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百二十三話

 武刀は通信を終えると、模様が赤く光っていた札は光が落ち着いた。

 

 連絡は終わった。

 これで黒いエルフを送る準備はできた。

 ただ、問題がまだ残ってる。

 

 送る前ではなく送った後の事だ。

 黒エルフを送った後、本格的に帰還する準備が必要になる。

 どうやって元の世界に戻る?

 

 転移魔術をするには、入口と出口が必要。

 ここに入口を作ったとしても、出口が元の世界にないため転移するのは不可能。

 既にある転移魔術に、入口を増やすことはできない。

 

 しかし、イリス達はここに来た。

 それなら帰る方法はあるはずだ。

 

 次の問題は一緒に来た者、クラスメイト達だ。

 本音を言えば、めんどくさいから放置しておきたい。

 だが、絶対に始末書を書く羽目になる。

 

 それもそれで嫌だ。

 だから連れて帰ろう。

 薬でも洗脳でも、全てを使って無理矢理連れ帰ろう。

 

 

 

 

 

 武刀は一番奥の部屋に戻った。

 扉を開けると、ユーミルがアルフィーの服を無理矢理脱がしていた。

 顔を赤くしたアルフィーは必死に抵抗しているようで、半裸の状態だった。

 

 抵抗するアルフィーは武刀と目が合い、服を脱がしていたユーミルも武刀に気づいて動きが止まった。

 

 アルフィーは見た目幼女で、着やせするなんて言葉があるがそんなはことない。

 服が脱げているせいで大事な部分は見えないが、服を着ている時よりも肌を広く見せているため直接的ないやらしさはなかった。

 

 時が止まった空間は、喉から少しずつ登ってきた恥ずかしさが声となってでた。

 しかし、それよりも先に武刀が動いた。

 

「お楽しみを邪魔して失礼」


 武刀は静かに扉を閉めると、アルフィーの悲痛な叫びが聞こえた。

 

「ユーミルって、そういう趣味があったのか。新しい発見があったな」


 ほのぼのと、親のような顔をした武刀は離れて行くと後ろから扉を開ける音が聞こえたと思うと、右肩を掴まれて引かれて振り向かされた。

 

「違うからぁ~」


 あまり喋りたがらないユーミルが、珍しく泣きべそをかいていた。

 部屋に連れて行かれると、服を着直して顔を赤くして部屋の隅でこちらに睨むアルフィー。

 

 仲良く喋っている黒エルフとストリア。

 ベッドで寝ているアル。

 両手を後ろに回されて拘束され、身動きがとれなかなった万里。

 

「何これ?」


 いない間に変化が色々あって、頭の中に詰め込み切れない。

 

「えっと、まずあれは何?」


 武刀は右手で万里を指差してユーミルの方を見た。

 

「違うから! 私レズじゃないからあ゛!」

 さっきのがかなり効いているようだ。


「うん知ってるよ。知ってるから万里の状況を教えてほしいな」


 あれは冗談のつもりだったが、ユーミルは本気にしたのか。

 

「あれは裏切り者の末路」


 涙を服の裾で拭きながら、ユーミルは教えてくれた。

 

「裏切り者……ああ、単独で来たのはそういう理由か。で、次にあれは?」


 万里の次に指差したのはアルフィーである。

 彼女は警戒する猫のように、こちらを睨みつけていた。

 

「服がダサかったから着替えさせようと」


「替えの着替えがあるのが驚きだよ。というか、元の世界とこの世界は文明レベルが違うから当たり前だ」


 文明レベルが同じだったら、技術とかも変わってくるだろうしな。

 

「替えの服があるなら、俺のある?」


「あるよ。いつものが」


 決め顔でいうユーミルに、武刀はは右手を頭の上に乗せて撫でた。

 

「ありがとう」


 頭を撫でる行為に、ユーミルは頬が緩み、万里は口を大きく動かすが何も聞こえない。

 

 魔術で喋らせないようにしてるのか?

