百二十話
昨日は投稿できず、すみません。
明日は投稿の予定はありませんが、しようと思います。
イリスは北にあるダンジョンに、白とヴァルはアザカにあるダンジョン、アルフレッドと周宇は南の魔王の領域に、ユーミルとフェン、アル、万里、アリシアは海を渡って西に向かった。
アザカより北に向かった赤髪の女性、イリスの最初の難関はエルフの住む森だった。
森は迷路のように複雑、というものではなかった。
進んだ道が全く異なってループするように同じ道を進むが、さらに進むとさっきまで通った道とは異なっていた。
まるでパズルのように道を入れ替えるようだ。
「はあ、めんどくさい。どうしてこうめんどくさいの?」
イリスは右太股に巻き付いている鞭を取り出し、魔術を起動して木に叩きつけると木は蛇に姿を変える。
その変化により木の上にいたエルフの青年は木から落とされ、イリスの前に落ちた。
エルフの青年は慌てて顔を上げると、イリスが鞭を両手で持って引っ張り鞭を伸ばし、にこやかに笑う。
彼からこの森を抜ける方法を教えてもらい、無事に森を通り抜けることができた。
そして次に待ち受けているのは砂漠だった。
「ハイヒールでどうやって砂漠を踏破しろというんだ。ああ、ハイヒールなんか履いて来るんじゃなかった」
頭がガックリと項垂れ、イリスは落ち込んだ。
ハイヒールで砂漠を歩くことは自殺行為のようなもので、足を動かすたびにヒールが砂漠に埋もれる。
「ヒールが邪魔ね」
イリスは躊躇いもなくあっさりとヒールの部分を折って歩き出した。
「これなら歩きやすい」
砂漠を歩き続け、めんどくさくなり鞭の魔術で砂の蛇を作って津波のようなものを起こし、自分はその上で砂を固めて移動していた。
イリスは武刀の複数の魔術を扱うことができず、臨機応変に対応することができない。
砂漠は熱く空気が乾燥して脱水症状に陥る可能性が高く、イリスには水を探したり生み出す魔術はない。
そのため速く移動することはかなり大切だった。
砂の波に乗っているおかげで今までよりも高い視点で辺りを見渡すことができ、イリスは目ぼしい物がないか目を凝らして探すと案外簡単に見つかった。
何故なら、それは魔物に囲まれていたからだ。
助けてあげた。
理由は何個かある。
まず水と食料が欲しい。
このままでは飢え死に喉が渇いて死ぬ。
次にダンジョンのありかだ。
当ても無く探していれば、本当に死ぬ。
そしてもう一つ、ストレス解消だ。
それはもう虐殺だった。
何もできず増える砂の大蛇に徐々に逃げ場を失い、死んでいった。
魔物達に囲まれていたのは、大きな村だった。
複数の村が一つになったような。
村に行くと村の住人、獣人が村の外で集まって手厚く歓迎してくれている。
「何しに来た。人間!」
そのわりには殺意がビリビリと飛んでくる。
中には、挑発するだけであっさりと襲ってくる者もいた。
「水と食い物を頂戴。それと、ここの近くにダンジョンがあると聞いたんだけど、そこの場所も教えて」
北東にあるダンジョンは砂漠の中にポツンと存在する洞窟の地下にあるが、奥深くには続いていない。
洞窟から地下に降り、奥に進めばダンジョンの主がいる、という簡単な代物である。
しかし、辿り着くのは難しく罠は無数に存在して多くの挑んだ者を殺してきた。
又、このダンジョンには魔物が徘徊していない。
一見、もぬけの殻のようにも見えるこのダンジョン。
だが、入ってみると至る所から魔物が現れて容赦なく襲い掛かる。
それはこのダンジョンの役割の一つ、大陸への魔物の転移、だからこそ出来る技術である。
そのダンジョンの主、ズイは奥で椅子に座って骨をガリガリと齧っていた。
ズイは黒の体毛で、凶暴な猫が人の形をしたような姿をし、元々戦闘向きではなくどちらかというと諜報向きである。
それはズイだからこそ、大陸に魔物を移動させるために転移する魔法陣を作ることができたのだ。
ズイが齧っている骨は、魔物に襲わせた獣人の村から攫って来た者の骨で、幼い少女の四肢の内一つをむしり取り、齧っていた。
攫った獣人は南東にあるスピアがいる迷宮に、送る予定だ。
一匹ぐらいつまみ食いしても問題ないよね、とズイは思いながらご飯の時間までの間齧っていた。
すると、餌が来た。
ドレスのような服を着た、場違いな女だった。
人間か、こんな辺鄙な所で珍しい。新しい餌が来た。
ズイはダンジョンの中にある転移魔法陣を起動して、魔物を呼び出した。
あとは待つだけ。
自分で戦うことができないズイはいつものように、魔物達に戦わせた。
おかしい。魔物が連れてこない。
異変を感じたのは、転移魔法陣を起動させて二十分ぐらいした頃だ。
いつもなら魔物が侵入者を連れてきて、目の前で魔物に犯されたり甚振られるはずだが、連れてくる様子が全くなかった。
ズイはダンジョンの各所にある映像を見る。
しかし、
その半数近くが壊されているのか繋がらず、繋がっているものでは女性の姿や魔物の姿が一切見えなかった。
くまなく探していると、最奥のズイがいる場所に繋がる扉に女性の姿が写った。
その映像を見て、ズイは恐怖で震えた。
映像には無数の魔物が扉に群がり、魔物の奥に女性の姿が見えた。
女性と目が合い、うっすらと愉快な笑みを浮かべると扉が開いた。
そこからの展開は速かった。
押し寄せた魔物にズイは為す術もなく、拘束された。
元々、戦う力がなかったから当たり前だ。
又、侵入者の女性は魔物達に捕獲している獣人の解放に向かわせた。
「貴様。なんのつもりだ!!」
両腕を横に伸ばされて二体の魔物に捕まれ、膝を付けられているズイは睨みつけることが精いっぱいの抵抗だった。
「武刀が見ると喜びそうね」
しかし、イリスは見下すだけで会話する気はなかった。
「けど、捕まえると私が彼女達に怒られるものね」
「おい! 私の話を聞け!!」
「やっちゃいましょうか」
「おい……なにを!」
イリスの意味する言葉、ズイにはそれが何かうっすらとだが分かっていた。
「やめ──」
「食べていいわよ。それと、あなた達も死んで。生きてるの邪魔になるし」
振り向いて歩き、扉に向かう。
イリスの両側では魔物同士の凄惨な殺し合いが起こり、乱闘の中には咀嚼する音も聞こえる。
ズイが死んだことにより、大陸全土に魔物を転移する機能が使えなくなった。
外に出て扉を閉めると音は遮断され、イリスは両手を組んで上に伸ばして固まった筋肉をほぐす。
「はあ~、終わった~。もうこういう時間にゆとりがない仕事が嫌い。色々と楽しめない」
例えば、あの奥の部屋にいた猫の魔物。
普通なら楽しんだりするが、今回はそんなことをする時間があまりなかった。
エルフの森と砂漠でかなりの時間をくってしまった。
「あとは帰るだけか。ああ、辛い」
行きでかなりの時間をくったのを思い出し、帰りが憂鬱になっていると左太股が温かくなる。
「ん?」
そこにあるのは、周宇に貰った連絡手段の札だ。
札を取り出すと、模様である魔術回路が赤く光っていた。
温かくなるのは魔術回路で、それは利用することで温かくなる。
「もしもし。もしもーし」
その声は探し人である武刀の声であった。
視点がまた変わります




