百二十四話
アルフィーにはそれが理解できなかった。
壊せない物が壊れるのを間近で見たのを。
しかしそれは事実で、現に武刀に続いて降りていく。
中は滑り台のように滑ることができるらしく、武刀は立った状態のまま滑っている。
時折身体が揺れるが、バランス感覚がいいのかこけることはなかった。
アルフィーは最後の一人となり、氷の中に入って行く。
武刀は最下層まで到着すると目の前の氷の壁を蹴ってぶち破る。
壊したことで出口が生まれ、そこから武刀は外に出る。
最下層は薄暗く、奥は光があるようで明るく道は一本道で分かれ道はなかった。
道の両側には大きな正方形の檻が雑多に置かれ、中には食いかけの食べ物があるだけで何もいなかった。
見た感じで檻の中にある食べ物の状態から察するに、腐っているわけでもないし檻からでたのは最近のことなのだろう。
武刀が周りを観察している間に、皆が最下層に到着していた。
「ラックス。道案内頼める?」
「分かった」
ここを一番知っているラックスが先頭を歩き、その後ろについていく。
全員周りを警戒し、他人の死角になる部分を警戒して魔物が襲ってこないかを見張る。
魔物には一度も襲われることはなく、光のある奥にまで武刀達は辿り着く。
剣を魔物に向ける。
すると、空中を浮遊していた四つの透明な剣が正面の魔物に向かって突き刺さり、引き裂きながら別の魔物に狙いを定めて突き刺していく。
それでも、魔物の波は留まらない。
ヴァルは後ろに下がると、同じように後ろに下がっていた白と互いの背中がぶつかった。
「どれだけやりました?」
「数えてないのう。それより、この数をどうするか考えたほうが良いのではないか?」
「そうですね。これはもうあれです。この後の事を考えていましたが、もう考えるのをやめましょう」
「分かった。なら前の道を切り開くかの。この姿は綺麗じゃなくなるから嫌いだが仕方ないのう」
ヴァルと白は同じタイミングで立ち位置を入れ替わり、白に襲い掛かった魔物をヴァルが横薙ぎで魔物を払う。
白い斬撃が後ろにいた魔物に襲い掛かり、白い斬撃に包まれた魔物は消えてなくなった。
ヴァルは身体の一部、頭だけ人化状態になり龍に姿を変える。
口を大きく開き、灼熱の炎が吐き出され前方にいた魔物に襲い掛かり、全てを燃やしていく。
残ったものは、燃えて死んだ魔物のカスが床に散乱しているだけだった。
後ろを振り返れば、ヴァルが十字に剣で斬って光の奔流を起こして魔物を消していた。
「行こうかの」
「ええ。行きましょう」
二人は前に進んだ。
白とヴァルは裕一に話した通り、途中で抜け出した。
二人だったこともあって他人に構う必要がなく、自分達のスピードで攻略していった。
そのため二人は最下層にまで、すぐに到達することができた。
しかし、最下層には何もなかった。
何も、物も、人も、魔物も、何もいなかった。
隠し通路があるかもしれないと考え、捜してみたがそんなものはなかった。
白とヴァルはいないのならと、武刀に言われた通り、転移魔術の準備を始めるためにダンジョンから抜け出した
武刀達は薄暗い道から抜けると光に照らされた。
この部屋はドーム状で非常に大きく、その中心には脚のない大きな椅子に座った緑色のしわしわの肌をした老人が座っていた。
一目見て、目の前の老人が、人ではなく魔物と判断とできる。
又、その背後には濃い茶色の巨大な球体が浮いている。
その球体には人の手や顔の面影があり、明らかに人を使って作られた物だと理解した。
「スピアか、久しぶりだね。森以来だね」
目の前にいる魔物を見て、ジブは口を開いた。
あれが、スピア……。
今まで、スピアと戦ってきたことがある。
二本足で立つ魔物のような存在、ジブの鱗を使って生み出した存在。
しかし、スピア本人とは戦いはしなかった。
「その声、ジブか。ここまで来るとは速いな。予想以上だ」
スピア? どうしてここに?
ここにいるのなら、ヴァル達の所にはいないのか。
スピアは目が見えないのか、顔を動かさない。
又、今までの喋り方とは少し違う。
もしかしたら姿によって、喋り方が違うのかもしれない。
「常識では考えきれないやり方をしてきたからね。しょうがないよ。それで、スピアの後ろにいるそれは何?」
スピア以外の視線が、後ろにいる肉塊の球体に移る。
「これか? 君たちが来るのは分かっていた。だから準備をしていた。それがこれだよ。まあ、まだ成長途中だがね」
ばれていたのか。ラックスかな?
知らせた、とは思えない。
ストリアが一緒にいるし。
そうなると盗聴かな?
