十九話
久しぶりの投稿。遅れてすいません
魔物が突然現れたことで、周りの皆が恐慌状態に陥った。
何せ、スピアを見た時には力の差を感じ、さらに今まで見た事ないほど、強そうな魔物が現れたことで拍車がかかった。
だが、いつでも襲える態勢ではあるが、襲ってはこなかった。
その間に、まだ戦える状態の、俺、アルフィー、護衛の騎士の内、騎士が声を上げた。
「全員戦闘隊形。これより撤退を行う!」
同じ時に、
「死ぬがよい」
スピアが上げていた右手を、振り下した。
魔物は襲い掛かり、勇者と戦いが始まった。
魔物の強さは、今まで戦った魔物よりも遥かに強かった。
だけど、勇者達の方が強かった。
新堂は槍を生み出して投擲し、接近してきた魔物には剣を生み出して一閃し、斬り伏せる。
安藤は透明の弾丸を放射し、近づかせる暇もない。
唯は無数の魔法を放ち、魔物を攻撃したり、味方を支援する。
そして、俺や裕一といった能力が攻撃ではない者達は、兵士と協力して攻撃しながら、後退していた。
「このままじゃやばいな……」
槍で魔物を突き刺し、魔物からの攻撃を受け流していた。
今はいいかもしれない。
だけど、前の方と違ってこっちには攻撃する能力が誰もいない。
護衛として兵士は何十人もいるが、まるっきり戦力としては数えられない。
兵士が弱いわけではない。
魔物が強いのだ。
「これより、魔法を使います!」
中央にいたアルフィーが、皆に聞こえるように大声で言い、足元に魔法陣が現れる。
持っている杖は両手で持って、高々と掲げる。
杖の先から小さい火球が生まれ、徐々に大きくなり、人を簡単に飲み込むほどまでに大きくなり、杖を振り下す。
その杖の先は、後方で戦っているクラスメイト達の方向で、巨大な火球はゆっくりと魔物の方に移動する。
前を向いているせいで、後ろの火球に気づくのが遅れた。
気づいたのは、後ろがやけに熱いな、と異変を感じた時だ。
魔物との間合いを離し、少し顔を後ろに向ける。
すると、視界一杯に火球があるのに気づき、
「裕一、避けろ!」
横で火球に気づかず戦っている裕一に、咄嗟に叫んだ。
「え?」
名を呼ばれ、裕一はこちらに目線を向けた。
そして、視界の端に火球が見え、急いでしゃがんだ。
その隙を狙って、しゃがんだ裕一に魔物が襲い掛いかかった。
だが、その魔物は運悪く火球に触れ、触れた部分が燃えてゆき、全て飲み込まれて消えた。
火球進行方向にいる魔物、全てを呑み込みながら進んでいく。
魔物も恐れ、火球に触れないように離れていく。
そして地面に触れた途端、爆発して周りに火炎をばら撒いた。
「ほう……」
その光景を見て、スピアは楽しそうに笑い、右腕を上げる。
すると、今まで襲っていた魔物が戦うのをやめて、後ろに下がって行く。
魔物達が下がって行くのに気づき、クラスメイト達は戸惑う。
なにせ、何の予兆もなく下がったのだ。
何かするのではないかと思い、逆に不気味だった。
構えたままの状態でいると、遠くからスピアの響く声が聞こえた。
「雑魚ばかりだと思っていたが、面白い魔法使いがいるな」
魔法使い、ということはアルフィーだろうか。
ついさっき、魔法を使った所だし。
「貴様達に選択肢をやろう。このまま戦うか、それとも、魔法使いを置いて逃げるか。逃げるのであれば、後ろのゲートを潜るといい。すれば、帰れるさ。さあ、貴様達はどうする? 逃げるか、戦うか」
「そんなの、戦うに決まっている!」
新堂が荒い息をしながら答える。
傷は全くない。
けど、いつものような凛々しい顔をしておらず、疲労の色が見える。
魔物の方を見れば、後ろにいる魔物よりも前にいる魔物の方が強そうで、且つ数も多かった。
「そうか、戦うか。ならば」
スピアが右手で音を鳴らした。
その音が合図となり、後ろから何か大きなものが動く音が聞こえた。
皆が振り向くと、そこには巨大な甲冑の騎士がいた。
「ひっ!」
女子生徒の一人が、悲鳴を上げた。
その理由は分かる。
大きすぎるのだ。大きさが馬鹿げている。
ゲートから騎士の魔物が、屈んでゆっくりと出てきている。
騎士の魔物の大きさは、ゲートよりも大きいと思う。
身体を屈めてゲートから出ているから、そういう予想が出来る。
周りの魔物をなんとか倒したとして、あの巨大な騎士を倒すのには骨が折れる。
それに、クラスメイトの心が折れないかも、心配だ。
魔物と戦ったことが今日が初めてのクラスメイトに、この戦いはきつい。
休む暇すらないのだから。
「私が残ればいいのか?」
考えている時、中央にいたアルフィーが前に進んだ。
「やめろ! そんなことをすればあなたが!」
横に来たアルフィーを、新堂が腕を掴んで止めた。
「死ぬ、か? そんなこと知っている。だが、国としては私の命よりも勇者の命のほうが大事だと思うが?」
彼女は新堂、ではなく騎士のほうに問いかける。
騎士はゆっくりと頷き、新堂の元まで行き、
「すまん」
「なにっ」
新堂の後ろ首に手刀を叩き込み、気絶させた。
倒れる新堂を騎士が抱える。
「全員、撤退するぞ」
抱えたまま全員に告げる。
反対の声はどこからもでなかった。
みんな、心の中ではもう戦いたくない、と思っていたのだろう。
「本当にすまない」
騎士は申し訳なく言い、去って行く。
勇者たちも、戦闘の疲れ、一人残していく気まずい気持ちのせいで、足取りが重かった。
魔物達二手に分かれ、後ろのゲートの道を譲った。
もしかしたら襲ってくるかも、という不安から、武器を構えたまま歩いたが、襲ってくる様子を見せない。
ゲートの方にまで来ると、真横にいる騎士の魔物がいかに大きいか、それが分かってしまう。
真横にいても、騎士は動く素振りは見せない。
本当に襲ってこないのだろう。
ゲートを潜って、クラスメイト達はゲートの中に入って行く。
俺は入らなかった。
やっぱり、やりたい事がある。
それが心残りで、ゲートには潜れなかった。
「どうしたんだ?」
立ち止まっていると、裕一から声を掛けられた。
気づけば、ここにいるのは俺と裕一だけだった。
「まさか、置いて行くのが心の残りなのか?」
それを言われ、俺は口を噤んだ。
言いたかった。だけど、言えなかった。
だけど、黙っていた俺を裕一は肯定と考えた。
「やっぱり、か。だけど、俺たちが残っても何もできない。そうだろう?」
「そう、だな」
「なら!」
「それでも」
裕一の身体を押しだし、ゲートの中に入れる。
「俺にはやりたいことがある。だから、先に行ってろ」
ゲートに入った裕一の身体が、全て消えた。
「行くか」
振り返り、アルフィーの元に行く。
そして、良い事もある。
人がいない。ということは、本性を晒しても問題ない、ということだ。




