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二十一話

 スピアとアルフィーの戦いは、終わっていることに気が付かなかった。

 そもそも、遠くで戦闘をしていたからといって、戦闘の音に気づかないわけがない。

 そう考えると、戦闘がすぐに終わった。

 力量の差が離れていた、ということになる。

 

「アルフィー!」

 

 槍を持って構えず、アルフィーの元に走る。

 

「ふむ。マナの量が多かったから楽しみだったが、よく見ればエルフだった。マナが多いのも納得だ。む! そちらも終わっ……何をしている?」


 魔術で改造されているスライムを見つけたようだ。

 だけど、


「今はそんなこと、どうでもいい!」


 アルフィーの肩を触る

 

「大丈夫か?」

 

「なんとか、ね」


 答えはするが、前のような元気はなかった。

 

「あとは俺がなんとかしてやる。だからもう、休んでろ」


「お言葉に甘えさせてもらおう、かな」


「おっと」


 アルフィーから力が消え、地面に倒れ込もうとした。

 それを両手で受け止め、なんとか阻止した。

 

「ゆっくり眠れ。あとは俺がやってやる」


 槍を地面に突き立て、彼女の身体を抱きかかえて安全な所まで行き、アルフィーを下す。

 振り向けば、スピアは待っていてくれた。

 

「わざわざ待ってくれたんだ」


「貴様は死ぬんだ。それが僅かに早いのと遅い、という違いだ。その程度のこと、待てなくててどうする」


「そういうことか」


 どっちみち、俺が死ぬのこと確定の話じゃん。


「戦う前に一つ聞きたい。どうして俺のクラス、仲間を逃がした? 殺せばよかっただろう?」


「そんなことは決まってる。あれは餌だが、まだ殺すべきではない。じっくりと育ったのち、殺せばいい」


 スピアの言葉に、少し頭の中で違和感を感じた。

 

「だが、お前は我が配下を殺したせいかマナの量が増えたな。これなら、餌としても申し分ない」


 そういえば、初めに会った時も餌と言っていたな。

 もしかして。

 

「お前は、お前もまた、人を殺せばマナが増えるのか?」


「そうだ。だからこそ、この人が多い場所にこのダンジョンがある」


 魔物も、人を殺せばマナが増えるのか。

 なら、このダンジョンの罠も人を殺して魔物を強くする装置、ということか。

 弱肉強食の世界だな、ここは。

 

 地面に着き刺した槍を、抜き取る。

 槍をスピアに向けて、構える。

 その構えをスピアは見て、

 

「俺の糧となれ。人!」

 

 スピアが右足を地面に叩きつけて、両手両足を軽く曲げて、前のめりに構える。


「俺には、阿崎武刀という名がある。覚えておけ!」


 自身の名を名乗り、スピアとの間合いを詰める。

 

「氷獄封止」


 槍の穂先に、魔術掛かる。

 そのことにスピアも気づいたが、何が起きているか分からず動かずに迎え撃った。

 

 一突き。

 猿顔目掛けて突くが、顔を横にして躱され、柄を右手で払い上げられて槍が真上に跳ね上がる。

 

 必然、胸ががら空きになる。

 無防備な胸に、右足で蹴りをかましてくる。

 だが、そこを槍を両手でしっかりと握って受け止める。

 右足が槍の柄に当たった瞬間、両手両足にズッシリと重い感触があり、思わず吹き飛ばされる。

 

 また、間合いが開いた。

 

 アルフィーが負けるわけだ。

 スピアは肉体派だ。

 魔法しかできないアルフィーには、接近戦を得意とする相手はキツイ。

 

 間合いが開いた今の間に、槍を構える。

 

「爆雷一閃」


 また魔術を唱える。

 槍の穂先に、電流が走る。

 

 こちらは準備万端。

 相手は……。

 

 スピアの方を見ると、俺の方を見て首を傾げていた。

 いや、俺、というよりも槍のほうかもしれない。

 

 さっきの蹴り、あれは俺にではなく、槍を壊す目的でやったのか? 

 なら残念だったな。俺の槍は身体強化魔法で槍を強化してる。

 

 じゃ、いくぞ!

 

 両手に回す強化魔術の分を足に回す。

 一歩、踏み込んだ。

 それだけで、離れていたスピアとの間合いは一瞬で詰まり、目の前に、間近にいた。

 

 俺は慣れている。だけど、スピアは慣れておらず、対処するのが遅れた。

 

 その僅かな時間で、右太股に一突きした。

 直後、視界全体で捉えていたスピアの身体が残像のように見えた。

 反射で、槍を抜いてバックステップをして後ろに下がる。

 

 すぐ後に、さっきまで頭があった場所に、右拳が当たる所だった。

 もし後ろに下がるのが遅れていたら、頭が潰れていたかもしれない。

 

 足を重点に強化しているからこそ、躱すことが出来た。

 だけど、このままでは相手に決定打を与えることができない。

 

 まずは、相手の手足を徐々に削るか。

 

「氷獄封止」


 槍に氷を封じ込め、足の回してた分の強化を両手に回す。

 魔術を掛け直してた時、僅かな隙が出来ていたことに、俺は気づかなかった。

 けれど、スピアは気づいた。

 

 それは、一瞬だった。

 

