。
けど、今状況を考えれば、ある意味好機だ。
だから、後ろに下がらないことにした。
すぐに、踵落としが振って来る。
まだ、避けはしない。
ぎりぎりだ。
言い方を変えれば、当たるかもしれない、ということだ。
だけど、目を強化しているからこそ、躱すことにできると確信していた。
目に自信があった。
振り下ろされる踵落としが、ゆっくりと見えた。
頭の中で、ぎりぎりで避けれることが感覚で分かっていた。
だから、感覚に任せた。
ほんの僅か、左に動いて躱す。
躱し、槍を振り上げる。
振り上げた槍の右すれすれに、踵落としが振り下された。
槍と踵落としは触れ合わず、槍はスピアの顔を狙ったが、顔を左に傾けて躱し、右頬に切り傷ができた。
スピアは踵落としを躱され、着地する。
同時に、振り上げた槍を引き戻した。
着地したスピアは、すぐに右腕を振り払うように裏拳をしてくる。
それを槍の柄で受け止め、上に払う。
さっきまでと違って、思いのほか力が込められていなかった。
多分、着地した直後だから足に力が入らなかったからだろう。
がら空きとなったスピアの身体に、槍を連続で、腕、身体、足を狙って突く。
槍はスピアの身体を傷つける。
だけど、深くは刺さらずに致命傷までは与えることができなかった。
引き戻した槍を、もう一度突き刺そうとしようとした時、スピアが左腕を引いた姿が見え、後ろに下がった。
距離を開き、腰を落として槍で突っ込む態勢を取る。
スピアは、槍で突かれた。
だが、その全ては致命傷ではなく、余裕だった。
だからこそ、スピアの姿は堂々としていた。
だけど、残念。
もう既に布石は済んだ。
チェックメイトだ。
「結べ」
キーワードを呟いた。
すると、スピアの身体に槍で傷つけた右足の甲、右の頬、左肩、左脇腹、左太股に小さな魔法陣が現れる。
その全ての魔法陣を結んだ中心、右胸の魔法陣が出現する。
「なんだ、これは!?」
身体に魔法陣が現れたことで、スピアは動揺して声を跳ね上げた。
「魔法を改良して、生み出された魔術だよ」
「魔術!? 貴様をやれば、この魔法陣は消えるんだな!」
スピアが俺に向かって走り出す。
さっきの堂々とした振る舞いは、すでに消えている。
「ああ、そうだよ」
これなら、もう終わるな。
冷静ではなくなったスピアを見て、思う。
右手、両目を対象にしていた強化魔術を、両足に変える。
求めるのは、速さ。
たった一撃で、全てを終わらせる!
槍を、後ろに引く。
スピアは、冷静さを失って、胴ががら空きだ。
そのがら空きとなった胴に。魔法陣がある右胸を狙い、
身体を前にし、地面を両足で蹴る。
全てが、残像にでもなったように、通り過ぎていくように見えた。
すぐに、槍を突きだす。
早かったからだろう。
今までよりも、槍を貫くことができた。
貫いたのは勿論、右胸の魔法陣だ。
これにより、魔術、対滅封魔陣が発動した。
対滅封魔陣、それは悪魔やその類を殲滅するために作った魔術だ。
この魔術を起動させてから、傷を付けてキーワードを言う。
すれば、傷口に魔法陣が現れ、全ての魔法陣を中心に、別の魔法陣が現れる。
その魔法陣を壊すことで、この魔術を発動する。
効果は悪魔やその類の破壊、もしくは力の封印だ。
大抵は破壊されるが、強い奴に限って、力が封印されるだけだ。
そして、スピアは、強い方だったようだ。
身体の一部だけを残し、頭と胴体の半分を残し、全てが灰になっていく。
「うアアあああア゛ア゛ア゛ッ!」
痛みにより、スピアは絶叫する。
まだ死んでいない。
きっと、あの再生能力が傷を修復している。
どうする? 半端な魔術じゃ、殺しそこなう。
そうなると、選ぶ魔術は一つ! 魔術回路が焼け切れると思うけど、関係ない!
あとで後悔するぐらいなら、やって後悔するほうがマシだ!
「緋炎一掃」
貫いたままの状態で、槍の穂先から真紅のレーザが放たれる。
それは、今まで以上の、太いレーザーだった。
「クソがああアアァァァァァァ!」
自身の身体の内部が焼け切れるのが、分かったのだろう。
今まで以上の憎しみを込めた叫び声を上げる。
そして、レーザーが徐々に、途切れているのが分かる。
魔術回路が燃えているのが、実感する。
左にある浮いている魔導書を、横目で見る。
魔術回路は、何度も使用したことで耐えきれず、焼け切れる。
そして、媒体は紙。
魔導書そのものが、熱によって燃えている。
同時に、今まで片手で持っていた槍が重たく感じる。
魔術が消えた証拠だ。
「おつかれ」
今まで使っていた魔導書にお礼を言い、槍を引き抜く。
突き刺さっていたスピアは、身体に大きな風穴が空き、両腕両足、身体の半分がなくなっている。
緋炎一掃で風穴を開けたスピアだ。
本来なら、倒れているはずだ。
なのに、スピアは浮いている。
「もう、どうでもいい。全て蹴散らせ! 魔竜ジブラリア!」
スピアの背後で、大きな魔法陣が現れる。
そこから、巨大な黒竜が現れる。
同時に、スピアが転移して消えていく。
殺し、損ねた
緋炎一掃を信頼していた。
だからこそ慢心し、この事態が起きた。
黒竜を見る。
大きさとしては目視で十メートル、もしくはそれ以上。
黒竜は身体と同じぐらいの翼で浮きながら、大きく口を開いて
「GYAAAAAAAAAA!!」
吠えた。
それが五月蠅くて、右手で右耳を抑えた。
これは、ちょっときついと同時に嬉しいな。
さて、この獲物、頂くとしよう。
「うふぇふぇ」
口の端から、涎が垂れていた。
気づいたらブクマしてくれる人も増えて、評価してくれる人もいて、びっくりしました。
ブクマや評価してくれると意欲が湧きますね!