ジブが喋っている裏で、武刀はこそこそと動き始める。
スピアは目が見えない以上、大胆に動けるが音が聞こえるのでそれほどの事はdけいない。
武刀は指でユーミルに来い、とジェスチャーを送って呼ぶ。
「何?」
「頼みがある」
二人は聞こえないよう小声で喋る。
「アンチマテリアルライフルで後ろの球体、潰すことはできるか?」
「あれは大きすぎて無理。破壊したとしても穴を開けるぐらい」
「十分。なら頼んだ」
ユーミルに頼み、武刀は左腰にあるリボルバーを取り出す。
リボルバーマグナムには弾がないが、撃つことは可能だ。
元々魔術に弾は必要ない。
しかし、本来の性能よりもさらに高い効果を引き出すためには、弾は必要だった。
あまり音がでないよう、武刀は魔術回路が刻印されている銃弾をリボルバーマグナムに装填する。
武刀が動いている最中、ジブとスピアの会話は進んでいた。
「これの材料か? 生き物だよ。人、魔物。ここのダンジョン主のヴェロッサも材料になっています。ああ、そうだった。仲間の黒いエルフも今では一部です」
「なっ! 貴様!」
仲間があの肉塊の一部になっていると知って、ラックスは憤怒の表情を浮かべて前に出でスピアに詰め寄ろうとするが、ストリアに止められた。
「ふざけるな。ふざけるな。貴様、よくも同胞を! どうして!」
「どうして? ここの情報を漏らすからに決まってるでしょ」
スピアの正論にラックスはバツの悪い顔をする。
「もういいでしょ。無駄話もこの辺で。まだ成長中とはいえ、あなたがた程度ならこれで十分だ」
「その言い方、今日の戦いぶりは見てないわけか」
今まで見守っていた武刀が口を開く。
右手にはリボルバーマグナムを握り、左手には転移して呼び出した銃身の長いハンドガンが握られている。
「戦いぶり。そんなもの、一日程度で大きく変わるわけがない」
「変わるんだよな、それが。まあ、俺の場合は元に戻った、だけど」
振り上げた左腕を振り下し、ユーミルに指示を送る。
武刀が左腕が下されたのを見て、ユーミルはアンチマテリアルライフルの魔術を発動して引き金を引く。
銃口から放たれた魔術は肉塊に直撃し、内側から爆発する。
しかし、それは穴を開けるだけでそれほど重症とは思えなかった。
だが、穴が開いたことで内側を晒していた。
肉塊が爆ぜてすぐ、リボルバーマグナムをユーミルが作ってくれた穴を狙い、魔術を発動して引き金を引く。
魔術回路が刻印された弾丸は、ユーミルによった穴を開けた内側に当たり、止まらず中に潜り込んでいく。
そして大爆発を起こした。
爆発したことで、肉塊の破片が雨のように降り注ぐ。
「何が! 何が起きた!?」
目が見えないことで、音でしか情報を得られずスピアは何が起きたのか理解できず、混乱する。
「お前の死が訪れを知らせてくれる音だよ」
その声は左から聞こえ、スピアは声のした左に顔を向ける。
「どういうことだ。むと──」
顔を向けた時、こつんと額に何か硬く冷たい物がぶつかった。
武刀はスピアに見向きもせず、引き金を引く。
額の中心を打ち抜かれたスピアは血が逆流して身体中から血を拭きだして絶命し、椅子から転げ落ちる。
「ゴミクズは死ね。死んで詫びろ」
武刀は冷たい目線でスピアを見下し、アルフィー達のいる方に振り向く。
その時には左手のハンドガンはなくなっていた。
「すまん、もう殺した。ああいうのは長引かせるのは危険だから」
「いやいい。それに関しては助かる」
アルフィーは素直に礼を言い、武刀はラックスの方に向く。
ラックスは同胞が既にこの世にいないことを知って、項垂れている。
「ラックス。このあとどうする? 昨日言った通り、この世界に残るか? それとも……」
「一緒に行くさ。私にはも、ここに残る理由がなくなった」
一気に同胞を失ったことで、ラックスの心は悲愴感で埋まっていた。
「そうか、分かった。なら、ここに転移魔術を作るか。ちょうど大きくて広いし」
ドーム状の部屋は大きく、転移魔術を作るのにピッタリだ。
また、ラックスの仲間を転移する必要がなくなったことで、転移魔術もそれほど大きくなくて済む。
「その前に、ゴミをどかさないとな」
床に転がる肉片とスピアの遺体と椅子を見て、武刀は呟いた。
全員で協力してゴミを隅に追いやり、武刀は変化の短剣で身体から血を流してそれを使い、床に魔術回路を作る。
タイミングを合わせるため、武刀はヴァルに札を使って連絡する。
「こっちは準備完了。そっちは?」
「こちらは大丈夫です。転移してください」
