百二十一話
魔王の領域に向かった周宇とアルフレッド。
その道は、かなり険しいものだった。
この世界の住人ではない二人は町に入るのが難しく、周宇の従者を呼び出して透明になってを使って侵入した。
発情するドMのアルフレッドを薬で眠らせた。
最前線である魔王の領域に行く事も幻覚を見せて侵入した。
人の領域から魔王の領域に変われば、攻撃という名の手厚い歓迎をもたらされた。
それは全て痛いの大好きアルフレッドを壁にした。
そんなこんながあり、無事に魔王の城の手前まで来れた。
ただし、これより先に行くにはバリアが行く手を阻み、バリアを解除するにはダンジョンの最奥にいる四人の魔族を倒す必要がある。
しかし、そんなことわざわざする必要はない。
何故なら、ここに結界魔術の全てを治めた者がいるからだ。
「どうです。バリアは解けそうですか?」
バリアの手前にはアルフレッドがおり、さらにその後ろには周宇がいる。
その周宇の背後には従者である女性が五人いる。
「そうだねえ。魔法ということもあって魔術とは少し違うけど、根本は同じだからなんとかなると思うよ。結界に倒されたと誤認させれば」
アルフレッドはバリアに触れながら答え、バリアに触れる両手はじゅう、と焦げる音が聞こえバリアに触れる部分には波紋が生じていた。
「熱くないんですか?」
焼けているにも関わらず、苦悶の表情や声を上げず黙々とアルフレッドは作業していた。
「熱くないよ。僕にとってこの程度熱いシャワーを浴びているようなものだよ」
「流石はドM、といった所ですね」
その時、周宇とその従者、アルフレッドは近づく魔物の気配を感じた。
「僕は今作業中だから、盾にはなれないよ」
「知っています」
近づくのは空飛ぶ二体の深緑色のワイバーンだった。
腕は退化したのか翼に中央の尖った部分から手が見え、足の爪から毒々しい液体が流れていた。
ワイバーンは空中から降下し、鋭く毒のある足で獲物を掴みかかろうとした。
しかし、それは周宇や従者、アルフレッドを包み込む丸い結界で阻まれた。
結界で掴みかかることができず、二体のワイバーンはゆっくりと登っていく。
「やれ」
周宇の短い命令に、従者たちは従った。
彼女達は等間隔に円のように立っており、それは起動した。
彼女達の足元が白く光り、そこから白い線が伸びて白い光に繋がっていく。
その形は円と星で、術式は完成した。
結界を保持したまま結界の上部から白い光が結界から収束し、ワイバーンに放たれた。
ワイバーンは回避行動を取るが、収束した白い光は二つに分かれ、ワイバーンを追尾する。
一体はあっさりと当たり姿そのものが消え、二体目はしつこいぐらい逃げていたが体力がなくなって一瞬の隙を突かれて当たった。
花火のようにワイバーンの残りカスが空から降ってくる。
それは周宇から離れていたため、良かった。
近かったら匂いがするからだ。
「解けた」
そのアルフレッドの声と同時にバリアは消え、七人は魔王の城に潜入した。
いつものように幻覚の魔術を使って侵入し、あっさりと魔王の前まで来ることができた。
「ほう客人か。ちょっと待て、茶を用意する」
顔は厳ついが羊のような身体をしている魔王は、今まで座っている玉座から立ち上がって後ろに行く。
二人は動揺を隠すことができず、肩身を寄せて作戦会議に移った。
「あれだよね。魔王という話だったよね」
「はい、そのはずです。ただ、私が見る感じ、そのようには見えません」
「僕もだ。魔王と言われなければ気づかないレベルだよ」
「待たせてすまない」
魔王が現れることで、二人は作戦会議をやめた。
トレイ片手に現れた魔王は、宙に人数分の椅子と二つの机をふよふよと浮かしていた。
浮いていた机と椅子を設置し、茶を飲みながら話し合いは始まった。
まず最初にアルフレッドが躊躇なく茶を飲み、首を横に振った。
それは毒が入っていない、という合図でアルフレッドには全ての毒を対策している魔術を持っている。
余談だが、武刀も同じ魔術を持っており、それは毒を使う人外がいるからだ。
魔王との話は恐ろしいほどまでにスムーズに進んだ。
「なるほど、我が臣下を殺す、と。まあいいでしょう。何やら事を起こすと聞いていたようことですし」
話を聞けば、魔王とその配下、ダンジョンの主は派閥が異なり、魔王は穏便派、配下は過激派ということらしい。
だからいなくなることは特に困りはしないが、魔王も困っていた。
「そうなりますと、バリアも消えますよね。ん? それなら皆さんはどうやって入って来たんですか? もしかしてバリア消えてます」
「僕が消しました。それとバリアなら僕に任せてください。時間制限付きですが新しく結界を張り直しておきますよ」
「それはそれは。感謝してもしきれません」
魔王が深く頭を下げると、二人は立ち上がる。
「では、僕たちはこれで」
魔王の城から去った彼らは、アルフレッドが新しく結界を張り直していると周宇は連絡用の札が熱くなっていることに気づいた。
取り出すと、札から声が聞こえた。
「もしもし。もしもーし」
それは同士である武刀の声だった。
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