 そこまでしなくていいだろう。

 

「それでみんな、他の奴と連絡して話したい話がある」


 武刀がそう言うと、今まで仲良く喋っていた黒いエルフとストリアがこちらを見て、部屋の隅で警戒していたアルフィーが真面目な表情に変わる。

 

「ふぇ?」


 ベッドで寝ているアルを揺すって起こすと、変な声を出した。

 万里については、完全に自分の行いのため維持。

 そして残りの二人が問題である。

 

「誰か、フェンとジブを呼びに──」


 南門の大通りで肉串を食べている二人を呼んでこさせようとした時、扉が開かれた。

 

「やっぱりここだ! 私の言った通りだよ! 凄いでしょ!」


「凄い、本当に当たってる。匂いで人を探すのは便利だね」


 元気なフェンと感心しているジブがいた。

 

「都合がいいな。二人とも早く入って、大事な話をするから」


 武刀に言われた通り、二人は部屋の中に入ってくる。

 

「大事な話をする前にジブ」


「ん?」


「俺が頼んでいた肉串は?」


「あ……」


 彼女は何も持っていなかったため、まさか、とは思ったが。

 あとで買って来よう。

 

 

 

 

 

「まず今来たジブとフェンにも分かりやすいように、最初から喋る。俺たちは今から、ここから南西にあるダンジョンを攻略する。そこにいる黒いエルフ達を救い出し、ヴァルと白、俺が作った転移魔術でエルフの森に行くことになった」


 連絡で得た情報を伝えた。

 

 まあ、その連絡で得た情報のほとんどが関係のない話だったけど。

 

「そこで黒いエルフ、君の名前をいい加減教えてほしい。救出した際に黒いエルフと呼ぶのは勘違いされる可能性が高い」


 武刀がそう言うと、皆の視線が黒いエルフに集まる。

 

「私の名前はラックス。皆からはそう呼ばれている」


「了解した。で話しは変わるが、救出したあとだ。アルフィーとジブ、ストリアはどうする?」


 黒いエルフ達を救った後、彼らの動きに行動が少し変わる。

 特にアルフィーが問題だ。

 彼女が城に戻るのなら、敵対することになる。

 

 クラスメイトを無理矢理連れて来る際に、城を襲うからだ。

 

「私は武刀と一緒がいい」


「僕もストリアと同じだな。ここにいても特にやることないし」


「私は……」


 アルフィーが悩んでいた。

 これは武刀も驚きだった。

 

 悩む、のか。てっきり即答だと思ったのに。

 

 武刀をアルフィーの方を見ながら思う。

 決して、周りは見ない。

 万里とユーミルが、徐々に笑顔でありながら恐怖を感じるのだ。

 絶対に目を合わせない。

 

「私もムトウと一緒に行こう。元々、家を飛び出す形で城にいたからな。それに、この世界よりもムトウの世界のほうが進んでいるんだろう? なら、魔法の研究のしがいがある」


「そうか、そう言ってくれると嬉しいよ」


「ああ、決してムトウのことなんぞおもっとらんぞ」


「分かってるから。言わなくていいよ。それ以上言うとツンデレみたいになるから、勘違いするから」


「ツンデレ?」


 アルフィーは武刀の言葉を理解できず、首を傾げた。


 ラノベに出てくるハーレムの主人公って凄いな。

 一瞬でヒロインを落とすもんな。

 何か匂い、フェロモンでも出てるんじゃないかな?

 俺もそれが欲しいな。

 

 その裏でフェンが、ツンデレはね、とアルフィーに教えていた。


「それで皆一緒ということになったのはいいけど、ユーミルに質問なんだがどうやってここに来た?」

 

「周宇の従者が魔法陣に触れて転移しましたよ」


「ああ、なるほど。周宇か。あいつの実家には色んな本があったから魔法の本も確かあったな。そうなると、理解しているから転移魔法の構築理論を転移魔術に置き換えて発動したのか。けど、そうなると……」


 武刀はぶつぶつと呟き始め、周りのことは一切入ってこなかった。

 

