十八話
「ここ、どこだよ!」
安藤の取り巻きの山口が叫ぶ。
橋の上ですけど。
思っただけで、言ったりはしない。
言ったら睨まれると思うし。
周りにいるクラスメイトは、いきなり知らない場所に飛ばされて、困惑している。
勇者召喚の時もあって、二度目の経験だからそれほど騒いだりはしない。
だけど、あの時と違ってここは橋の上。
それに、周りには人がやった、という痕跡が全くない。
それは、嵌められた、ということになる。
そのことが分かっているクラスメイトもいて、武器を構えて辺りを見回して警戒している者もいる。
護衛である兵士達は、怯えている。
かなり動揺している。
騎士は兵士ほどではないが動揺している。
けど、警戒はしている。
見て分かるが、騎士もここは知らないらしい。
俺も魔物が来たら、魔術を使うことは決めている。
だけど、本当にここはどこだ?
戦う前に、この場所を知らないといけない。
知っていれば、不覚を取ったりはしない。
橋の端をきて、下を覗く。
まず、橋の端には安全柵なんてものはない。
だから、落ちることもある。
そして落下すれば、底は深すぎて見えない。
死ぬな……。
下から目を逸らし、元の場所に戻る。
戻りながら、
「アルフィー。ここがどこか知ってるか?」
「いや、知らない。ここは初めてだ」
彼女は首を横に振る。
前を見れば、内側が虹色に光る石で出来た五メートルの大きなゲートが。
後ろの方にも前と同じ石のゲートがある。
これはどちらを進むべきだ?
そのとき、
「みんな落ち着いて!」
新堂が声を響かせる。
それだけで、兵士や騎士、クラスメイト達は新堂を注目する。
「ここがどこなのか、一先ず後だ。まずは、戻ろう。ここにいては危険だ」
その声を合図に、一丸となって後ろに下がり始める。
これは俺もここから離れたいから、特に何も言わずに振り返って、下がろうとした。
だけど、振り向く際、何か見えた。
黒い炎みたいな、何かが。
振り向くのをやめて、前を見る。
そこには、黒い炎が大きく広がり、一塊となって消えた。
そこには、玉座に座った、人の姿をした魔物が座っていた。
腕はトカゲ、足は獣、翼は蝙蝠、顔は猿で側頭にはLの形をした二つの角がある。
身体は黒く、目は赤い。
一目見て、化け物だと思うし、この化け物はこちらを見て愉悦に入って見下している。
「どうし……た」
アルフィーが動いていない俺を見て、その視線の先にあるのを見た時、止まった。
「餌が来たと聞いて来てみれば」
人型の魔物が口を開いた。
その声は野太くはっきりと大きく、かなり離れている俺たちにも聞こえるほどだ。
今まで聞いた事ない声を聞いて、後ろに下がっていたクラスメイト、騎士、兵士は振り返る。
「たかがこの程度とはな」
魔物が勝手に落胆している。
「お前は何者だ!」
新堂が堂々とした魔物に恐れず、叫ぶ。
「俺か? 俺は魔王様に仕える四天王の一人、スピア」
途端に、ピリピリした、皮膚を通り越して心臓を圧迫するような、痛みが感じた。
これは、この感覚は知っている。
殺気、と呼ばれるものだ。
「四天王……」
「あれが四天王?」
周りにいる人間が、口々揃えて怯えている。
横にいるアルフィーも、膝が震えている。
「大丈夫か?」
「あ、ああ。大丈夫だ」
アルフィーは頷くが、その声は震えている。
こういったこと、俺も味わったことはある。
圧倒的に強い相手と対峙した際に、力の差を感じて身体が震えたりすることがある。
良く見れば、他の者も震えている。
俺は震えたりはしない。
なんせ、この経験は既に味わったことがある。
震えたりはしない。
スピアと名乗る魔物は、ただ座っているだけでも風格があるのは分かる。
魔物であっても、今まで見た魔物とは全く違うのは、一目見ても理解できる。
「そんなに恐ろしいか? なら、我らが糧となって散れ」
座ったままの状態で右手を上げる。
すると、俺たちの周りを囲むように、何もない場所から突如魔物が現れた。
現れた魔物は、戦ってきた魔物よりも強そうで、醜悪な見た目をした魔物もいた。
「死ぬがよい」
上げた右手を、振り下した。




