表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
126/126

百二十六話

「お疲れ様。色々災難だったようだな」


「ええ、まあ」


 武刀は元の世界に戻ってきた。

 そして今、魔術極東本部の本部のビルで本部長と話をする。

 まるで、仕事をする前の事を思い出す。

 

「世間はまるで何事もなかったようだが、君はどうだい?」


 転移した事は世間では気づいていないらしく、本部長が言った通り何もなかったような感じだ。

 ただし、転移した本人は元の世界とこの世界の時間の隙間があり、困惑しているらしい。

 

 当然だ。

 記憶を消したのだから。

 そのため魔術師がサポートしている、という話を聞いたことがある。

 

「俺の方はどうにも。色々大変なのはいつも通りですよ」


 新しい三人、アルフィー、ストリア、ラックスを紹介した時は色々あった。

 まず、ストリアはスライム組と仲良くできていた。

 

 アルフィーについては、魔法の本に夢中のようで絶賛引きこもり中。

 ラックスは仲間を失って悲しんでいるが、ストリアの協力もあってスライム組とも仲良くできたし、他の女の娘達も仲良くできた。

 

 それは良いのだ。

 問題は次だ。

 

 万里が枷のパスワードをばらした。

 これにより、枷のパスワードを設定したヴァルは一週間の謹慎を言い渡された。

 

 謹慎、というのは俺に一定範囲近付いてはいけない、というものらしい。

 会話はできる。

 

 ヴァルが謹慎の間、白が代わりを務めてくれる。

 ただし、彼女はペーパードライバーなので運転が不安でしかたない。

 さっきも死ぬかと思ったぐらいだ。

 

 そしてその枷を解除した万里が、皆の前で二人っきりで買い物に行こうと誘われた。

 当然、それは周りの娘達が反対したが万里が助けたよね? と脅されれば万里に従うしかなかった。

 

 他の娘を許してもらうために、自分の身を削るのはあまりしたくない。

 今回はこれぐらいだろうか?

 

「それで君に提出してもらいたい物だが」


 来た! 本命!

 

 今回、武刀がここに来た理由といってもいいだろう。

 

「提出してもらうのは報告書と始末書ね」


「はっ!? ちょっと待ってください。どうして始末書出さないといけないんですか!? ちゃんと全員生還させましたよ」


 武刀は焦った様子で本部長の元まで詰め寄り、机を両手でバンッと叩いた。

 

 書きたくない。絶対に書きたくない。

 なんとかして、書かないようにしてみせる。

 

「知ってるよ。それは凄いね。けど、君がいるのに、どうして転移されちゃうの? 解除できたかもしれないだろ? だから書いて」


「ふざけ……」


 武刀は怒りのあまり、言葉が喉で詰まる。

 

 それはあまりにも理不尽というものだった。

 

 枷を付けろ、といったのはそっちで枷がある状態でどうしろと!?

 こっちは枷があるとただの人間なんだぞ!

 

 なのに、どうやって解除できたと?

 ふざけるな!!

 

 武刀は深呼吸をして一度冷静になり、頷いた。

 頷くことしか出来なかった。

 

「分かりました。後日、報告書と始末書を提出にしに来ます」


 武刀は本部長に頭を下げ、部屋から去っていく。

 

 

 

 

 

 ビルの前には一台の車が止まっており、中には白がいた。

 

「おかえりじゃのう、遅かったが何かあったのか?」


「まあ色々とね。報告書はいいとして、始末書も書かないといかなくてね。当分は構っていられないよ」


「そうか、それ残念だ。じゃが、今日は生気を養え。まだ帰って来てあまり経っていないからのう」


「そうだな。そう……」


「私も色々と休むかの」


 それ、俺が休めないパターンでは?

 

「というわけで、どっかホテルに行こう」


 凄いキラキラとした目で、白は言う。

 こんな状態、あまり見ることはない。

 それだけ興奮している、ということだろう。

 

 だから、

 

「いいよ。だけど、今回限りだからな」


「よし」


 許してしまった。


 自分の身体を休ませるには、やっぱり好きな娘が楽しい、嬉しい所を見ているのが一番だな。

 

 まあ、俺の場合はそれが多いんだけど。

 

「早く乗れ」


 そんなに嬉しいんだ。

 

 急かす白が愛おしく堪らなくて、武刀は車に乗ろうとした視界の右側の隅に人が入った。

 

 いつもなら気にしないが、今回ばかりそうもいってられなかった。

 そこには、裕一がいた。

 彼は二人友達と楽しそうに話し合い、こちらに向かって来ていた。

 

 戻って来てからずっと思っていた。

 俺はどうすれば良かった、と。

 記憶を消すのだ。

 最後の

 武刀は乗ろうとしたのをやめて、右側に目を向ける。

 関わりなんてないのと同じだと。

 

 武刀が考えている間に裕一は近づき、すれ違った。

 それが武刀からすれば、答えのように思えた。

 

「どうしたかの?」


「いや、なんでもない」


 武刀は横に首を振り、車に乗った。

 白が運転する中、武刀は思う。

 あれが一つの答えだったのではないか、と。

 

 

 

 

 