「ご主人、今は考えている場合じゃない」


「お! そうだった」


 ユーミルにより、武刀は考えるのをやめた。

 

「えっとそれで転移は周宇に任せるとして、城に強襲をかけようと思う」


「どうして? 襲う理由はなくない?」


 城に住んでいたことがあるアルフィーは、少なからず思い出があった。

 故に襲うことに忌避感があった。

 

「城にいるクラスメイト、勇者と言えばいいか? 彼らを連れて帰る必要がある」


「どうして?」


「連れて帰らないと俺が始末書を書かされる羽目になるから。それに、今ダンジョンが一つ攻略され、もう二つが攻略している最中、残りは俺らが向かう南西だけだ。四つのダンジョンが消えれば、始まるのは戦争だぞ」


「なっ……」


 アルフィーも思わなかっただろう。

 まさかダンジョンが攻略されているなんて。

 俺も思わなかったさ。まさかあのアホどもがそんな面白い事をしてるなんて。

 前なら魔術が使えなくて不参加だったが、今は違う。

 喜々として参加してやる。

 

「魔王が戦争に負けてみろ。次は人間同士の領土と取り合いになる」


 ここまでくれば、戦争が何が引き起るのか理解できる。

 人が大勢死ぬ。国が分裂する。そしてまた戦争が起きる。

 その繰り返しだ。

 

「それを起こさないためにも、戦力ダウンを狙うために勇者を連れて戻る必要がある。どうか分かってくれ」


 ぶっちゃけ言えばあとは知らんぷりなんだが、始末書をやるのがめんどくさい。

 極力したくない。

 

「うっ……」


 アルフィーは長く悩み、答えを出した。

 

「分かった。ただし、兵を襲うなよ」


「それは当たり前だ」


 あいつらの内、二人は絶対襲いそうだがここは言わないでおこう。

 

「良かった」


 アルフィーは安堵の息を吐き、話し合いが終わった。

 

「話し合いも終わったことだし、俺は飯に……」


 あまり飯を食べられなかった武刀は、部屋から出ようとするが止められた。

 振り返ると、そこには笑顔のユーミルがいた。

 

「えっと、な……」


 喋っている途中で上半身の服を脱がされ、フェンが武刀をベッドに押し倒した。

 

「ちょっ! 待って! 今は流石に!」


 周りにまだいる以上武刀は抵抗しようとしたが、アルフィー達はそそくさと出て行こうとしていた。

 

「ちょっと待って! 助けて」


 武刀が救援をしている間も、武刀のズボンが脱がされて下着にまで魔の手が迫っていた。

 

「実行するのは明日だから。忘れるなよ」


 その一言が武刀には崖から突き落とされたような気持ちになり、武刀がアルフィーの名を叫んで手を伸ばすが、彼女らは部屋をでて扉を閉めるのが見えた。

 

 

 

 

 

 早朝、大きなベッドで雑魚寝している中で起きる者がいた。

 

「寝ても疲れが取れない」


 ゆっくりと起きた武刀は、眠気眼でベッドの上の惨状を見る。

 色々と酷い。

 主に匂いが。

 

 武刀は雑魚寝しているユーミルを揺すり、起こした。

 

「ん? 何?」


 ユーミルは薄っすらと目を開けた。


「服を着たい。起きたら外で待ってるから」

 武刀は雑魚寝しているベッドから何とか抜け出し、外に出た。

 

 

 

 


 

 アルフィーは起きると、一階の食堂に向かった。

 食堂には人の入りが悪かった。

 それはそれで当然だ。

 

 昨日、武刀が起きていない時点で冒険者ギルドに行って情報を得た。

 その情報とは、他の町の状況である。

 

 ここが襲われたため、他の町も心配になったのだ。

 その結果、ここ以外にも別の町が襲われたことを知った。

 

 そのせいで物資のルートが遮断され、この町には物資が消耗する一方だった。

 残る食料も保存食といった日持ちの良い物で、それも数に限りがあった。

 

