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百二十五話

「やっほ~。おっまたせ~」


 待ち続けて十日。やっとアリシアが現れた。


「遅い……」


「やっと来た……」


「まだだ。僕はまだやれる」


「私はまだ戦える」


 地獄絵図が広がっていた。

 

 

 

 

 

「何してたの~」


「ババ抜き」


「もういいよ~。分かったから~」


 たった一言、それだけでアリシアは理解できた。

 

「他のみんなは~」


「別室にいるよ。流石にこの地獄を巻き込む訳にはいかないからな。さて、俺はそろそろ動き出すよ」


 武刀は部屋の隅に移動し、転移魔術を使って物を呼び出していた。

 

「何するの~」


「話聞いてなかったのか?」


「ずっと虫と交わってたから」


「いつも通りだな。ここから帰るんだ」


「そうなの~? なら準備しないとね~」


「いや、しなくていい」


 部屋から出ようとしたアリシアに、イリスが止めた。

 

「どうして~」


「今回は武刀一人でやる。元はあいつの仕事だ。あいつが引き起こした事だから自身で尻拭いしてもらう。それに、これはあいつの頼みでもあるしな」


「そういうこと」


 その声は武刀の声だったが、それはスピーカーから聞こえるものだった。

 アリシアは声のしたほうを振り向けば、そこには武刀がいた。

 

 しかし、武刀は機械の鎧を着ており肌を外に見せていなかった。

 

「全力でやる気なんだね~」


「一人で城に喧嘩を売りに行くから当たり前だよ」



 武刀が着ている物はパワードスーツと呼ばれるもので、ゴツゴツとしたものではなくスラッとしたものだった。

 銀色のパワードスーツには複数の魔術が刻印されており、生身では戦えない相手にでもこれがあれば勝てることができる。

 

「じゃあ、俺行ってくるわ。合図を送ったら来てね」


 軽く伝える武刀は、身体が透明になって消えてゆく。

 

 

 

 

 

「さて、どうしたものか……」


 武刀は両手でハンドガンを構え、城の前で立ち止まりながら考える。

 魔術回路が熱くなるため、ずっとここで立ち止まっていれば透明できなくなる。

 

 両手で持つハンドガンの銃口から、長く丸い筒のサプレッサーが付いてる。

 

 ここで立ち止まっては駄目だな。

 行動するか。

 

 武刀はパワードスーツと身体にある強化魔術で、城壁の上まで飛び上る。

 飛び上る際、城壁の上には見張りの兵士がいるのが見え、パワードスーツにある風の魔術を使ってなんとか兵士がいない場所に着地した。

 

 だが、着地した時の音が大きすぎた。

 

「なんだ! 今のは!」


「こっちで音がしたぞ!」


 ばれたか。まあ、ばれようがばれなかろうがどっちみち誘拐するんだし、構わないか。

 武刀は透明化をやめ、サプレッサー付きのハンドガンを近づく兵士の頭を狙って、魔術を発動してから引き金を引く。


 プシュッ、という空気の抜ける音がして近づく兵士の頭に当たり、続けて隣にいる兵士にも狙って撃つ。

 

 頭を撃たれた二人の兵士は、穴が開くことなく血が流れず倒れるだけだった。

 今回撃ったのは催眠を誘う魔術で、当たった場合は眠ってしまう。


 現実逃避をする場合に、ちょうどいい。

 ただし、翌日が眠れなくなってしまう後遺症がある。

 

 後ろからも音が聞こえ、武刀は振り返って近づく兵士を撃って眠らせる。

 

 よし、オッケー!

 これで大丈夫。

 

「侵入者だ。侵入者が城壁の上にいるぞ!」

 城壁にはまだ生き残りがいたようで、ばれてしまった。


 駄目か、ですよね。

 

 武刀は再び透明になり、姿を隠した。

 

 

 

 

 

 見つかったことで警戒され、クラスメイト達も探し回っているようだ。

 

 眠らせるんだし、もういっそのこと全員眠らせてしまおう。

 そっちのほうが早い。

 

 クラスメイトを眠らせて移動中に見つかって、を繰り返すことを考えるとそういう結論に至った。

 

 そのためには、まず人を一ヶ所に集めて一網打尽にしたいな。

 こういう場合、何か大きな化け物を出せばいいんだけど……アリシアとかアルは打ってつけだな。

 

 アルに電話を……電話できなかった。電波も繋がらないし。

 そうなると、幻覚を利用するか。

 色々と準備をするとしよう。

 

 武刀は幻覚の魔術で化け物を呼び出すため、色々と準備を始める。

 まず第一に、相手に見つかりやすく、且つインパクトがなければ意味がない。

 

 又、一網打尽にするにはある程度広い所が好ましい。

 その場所についてはよく知っている場所、ここにいた時に鍛錬していた広場を使うことにする。

 

 そこは隠れる場所がなく、あまり兵士がいなかったが準備するのには都合が良かった。

 透明化を解き、武刀は準備を始める。

 

 必要な物はスモークグレネードと催涙ガス。

 化け物は魔術で幻影を見せればいいとして、あとは敵をおびき寄せるだけ!