 まるでさっき俺がした時のように、目の前にスピアがいた。

 スピアは右腕を後ろに引いた状態で、目の前に立っていた。


 やり返された。


 そう気づいたときには、右手が顔一杯に広がり、なんとか柄で受け止めた。

 蹴りよりも衝撃は少ない。


 しかし、蹴られた時とは違って、咄嗟のことだったため、後ろに吹き飛ばされる際に、身体が少しばかり浮いてしまった。

 それを、追撃でさらに間合いを詰めて、右手、左手、右足、左足とラッシュが入る。

 

 前ならば吹き飛ばされていたが、後ろに衝撃を少しでも受け流すようにして、吹き飛ばされるのを防いだ。

 これには、理由がある。

 

 それは、もう後ろに逃げる場所がなくなったのだ。

 そのことに気づいているのか、ラッシュの間、スピアは笑顔のまま拳を叩き込まれる。

 

 防ぎながらそれを見ているとイラッとして、

 

 スピアの右太股が爆発した。

 それは、爆雷一閃の魔術による爆発だ。

 爆雷一閃が引き起こした爆発で、スピアの右太股は吹き飛んだ。

 

 お蔭で、スピアは態勢を崩して片足だけでは立つことが出来ず、地面に倒れようとしていた。

 その隙を見逃さず、殺すべく頭に槍を突き刺した。

 が、刺さったのは頭、ではなく左手だった。

 

 スピアは頭に刺さるのを回避するため、左手を犠牲にして頭を守った。

 だが、氷獄封止が左手を氷漬けにし、左腕にまわろうとしようとした。

 

 その前に、右手でまだ氷はまわっていない左腕を切り落として、右手で地面を押して身体を浮かして間合いを離した。

 スピアは、左手、右太股をなくした。

 その隙を、俺は逃すわけはない。

 

 槍で貫いたままのスピアの左手を適当に投げ飛ばし、スピアに近付こうとしたとき、足が一瞬だけ止まった。

 なぜなら、四肢の内半分をなくなしていたスピアは、一瞬で元通りになっていた。

 

 再生能力。けど、右太股の傷は治っていなかった。

 となると、大きな傷にならなければ再生しない、ということか?

 

 復活した様子を見て、一瞬で思考する。

 

 スピアは左足を地面に着け、こちらを迎え撃つべく、構えている。

 そんな相手が構えている所に突っ込もうとはせず、突撃するのをやめて橋の中央に近付く。

 

 スピアは腕や足は消えても生えてくる。

 その場合、倒す方法としいては一瞬で消すか、生えるよりも消すか、人の心臓や脳みそみたいな大事な部分を潰すか。

 

 やる場合は、大事な部分を消す方法だな。

 現状はこれしか最善策はない。

 爆雷一閃と氷獄封止は見られた。

 緋炎一掃は冷却中だが、出力を抑えればなんとか一発は出来る。

 

 狙ってみるか。

 場所は胸。人では心臓がある場所。

 


 槍を構える。

 穂先は未だ、氷が封じ込められている。

 スピアは仁王立ちのまま、こちらに近づいて来る。

 俺は走り、間合いを詰める。

 

 相手はもう、今の魔術の特性を知っているはずだ。

 なら、対応してくる。

 そのはずだ。そうあってくれ!

 

 神頼みをし、スピアの胸目掛けて突き刺す。

 だが、それは胸の一歩手前で止まった。

 無理矢理押し込むが、槍は僅かに揺れる程度で進みはしない。

 

 スピアが穂先と柄のギリギリを右手で握りしめ、槍が動くことが出来なかった。

 だけど。

 

 考えていた通りに動くと、それだけで嬉しい。

 思わず、笑みが零れてしまう。

 その笑みが分からず、スピアが眉を顰めているのが見える。

 

 分からなくていい。もう、胸に風穴が空くんだから。

 

 緋炎一掃

 

 一言、胸の中で告げる。

 すると、槍の穂先が真っ赤に燃えた。

 それに気づいたスピアが、槍を振り上げようとした。

 

 だが、遅い。

 スピアの胸に、槍から放たれる真紅のレーザーが貫き、風穴を開けた。

 緋炎一掃は魔物の群れで使ったよりも、細い。

 

 けど、貫いた。

 貫くだけで、十分だ。

 すぐに、緋炎一掃をやめる。

 魔術回路が焼け切れるギリギリの状態で、やってきたのだ。

 もしこのままし続ければ、魔術回路が焼け切れてしまう。

 

 槍から、スピアの握る力が弱まって来るのが、伝わる。

 スピアの手から槍を抜き取り、距離を取る。

 

 さっきまでは槍を握っていたお蔭で立っていることができたが、両足だけではもう立っていることもできず、倒れた。

 倒れたスピアは、肉体がボロボロに朽ち果て、灰のように消えていく。

 

 倒したんだ。やっと、倒したんだ。

 この少ない手札。危険な場所。

 危ない戦いだったが、なんとか勝つことが出来た。

 

 アルフィーの方に顔を向けば、彼女はまだ目覚めていない。

 スライムの方は、もう魔術が終わっていた。

 その証拠に、黒い液体は既に消えている。

 

 槍を右手だけで持って右肩に乗せ、俺は彼女、アルフィーの元に向かった。

 

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