十五話
「で、魔物を倒せばマナが増える、と?」
「うん」
今は昼過ぎ。
といっても、いつもより早い。
クラスメイトはまだ来ていない。
食堂に集まり昼食を取っている時に、裕一に説明した。
「魔物を倒す前に、俺たちはここからでれないから、無理だよね」
「そうなんだよ。だけど、いずれは外にでれるから、それまで待たないとな」
「何の話をしてるの?」
二人で話していると、昼食を持ち唯が立ったまま会話に入って来る。
「能力についてだよ」
「どういうの? 教えてよ!」
興味津々と言った様子で、横に座る。
「ああ、それはね──」
「神山さんは、俺の噂を知っても話すのは平気なの?」
話そうとすると、深刻な顔をした裕一が入りこむ。
「噂?」
裕一の言葉の意味が分からず、唯は能天気な顔で首を傾げる。
すると、遠くから唯の名を呼ぶ女生徒の声が聞こえる。
それは、いつも唯と一緒にいる女子グループからだった。
彼女はその声を聞き、
「私、ちょっと行ってくるね」
唯は昼食をここに置いたまま、友達の元に向かう。
「噂か、それで裕一は一人なのか。俺も噂があるのかな~」
「それは噂じゃなくて、いきなり見た目が変わったせいで戸惑ってるだけだと思う」
「あ! そうなの? 噂じゃなかったの? 良かった」
元の世界じゃ、噂というか色々と言われたな~。
男女平等主義者。人外好き。人外収集家。化け物。変態。悪魔。死神。異常性癖。
他になんて呼ばれていたっけ?
水を飲みながら考えていると、唯が戻って来た。
「噂聞いたよ。玄道君」
何の噂だろうか、気になる。
「レイプしたんだって?」
「ゲッホッ!」
予想を遥かに通り過ぎた答えに、思わず水が気管に入って、右手で胸を叩く。
「どうしたの! 大丈夫?」
その動作を見て、唯が後ろに回って背中を摩る。
お蔭で落ち着き裕一の方を向き、
「それは、本当なのか?」
真剣に聞く。
彼は俯いたまま、答えない。
表情も、暗い。
「裕一、勇気あるな。俺だってやったことないぞ」
「え?」
俯いて黙っていた裕一は、びっくりした顔でこちらを見ている。
「いやさ、俺はそういうことあんまりしないんだよ。どちらかというと、和姦だよ。最初は、逆のほうだけど従順になるし、あ! 今でも逆に襲われることあるな」
思い出しながら答えていると、後ろにいた唯が聞いていて、
「そういうのが好きなの?」
純粋な顔をして尋ねてくる。
彼女の存在を完全に忘れていた。
女子が近くにいるならば、こんな話はしない。
だから、いつもはこんなことはあまり、……考えればよくあるけど、対応するときに焦ってしまう。
「いやね、そのね、好きとか言うじゃなくてえっと、あの、その」
脂汗を浮かべながらしどろもどろになっていると、
「ひ、引かないの?」
恐る恐る、裕一が聞いて来る。
「「え?」」
二人は何の話か分からず、首を傾げる。
彼らの頭の中には、既に裕一の噂が消え失せていた。
「その、レイプしたとか」
「ああ、そのこと!」
唯が左手を叩き、思い出した、というジェスチャーをする。
「私は気にしないかな。見た訳じゃないし、噂でしょ? 噂なんて、遠くにいくたび変わるたびものだなの」
唯が腕を組み、言う。
「噂なんて所詮噂。本当かどうか分からないものだ」
漫画の受け売りだけど、と小声で言う。
「それに、本当ではない噂なら毅然としろ。じゃなきゃ、周りからはやった奴だと認知されるぞ。違うならとことん抵抗しろ。今のお前は、認めているように見える」
「そう、だよね。ありがとう」
裕一は今まで、あまり笑ったりすることはなかった。
だけど、この時だけ違った。
彼は明らかに笑った。
涙を浮かべ。
「何があったか話せ。力になる」
「そうそう。私も力になるよ」
俺と同じ気持ちなのか、唯も力になる、という。
「本当にありがとう。それは──」
裕一はぽつぽつと喋り始める。
全て聞き終え、
「古典的なやつだな。誘われて押し倒された風な状態で写真を撮られる、悪質だな」
かなり悪質な手段に、辟易する。
取られた写真で脅され、奴隷みたいにされ、最後にはばらされた、ということらしい。
「私、その写真見た事がある」
「マジ? 見せて」
「ごめん。ケータイは……」
「ないのか。すまんな」
唯が申し訳なさそうな顔をしたので、すぐにフォローする。
「で、その相手だが」
「安藤達だよ」
「誰?」
裕一から出た人名が分からず、首を傾げる。
「あれだよ。倒れた平野を助けようとした」
首を傾げている時に、唯が教えてくれる。
それで、やっと分かった。
「あの、金髪不良か! よし、殺ろうか」
「何をやるの?」
唯は純粋すぎるせいか、まだこの言葉が分からないらしい。
「唯は知らなくていいことだ。これから男同士の話になるから、友達の所に戻っておいで」
「ええ! 今まで一緒に話してたのにー?」
彼女から不満の声が漏れる。
だけど、残念。
純粋な娘を相手する手段は心得ている。
「かなりエロイ話をするよ」
「うっ! 戻る」
唯の顔が赤くなり、トボトボと戻って行く。
純粋ない相手ほど、その言葉の意味が分からないものだ。
聞くときも、意味が分からないこそ、平然と言える。
なら、分かりやすくいえばいい。
「さて、裕一。どう対処するか話を──」
その時、食堂に金髪不良の安藤が入って来たのが見えた。
「するのは、あとで、だな」
裕一も安藤が来たのが分かったらしく、頷く