 武刀達二人はホテルから家まで到着した。

 普通に帰れば、こんなに時間がかかることはない。

 そのため、ホテルに行ったことがばれる可能性もある。

 

「落ち着こう。そして離して。見つかったら俺が死ぬ」


「気にするな。私は気にしないからのう」


 車から降りてすぐ、白は武刀の左隣に並んで左腕に抱き着いた。

 左腕に抱き着く白に、武刀はなんとか離れてもらおうとするが、白は石のようにびくともしない。

 

 さらに、白は立ち止まろうとする武刀を無理矢理歩かせ、武刀が引きすられるような形になる。

 

 家の玄関を白に開けられ、武刀はしょうがなく家の中に入った。

 入ってすぐ、武刀は待っている者がいないがを探していないと知り、安堵する。

 

 ばれないよう静かに家の中に入ると、リビングの扉が開かれてフェンが現れた。

 

 フェン! やばい。匂いでバレル。

 

「おかえり! 遅かったね!」


「ああ、色々あったからね」


 武刀は内心焦りながら策を考えるが、何も思い浮かばない。


「長引いてここまでかか──」


「白から精液の匂いがする!」

 

 あ、ばれた。

 しかし、白が白を切れば、なんとか……。

 

「白! やったの?」


「やったに決まっておろう」


 うっとりするように、白は赤くした頬を両手で当て照れながら答える。


 あ、終わった。

 

 武刀は世界の終わりが訪れたような気がした。

 さらに、それを加速させる者が現れた。

 

「よくやったわ! フェン」


 リビングの扉が開き、興奮した様子で万里が現れる。

 

「さあて、詳しい話はあってで話しましょうか」


 万里が右手を握って親指だけを伸ばして親指はリビングを刺し、そこからはトーテムポールのように女の子達が顔を縦にして並んでいる。

 




 

「私達にお礼の品を送るのは当然だと思うんだけど、あなたはどう思う?」


「当り前です」


「お礼~お礼~」


「僕は当然の事をしたからいらないけど、どうしてもというなら貰うよ」


 白と家に帰って早々、この通話である。

 帰るのが遅れたため問い詰められ、白があっさりゲロった。

 

 おかげで、今まで散々な目にあった。

 もう勃たない。

 だけどどうしよう。

 夜の行事は残ってる。

 残りのマムシはあっただろうか。

 

「聞いてる~」


「悪い。現実逃避して聞いてなかった。それで、用件はなんだっけ? お土産?」


「それよ。私八つ橋」


「自分も八つ橋~」


「私も同じものを」


「なら僕も皆と同じ物がいいな」


「俺、京都まで行かないといけないの? まあ、なんとかするけど……あとアルフレッド。お前いらないんだよな? 言ってたよな」


「そんなこと言った覚え、僕にはありませんよ」


 こんにゃろ。

 

 しれっとアルフレッドは嘘をつく。

 しかし、助けてもらったのは事実だ。

 何かしらの物を返さないと駄目だろう。

 

「分かったよ。京都に行く時があったら買って来るよ」


「よし! じゃあバイバイ」


「よろしく~」


「私は甘いのがいいです。それでは」


「頑張ってね」


 買って来ると知って、全員即座に連絡を切る。

 

 あいつら、事前に打ち合わせしてたのか?

 

 そう思うぐらい互いの連携が取れていた。

 

 さて、報告書をやるか。

 明日にボスの始末書をやろう。

 そもそも、あれはどうやって書けばいいんだ?

 

 パソコンを起動させた時、扉の開く音が聞こえた。

 武刀はもしやと思い、ケータイを点けて時間を確認する。

 

 考えは見事的中した。

 今から夜の行事が始まる。

 地獄の始まりだ。

 

 

 

 

 

「報告書と始末書、終わったので持ってきました。どうぞ」


「ありがとう」


 本部長は二つのプリントを受け取ると、それを机の上に置くだけで読もうとはしなかった。

 

 ということは、だ。

 何かやってほしいことがある、ということではなかろう。

 

 武刀は即座に帰ろうとしたが、本部長は慣れたようにその前に話を切り出した。

 

「君にやって欲しいことがある」


「なんですか?」


 立場上、すぐに断る、なんてことができず武刀は一応話を聞くことにした。

 しかしその表情は嫌々だということが丸分かりで、傍から見ても明らかだ。

 

「京都にいる陰陽師は知ってるね? その陰陽師の一部がテロを起こしてね。解決の手伝いをしてほしい」


 京都、そういえばあいつらが八つ橋を所望してたな。

 しょうがない。ついでに受けるか。

 

「分かりました。その仕事はやらせてもらいます」


 武刀は軽く礼をし、去っていく。

 

 お土産買わないとな。ついでに、京都にいる娘達も会わないとな。

 

 武刀はうきうき気分で帰りつつ、京都に行く話を切り出した際の対応について考えながら、戦々恐々する。

 

 絶対に戦争が起きるから。

 

 

 

 

 

 これからも、俺の人生はまだ続く。

 ただ、ほんの少しの期間だったが、異世界という所で色々な経験をすることができた。

 俺はきっと、この旅を絶対に忘れないだろう。

これにて、この物語は終わります。最後まで読んでもらい、ありがとうございました。活動報告でこのお話について触れていますので、もし良かったら読んでください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