「分かった。じゃあ、離れてろよ」
武刀は連絡するのをやめ、床に広がる魔術回路に触れる。
「みんな、魔術回路の中に入ってくれ。今から転移する」
呼びかけると皆は魔術回路の中に入り、武刀は確認してから転移魔術を起動させた。
床に広がっている転移魔術は赤く光り、景色がダンジョンの中から外に変わった。
森と花畑の間の草原で、人もいないし邪魔なものはない。
足元には土を掘り返して踏んで硬めた上に、転移魔術がある。
武刀は胸のホルスターから二つのハンドガンを抜き、転移魔術を何度も撃って破壊する。
赤く光っていた転移魔術は、魔術回路が撃ち抜かれたことで光を失ってただの模様に変わる。
これで破壊完了。利用することはできない。
武刀は両手で持っていたハンドガンをホルスターに戻し、振り返って白とヴァルに振り返ってお礼を言おうとする。
しかし、言う前に白とヴァルが武刀に抱き着こうとするができなかった。
その前に周りにいた万里達が即座に抱き着き、抱きつける場所をなくしていたのだ。
「くそ。よくも」
「ふふん」
ヴァルが悔しがり、それを万里が愉悦に浸かっていた。
「よくも、よくも騙してくれましたね」
「騙した? おかしい。私達は譲っただけ」
悔しがるヴァルに対し、ユーミルは正論を突き立てた。
睨み合う彼女らが、抱き着かれている武刀は苦痛の表情を浮かべていた。
「く、苦しい」
それを見る第三者は、
「なんだこれは……」
呆れていた。
グーリアは混乱していた。
さっきまで大量の子供達がいた。
しかし、それらは全て目の前のそれに蹂躙された。
今でも、卵から生まれた子供達がそれに立ち向かい、あっさり返り討ちにあう。
地面に潰され緑色の液体を流している。
グーリアは巨大な女王アリの姿をし、逃げ回っていた。
しかし、身体が巨体のため逃げ回っても隠れられる場所は限られるし、それに相手ほうが速かった。
頭上から、何か移動して近づいて来る音が聞こえた。
ここは洞窟だ。どうやって?
グーリアは逃げながら音のした方を振り向くと、それは天井を走っていた。
足が十本。顔は三つ。翼は右側にしかないが四つあり、尻尾も途中で折れ曲がっている。
一目で見て、それは化け物だと認識する。
しかし、その元がたった一人の人間だと考えると恐怖しかない。
天井を走っていたそれが飛び降りてきた。
グーリアは覚悟を決め、振り返ってその化け物に立ち向かった。
グシャ、グシャと何かを齧りつく音が洞窟内に響く。
それを食うのは、足が十本、顔は三つ、翼は右側に四つあり、尻尾は途中で折れ曲がっている化け物。
化け物の顔は人のそれでもドラゴンの、まして生き物のようなそれでもない。
キメラのような色んな生き物の顔を、ぐちゃぐちゃにかき混ぜたような顔だ。
三つの顔は全く異なり、死んだグーリアを噛み、飲み込み、全て吐き出した。
「美味しいと思ったんだけど~」
しゅう、という音がして化け物の身体から所々白い煙が噴き出し化け物から生まれるように、アリシアは胴体の上辺りから現れた。
アリシアは化け物から飛び降りると化け物は崩れ落ち、白い煙が化け物を消してゆく。
その頃、武刀達は。
「遅い」
転移して十日。アリシアだけおらず、待ち続けるばかりだ。
「はい。これで僕はあがりです」
イリスから抜いたカードが同じカードで、それを捨てて周宇はぎりぎり最弱にならずに済んだ。
「ああもう悔しい!」
どうしていつも私が!」
常に最下位のイリスは、悔しがって地団駄を踏む。
ヒールがないせいで、いつもとはしないことをしていた。
だが、アルフレッドだけはヒールがないことを悔しがっていた。
ドMは放っておこう。
武刀達が今しているのはババ抜きで、何故かこの世界でトランプが大流行しているらしい。
どうせクラスメイトの誰かが広めたのだろう。
ぶっちゃけどうでもいい。
だが、イリスがそれを見つけたのはいけなかった。
「もう一回よ」
「いい加減飽きたからやめようよ」
「実力の差は明らかです」
「やり続けるとイリスが傷つくだけだよ」
武刀、周宇、アルフレッドは苦情やフォローする。
イリスはこういったゲームでは本当のように弱い。
女王様気質だが、弱い。
「うるさい。私に指図するな」
イリスがアルフレッドを殴り、アルフレッドは痛みに堪えながらも快感を感じるような表情する。
「お! 耐えた。鳴かなかった」
アリシアを待ち続けて、五日。
彼らは町の中で惰眠を貪りながら待ち続けていた。
明日、明後日、投稿でこの作品は終わりになります。