 朝食を注文して椅子に座って待っていると、遅れてジブやアルと少しずつだがやってくる。

 注文した朝食が来た頃には寝ていたメンバーは、食堂に来ていた。

 

 しかし、その中には武刀とユーミルの姿はなかった。

 

「ムトウとユーミルはどこに?」


「彼らは外だよ!」


 そう答えたのはフェンだ。

 しかし、彼女の姿は全く見なかった。

 なぜなら、フェンの目の前には大量の肉が更の上に盛られて見えなかった。

 

「外? どうして?」


「装備してるから!」


「装備?」






「ユーミル。服頂戴」


「はいはい」


 朝早く起こされたユーミルは欠伸をしながら、武刀の服を取り出す。

 深緑の暗めな色の厚手のズボン、カーゴパンツと黒い厚手のシャツの戦闘服を着る。

 さらに黒い厚手のグローブを両手につける。

 

 明るい茶色の、足首まで隠れているブーツに履き替え、胸に両側二つと左の腰に一つ入るピストルホルスターを着る。

 

 白と黒のハンドガンを転移して呼び出し胸のホルスターに入れ、腰の方には銀色に鈍く輝くマグナムリボルバーを新しく呼び出して、収納する。

 

「さて、準備完了。全力、とまではいかないがこれで十分だろ」


 久しぶりの銃に、武刀は少し興奮しながらも木に背を預けて外で待っていると、一緒に待っていたユーミルがしな垂れた。

 

「暇だよね?」


「暇だな」


「じゃあ、ちょっとあっちの木陰でエッチしない?」


「してもいいが……」


 一人なら問題ないのだ。

 これが多人数になると、身体がもたなくなるのだ。

 しかし、それを見られると迫られたりときつくなる。

 

 加えて、二人っきりなんてそんな状況を内の娘達が見逃す訳がない。

 

「来てるぞ」


 武刀が指差す先には、フェンに乗った万里が凄い勢いで近づいて来ているのが見えた。

 それを見たユーミルはチッ、と舌打ちしていた。

 

 遠くからこちらに来ていたフェンと万里だが、ユーミルが舌打ちをした頃には傍に来ていた。

 

「ユーミル。今、連れ込もうとしてませんでしか?」


「してない」


 万里に問い詰められているユーミルは、顔を逸らして万里から目線を合わせなようにしていた。

 

 その間にフェンが人化して武刀に近付き、抱き着いた。

 モフモフのフェンに抱き着かれることに、武刀もより強く抱きしめる。

 

「ああ、気持ち。モフモフ幸せ」


 武刀の顔が蕩けていると、傍にいた二人が許すはずがなかった。

 

「ちょっと、何してるんですか?」


「抜け駆けは駄目!」


 抗議する二人に、フェンが二人の方に顔を向けて舌を出して、べーと行動で示した。

 

 そんなアホなことをしていると、遅れてアルフィー達がやって来た。

 

「何してるんだお前らは……」


「まあいいじゃないか。それより、とっとと行こう。あまり時間を掛けたくない」


 武刀は抱き着いていたフェンを離した。

 それによりフェンで見なかった武刀の武装を、アルフィー達は見ることが出来た。

 

「それがムトウの全力か?」


「いや。全力ではないけど、まあいつも通りだよ」


「いつも通りか、期待しているぞ。さて、今から南西のダンジョンに今から行くが、ラックス、教えてくれないか?」


 南西のダンジョンに黒いエルフがいたからこそ、アルフィーは道案内を彼女に頼んだ。

 

「分かった。じゃあ行こうか」


 ラックスは頷いて先頭に動き出した時、武刀が手を上げた。

 

「はいストップ。ちょっと言いたいことがあるんだけど」


「なんだ?」


「移動するの時間かかるし、ジブに乗って行こうよ」


「ふむ。確かに、そっちのほうが速いが行けるか?」


「行けるよ。ならやるよ!」


 ジブはいきなり身体をドラゴンに姿を変える。

 

 おお。いきなり変えるかー。森にでも行こうと思ったのに。

 

