二十話
俺たちがいなくなったあと、アルフィーは魔物に囲まれ中に行くことはできなかった。
だから、身体強化魔法を使って魔物の群れを飛び越えて、アルフィーの隣に着地した。
「まだ無事そうだな」
無事な事を確認し、バッグから魔導書を取り出す。
「助けに来てくれたのか?」
「う~ん。助ける半分、魔術使う半分。といった所だな」
魔導書の背表紙にある魔術回路を起動し、魔導書は一定の距離で浮いている。
これで準備は万端。
自立術式は起動した。
あとは……。
奥で座っているスピアを睨む。
「餌が一匹増えたか。まあ、雑魚だがしょうがあるまい。皆の者、食い散らせ」
その一声で、周りにいた魔物どもは襲い掛かってきた。
「来るぞ! ムトウの魔術、見せてもらえるんだろう?」
「おう! 期待しとけよ。周りの雑魚は俺がやっとくから、スピアは任せたぞ」
考えるだけで魔導書は自動的にページを捲り、強化魔術、防御魔術は発動する。
もう一度肉体強化魔法で、身体全身と槍を範囲にし、掛け直す。
強化魔術は武器にも対象を選ぶことができたから、躊躇なく肉体強化魔法をやってみたが、成功した。
さてと、先にどれを、いや、残すか。
魔物は、猿、剣、人形、犬、スライムその他諸共。
種類が多すぎる。
これは少し悩むが、スライムにしよう。
一応、家に全種類のスライムを揃えているが、異世界のスライムが欲しい。
というわけで、スライム確保作戦、決行。
そんじゃまずは!
前に走る。
たった一歩踏み出すだけで、前にいた猿の魔物が目の前にいるほどに近付いた。
近づき、槍を猿の魔物の胸に添えた。
魔導書のまた、自動で捲られる。
アルフィーの道を切り開くとしましょうか!
槍から、真紅レーザーが放たれる。
レーザーは猿の魔物の胸を貫き、触れた部分はレーザーの熱で溶けていた。
さらに後ろにいた魔物にも、その後ろにいた魔物にもレーザーは貫き、そして、一筋の道が出来た。
レーザーが通ったあとは、魔物の骸が出来上がっていた。
「ここを通れ」
「助かる」
アルフィーは、俺が作った道に進む。
だけど、それを止めようと魔物共が邪魔を、襲い掛かろうとしてくる。
「俺を、無視すんじゃねえよ!」
レーザーを放ったままの状態で、槍を左に薙ぐ。
真紅のレーザーは槍の跡をなぞり、レーザに切り裂かれた魔物、全てが両断されて死体と化した。
レーザーを放つのをやめて槍を反対の向きに持ち替え、右側にいる剣士の銅像の魔物に突き刺した。
普通ならば硬いはずの剣士の銅像の魔物も、肉体強化魔法に加えて強化魔術と二重に強化しているため、簡単に突き刺すことができた。
そして、魔導書の魔術回路が起動し、またしても槍から真紅のレーザーが放たれ、胸を貫く。
レーザーを放ったまま、槍を右に薙いで魔物を両断する。
レーザーは消えると、両断された魔物は上半身、下半身が地面に転がった。
既に、アルフィーはスピアの所に行った。
俺は、ここにいる魔物がアルフィーの所に行かないように、通せんぼをするとしよう。
「半分やられて残り半分。速攻でやるとしましょうか、ね!」
もうレーザーを放つのをやめ、肉弾戦を行った。
猿の魔物の振り下してくる爪を槍を横にして受け止め、蹴り飛ばす。
すると、隙を狙って左側で通り過ぎようとする狼の魔物の頭に槍を突き刺し、魔物の群れに投げ飛ばす。
魔物の群れに死んだ狼の魔物はぶつかり、魔物の群れは下敷きになった。
それでもまだ、下敷きになっていない魔物が襲い掛かってくる。
攻撃をなんとかいなしつつ、考える。
さっきの魔術、緋炎一掃は火力が高すぎる分、すぐに魔術回路が焼け切れちまうから、今は冷却中。
現在の攻撃系の魔術は四つ。
一つは大魔術。それはここで使うような状況ではない。
一つは現在、冷却中の緋炎一掃。使うことが出来ない。
そうなると、残り二つで戦わないといけないことになる。
隙を見てバックステップをして、魔物との間合いを遠ざけ、魔導書が捲られる。
「氷獄封止」
槍の穂先は、魔術によって全てを凍らせる氷そのものを封じ込めらている。
「さて」
目の前の蛇の魔物に、槍を突き立てる。
槍に触れた部分から、蛇の魔物の身体に一瞬して凍らせる。
氷の彫像を無視し、魔物の群れを見る。
最初のときよりはだいぶ減ったが、それでもまだ数が多い。
氷獄封止は、一気に倒せるわけじゃない。
こうなれば、魔物を一気に倒すとしよう。
だけど、問題がある。
目標のスライムを、巻き込んでしまうかもしれない。
だが、目標のスライムは群れから少し遠い。
なら、やれるはずだ。
「爆雷一閃」
強化魔術を足に集中させて腰を低くし、槍を引き、一歩踏み込んで群れの中に突っ込む!
たった一突きで、前にいた魔物の群れはいなくなり、背後で大きな爆発が起きた。
振り返れば、魔物の群れは爆発に巻き込まれて全て倒れている。
そして右には、スライムがいる。
スライムは青く、人を簡単に飲み込むほどの大きさがあり、見た感じはゲル状だ。
スライムはこちらに向かって急いで、移動してきている。
迫力としては、車みたいだ。
槍を地面に突き刺し、短剣を取り出す。
短剣には赤色の鞘に入れられていて、鞘を抜き取る。
そこにあるのは、魔導書と同じように魔術回路が刻まれている。
刃は漆黒で、血管のような赤い線が短剣の刃に描かれている。
こちらに向かって襲い掛かってくるスライムに、短剣を突き刺した。
スライムに短剣は突き刺さり、弾力があって反発するような感触が短剣から伝わる。
ダメージが入っているようには思えない。
だからこそ、スライムは短剣を突き立てられたにも関わらず、スライムは反撃をしようとする。
が、その前に短剣に刻まれた魔術が起動した。
短剣から真っ黒い液体のようなものが、スライムに流れ込む。
スライムは魔術を浴び、もがき、苦しむ。
だけど、その苦しみから逃れることはできない。
短剣から手を離すと、短剣は落ちずに未だスライムに突き立てられている。
魔術は起動した。
終わるのには時間が掛かるから、アルフィーの方を手伝うとするか。
地面に着き刺した槍の元まで歩き、槍を回収してアルフィー、そしてスピアを見る。
スピアは、最初に会ったときと違って経っていた。
そしてアルフィーは、満身創痍で地面に左ひざをつけていた。