 

 遠くから、こっちだぞ、と呼ぶ声が聞こえる。

 

 いいぞ! もっと来い!

 

 武刀はハンドガンに付属しているサプレッサーを取り、右手で持って振り上げて空に三度、引き金を引く。

 

 ダンッダンッダンッ、と銃声が連続で三度辺りに木霊する。

 

 これよし。音を聞きつけてこちらに来るはずだ。

 あとは、待つ。

 

 準備しておいたスモークグレネードを使って煙を焚き、自分の姿を隠す。

 ただし、こちらは視界をサーマルカメラに切り替えて相手を補足する。

 

 目に映っているものは人の形をした赤い者で、離れようとする者に対してには撃って足止めをする。

 

 煙が消えようとすれば新しくスモークグレネードを継ぎ足し、身を隠し続ける。

 しかし、それが続けられなくなった。

 

 風の魔法で煙を吹き飛ばされたのだ。

 

 チッ! そんなに長くは続かないよな。

 

 武刀はカメラを通常のものに切り替える。

 

 ま、集めるための足止めだったし、まだあるんだよね。

 

 武刀はもう一度を透明になり、さらに魔術で幻覚を生み出す。

 それは一度、武刀が戦ったことがある生き物で、最もおぞましいと思った生物だ。

 

 それはドラゴンの姿をしていた。

 しかし、肌は肌色で身体は手と手が握り合ったものを複数組み合わせた形をしていた。

 

 翼、顔、尻尾、全てが人の手によって形成され、初めて見れば動揺する代物だった。

 化け物は吠えた。

 叫びは動物が吠えて出るものではなく、人っぽさがあった。

 

 それがまた、あの化け物を人だと思わせるような恐ろしさがあった。

 剣で斬ろうが魔法で攻撃しようが、化け物には効かない。

 

 なんせ、幻覚なのだから。

 しかしこっちの攻撃は通用する。

 怪我はしないが、痛覚を騙して痛い、と思わせるだけだ。

 その場合、ショック死させないように注意しないといけない。

 

 武刀は屋根の上に乗って観察し、頃合いを図る。

 勇者であるクラスメイトや兵士達は、必死に戦っているが化け物には一切通用していなかった。

 

 当然だ。あれは当時の俺でも勝てなかった。

 あいつは成長はしていない。

 既に完成している。

 だけどそれを小出ししている。

 

 だからこっちからすれば成長している、と錯覚してしまう。

 

 武刀の脳裏に、とある男か女か分からない変態が思い浮ぶ。

 

「ふぇっくし! ん~何か噂されているのかな~。あ! 上がり。またイリスの負けね」


「どうして負け続けるの!?」


「知らないよ~。もう飽きたし~男遊びしてきていい~?」


「駄目。もう一回」


「え~。なら女遊びは~?」


「それも駄目!」


「ちぇ~」


 名案を思い付いた、という顔をしてアリシアは言うが、キッパリ断られてしょげながらイリスとまた二人だけでトランプをし始めた。

 

 化け物と戦い始め十分ぐらいが経った。

 既に多くの人間が集まった。

 逆に、離れて行くのも認識していた。

 

 国の重鎮とかかな?

 ま、興味ないからいいかな。

 こっちの目的は勇者達だからね。

 

 そろそろ頃合いか。

 

 武刀は屋根の上からサンタになった気分で、複数の催涙ガスを集団に向かって放り投げる。

 催涙ガスの奇襲により、戦闘をしていた者全てが眠る。

 

「やっぱり、ガスは強いな。この世界にはガスマスクとかそういうの、ないから通じるな」


 武刀は屋根から飛び降り、イリス達に合図を送るため準備をする。

 転移して信号拳銃を呼び出す。

 

 信号拳銃はリボルバーの形をしているが弾倉が一発しか入らず、その弾も普通の弾と比べると大きい。

 

 弾は既に入っており、それを空に撃ち上げた。

 放たれた信号弾は赤い光をしながら空に撃ち上がり、徐々に勢いをなくして落ちていく。

 

 これで合図を送った。

 あとはクラスメイトを縛りつけて回収するだけ、か。

 

 

 

 

 

 武刀からの合図を見て、彼らは移動する。

 

 しかし、文句を言う者が一人いた。

 イリスである。

 