 ジブの大胆さに、武刀も困惑したがもうここにいる気もないので気にしなかった。

 

 

 

 

 

 空の旅行というものは楽しいものではない。

 飛行機なら風を遮るものがあるが、ジブは違った。

 

「これは本当に死ぬ。空の移動はもうこりごりだ!」


 アルフィーはジブにしがみつき、正面から襲って来る暴風の圧力に耐えていた。

 ラックスもアルフィー同様にしがみついて耐え、ストリアはラックスにひっついて問題はなかった。


 武刀達は慣れているため涼しい顔で耐えていた。

 ジブにはアルフィーの叫びが聞こえず、ジブはただ一直線に南西のダンジョンに向かっていた。

 

 彼女の働きにより、南西のダンジョンには普通なら十日ほどかかる道のりを十分程度で辿り着いてしまった。


 

 しかし、その南東のダンジョンは恐ろしいことが起きていた。

 南東のダンジョンの真上には小屋があり、四方に扉から魔物が無限に湧いている。

 

「なんだ、これは?」


 その光景を見たアルフィーは絶望する。

 今からあのダンジョンを攻略するためには、あれを全て薙ぎ倒して入る必要がいる。

 

 現在はジブに乗って飛行しているため、南西のダンジョンを上から観察している。

 

「どうすれば……」


 アルフィーが考えていると、別の場面で動きがあった。

 

「ユーミル、先に頼むぞ。俺が合わせる」


「分かった」


 武刀とユーミルは並び、銃口を小屋に向ける。

 二人が持つ銃はアンチマテリアルライフル、所謂対物ライフルと呼ばれる狙撃銃である。

 

 ユーミルは近すぎるためアイアンサイトに変え、アイアンサイトを覗いて小屋を狙って武刀の準備を待つ。

 その武刀はボルトを後ろに引いて排莢口に白い弾丸、一発だけ装填する。

 その弾丸に魔術回路が描かれていた。

 

「こっちは準備完了。頼むぞ」


 ユーミルはこくり、と頷くとアンチマテリアルライフルにある魔術を発動させる。

 銃口から黒い弾丸が放たれ、小屋に直撃し魔術が発動した。

 

 小屋は内部から爆発したように外に向かって爆ぜ、破壊したことで中を晒すことになった。

 中には下に続く階段があり、そこから魔物が出て来ていた。

 魔物達は頭上から攻撃してきたに気づいて、見上げてジブを見る。

 しかし、それは遅かった。

 

「散れ」


 小屋跡地を狙っていた武刀は魔術を発動させ、引き金を引く。

 ただし、発動したのは銃本体にある魔術ではなく、装填し直した弾丸の方である。

 

 銃口から放たれた白い弾丸は小屋跡地の中にある階段に当たり、魔術は起動した。

 

 白く静かな爆発が起き、それは空には伸びずに横に下に、と包み込む。

 爆発がどんどん広がっていき、それは近くにいた魔物も巻き込まれみながら収束を始めた。

 

 広がっていた爆発は内側に収束していき、消えた。

 残ったものは爆発によって削られた地表である。

 

 地表はプリンをスプーンで掬ったようになめらなに削られ、それはダンジョを外に晒していた。

 又、周りの魔物も爆発に巻き込まれておらず、武刀はアンチマテリアルライフルを転移して戻してジブから飛び降りてダンジョンの中に入って行く。

 

 武刀に続き、ジブからユーミルや万里達が飛び降りていく。

 しかし、あの高さから飛び降りれば骨折ではすまない重症を負うが、武刀達はピンピンとしていた。

 

 下にいるから武刀から速く、と手のジェスチャーがあり、ジブの上にいるアルフィーとラックスは顔を見合わせて互いに頷き合い、飛びおりた。

 

 アルフィーは怖くて下を見続けることができず、目を瞑ると受け止められた

 ゆっくりと目を開けると、そこにはお姫様抱っこをして受け止めた武刀がおり、されたことが恥ずかしくて武刀を殴ろうとしたがそれよりも先に下された。

 