「私、次で勝てると思うのよね」


「ないです」


「ないね~」


「イリス。現実を見よう」


 二人からキッパリ断言され、アルフレッドからは諭すような言い方にキレ、イリスはアルフレッドを不満が解消できるまで蹴り続けた。

 

 最初は苦痛と快感に耐えていたアルフレッドだが、最後は耐えられず快感を思わず言葉にしてしまった。

 

 息を上げるイリスは、後ろを振り向く。

 そこには見知らぬ少年少女三人がいた。

 

「で、あなた達は誰?」


「裕一と言います。ヴァルさんにあなた達についていけば武刀に会えると聞いて」


「ああ、武刀の知り合い。ならついてきなさい。けど、よく私達が分かったわね」


「えっと、一目で分かる変な集団を追え、と言われて……」


「あとで〆よう」


 言いにくそうに裕一は言うと、イリスはピキと額に皺ができる。

 

「ついてきなさい。武刀に合わせてあげる。お膳立てはもう済んでるだろうし」


 イリスは正面を向き、歩き出す。

 その先にはお城があった。

 

 

 

 

 

 城の前には大きな扉があるが、それは開かれた。

 開いたのは、二体の影の騎士だ。

 

「万里の仕業ね。あなた、先導して」


 扉を開けた内の一体を指差して言うと、影の騎士は右手で自分を指差し俺? とジェスチャーを送り、イリスは当然とばかりに頷いた。

 

 がっくりと影の騎士は頭を下げて項垂れ、イリス達を先導するため先頭を歩く。

 

「あれにも感情があるんですね」


 アルフレッドが関心したように言い、周りを観察する。

 人の気配はなく、お化けが出てくるような雰囲気だった。

 

 先頭を歩いていた影の騎士が立ち止まると、そこは石で積み上げられた大きな部屋だった。

 

 中央には魔法陣があり、その魔法陣の上には縄で縛られた人が大勢いる。

 ここが目的地だと分かると、何かが通り過て髪が揺れた。

 

 振り向けば、裕一と名乗った少年が倒れ、次に二人の少女が倒れた。

 早業、と言ってもいい。

 行動させる前に倒した。

 

 ただし、怪我は負っていない。

 眠っているだけだろう。

 

「武刀ね。会わなくていいの? 彼らはあなたに会うため来たらしいけど」


 魔法陣の上で、ゆっくりと立つ者がいた。

 武刀だった。

 さっきまで着ていたパワードスーツを脱いでいた。

 

「記憶を消すんだ。会った所で、相手は忘れる。そしてこっちは覚えてる。こっちだけが悲しくなるんだ。それならいっそ、そんな悲しみはなくていい、余計な感情はいらない、と思うね」


 反省なんてものはない。

 武刀にも、武刀の考えがあった。

 

「そういうことね。後悔はするの?」


「するに決まってるだろ」


 考えて紛らわせるため、武刀は動き出す。

 後悔なんてしない、なんて者は感情が死んでいる者しかいない。

 

 武刀は行動して尚、悩み続ける。

 話したほうが良かったのではないか、と後になっても悩み、こんな感情はなくなってしまえばいいとも思う。

 

 仕事の時、邪魔になってしまうから。


 武刀は裕一達を丁重に抱え、魔法陣の上に置く。

 

「ヴァル。記憶を消してもらっていいか?」

 

「分かりました」


 武刀はヴァルにお願いし、次に周宇の元に行く。

 

「転移の準備を頼む」


「分かりました」


 周宇は頷き、魔法陣に近付いて武刀と同じように転移を使って呼び出す。

 ただし、違うのは武刀が武器や物で、周宇は死体、という点。

 

 その死体も動く。

 生きているのだ。

 死体であると同時に、生きているのだ。

 

「前と同じように頼むよ」


「分かりました」


 周宇に呼ばれた女性、杏氏は転移魔法陣に触れて転移する準備を始める。

 武刀は周宇の次に、イリス達を誘導した影の騎士に声を掛けた。

 

「他にいない?」


 こくり、と影の騎士は頷く。

 

「そうか。なら引き上げようか。もうここに残っている理由はない」


 再び頷いた騎士は、部屋の中にいる万里の影まで近づいて影の中に入って行く。

 遅れてゾロゾロと影の騎士は現れ、その全てが万里の影の中に入って行く。

 

「準備出来ましたか?」


「ああ」


 杏氏が問いかけ、武刀は答える。

 

 全員魔法陣の中に入り、外には何もない。

 やることも全てやった。

 

「やってくれ」


 武刀は周宇に言うと、彼は頷いた。


「転移をお願いします」

 

「分かりました」


 杏氏は転移魔法を起動させた。

 

明日で最後になります。今まで読んでもらい誠にありがとうございます

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