 アルフィーの次にラックスを受け止め、最後に人の姿になったジブを受け止めようとしたが逆に避けた。

 避けてすぐにジブは空から地面に着地し、土煙が巻きあがりジブの姿を隠したが、その中からジブの影が見えた。

 

 ジブはゆっくりと身体を起こし、首を左右に倒してコリを解して土煙の中かで出てくる。

 

「よく無事だったな……」


「そうか?」


 普通、あそこから落ちれば怪我をするに決まっているがジブは傷一つなかった。

 よく見れば、ジブの身体は人が身に着ける鎧ではなく、ドラゴンの鱗からなる鎧と身体の一部がドラゴンのように姿が変わっていた。

 

 そういえば、身体の一部がドラゴンになると言ってたな。

 

 武刀はジブのが言っていた事を思い出し、下を見る。

 床は石造りで、隙間なんて一切なかった。

 

 壊せるかな?

 

 試してみようと、胸にあるホルスターから二つの白と黒のハンドガンを取り出し、黒いハンドガンを前にして後ろに白いハンドガンの銃口をくっつける。

 

「連結確認」


 くっついたのを確認する。

 もし連結してなければ、事故が起きて怪我をするからだ。

 

 武刀が連結させたとき、アルフィーが奥に進んでいるのが見えた。

 

「アルフィー。何をしてるんだ?」


「何してるって、攻略するに決まっているだろう」


「じゃあ、それちょっと待って」


 武刀に止められ、アルフィーは反論しようとしたが連結している銃を見て、何をするのか察して止めずに見ていた。

 

 今まで、武刀のように壁や床を破壊しようとするものはいたが、壊れる所から傷一つつかなかったのだ。

 

 ここはやって分からせよう、とアルフィーは考えた。

 

「ラックス。黒いエルフはいつもどこにいる?」


「いつもは奥で住んでいる」


「そう。なら良かった」


 武刀は安心し、縦に連結した二つのハンドガンを床に、斜めにして向ける。

 もし巻き込んでしまえば、目的を達成することができない。

 

 連結したハンドガンの内、黒いハンドガンの魔術を発動させて二つの引き金を同時に引いた。

 

 銃口から赤い熱線が放たれ、床を溶そうとする。

 しかし、熱線は床の触れている部分を赤くするだけで溶かすまではいかなかった。

 

「溶けないな。出力を上げるか」


 魔術回路がさっきよりも速く熱くなり、総じて熱線もさらに熱く太くなった。

 それでも、床が溶けることはなかった。

 

 これでも駄目か。なら!

 

 連結させた白いハンドガンのほうも魔術回路を起動させる。

 本来なら発動できない魔術だが、連結させることで魔術回路が互いに触れあい魔術を発動することができる。

 

 これは武刀のような枝分かれしている魔術回路でしかできず、又、単体且つ連結して発動できる魔術回路でしか使えない。

 

 二つ目の同じ魔術が発動し、火力や大きさが二倍になる。

 今まで熱線に耐えていた床だったが、二倍には耐えることができず溶かされた。

 一つの床が溶かされ、熱線は下の階層の床を溶かしてさらに下へ貫通していく。

 

「ふう……」


 一仕事を終え、武刀は魔術を解く。

 すると、熱線は消えて最下層までの道が見えた。

 しかし、溶かされた床が徐々に修復されるのが見えた。

 

「やらせるかよ!」


 連結していたハンドガンを外し、入れ替えて前に白いハンドガンにする。

 今まで溶かしていた方向に連結したハンドガンを向け、魔術を発動させて引き金を引く。

 

 白いハンドガンの銃口から放たれたのは白く圧縮された氷だ。

 それは傍から見ればビームのように見え、氷のビームは今まで溶かした床を氷漬けにする。

 

 引き金から指を離して連結を解き、凍った床を蹴る。

 すると凍った床の中心が砕けて砂のようになり、空洞が出来上がった。

 

「先に行くぞ」


 武刀はその空洞に入り、滑って下に降りていく。

三月の終わりまで毎日投稿する予定です。

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