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百十七話

「魔物に戦闘をやめさせろ」


「無理だ。魔物達は既に私の命令では従わない」


 武刀は戦っているであろう人と魔物の戦いを、やめさせるようにしたが無理だった。


 従わないのか。なら戦いをやめさせるのは無理か。

 暴走魔法≪バーサーク≫はどうだ?

 

「それなら暴走魔法≪バーサーク≫を解け。発動したのはお前だろ?」


「お生憎、一度使えばもう解くことはできない。魔物達はもう戻ることはない」


「そうか」


 魔物達はずっとあのまま、戦闘狂みたく戦い続けるのか。

 まあ、万里の影集団がなんとかするし問題はないか。

 

「どうした、動揺しないのか?」


 この黒エルフ、もしかして動揺すると思っていたのか?

 

「逆に聞こう。動揺する理由を教えてくれ。前の戦場がどうだったか分からないが、今は圧倒的に人間側が有利なんだぞ?」


「ぐっ……」


 黒いエルフも今の戦況を理解しているらしく、押し黙った。

 

「暴走魔法≪バーサーク≫が解けないならいいや、君の名前を教えてくれないかな?」


 いい加減、黒エルフと呼ぶより名前で呼ぶほうがいいんだよね。

 

「私の名前か? 知ってどうする!?」


 突然、黒エルフは激昂しだした。

 

「名前で私を縛ってこの国の都市で売るつもりか!?」


「売る?」


 そういえば、この世界で亜人はエルフのアルフィーぐらいしか見た事なかったな。

 もしかして、この世界では亜人は売られているのか?

 

 エルフもアルフィーしか見なかったことだし、てっきり引きこもりなのかと思っていたが……。

 

 ちょっとこの国の王都にカチコミに行きたいが、そもそも俺はこの世界から出る予定だし、余計な事をすれば問題にもなるか。

 困った、どうしよう……。

 

「おい! なんとか言え!」


「ん……そうだな。なら俺の事を信用してくれるまで名前を言わんでいいさ。ただ、その場合は黒エルフと呼ぶから。いい?」


「え? へ!」


 武刀が何を言ったのか分からず、素っ頓狂な声を上げる。

 

「私の名前を聞かないのか?」


「ああ」


「首輪を嵌めて奴隷にしないのか?」


「奴隷? 何それ!? 俺、そういう相手の意思を無視して無理矢理命令する嫌いだから」


「薬漬けとかにもしないのか?」


「しないよ、されるのは俺の方だし。だからここにいたいんだけどね」


「そう、か」


 幾つも質問し、黒いエルフは安心したような声を漏らした。

 

 それにしても、エロイ身体をしているな。

 アルフィーと比べると、月とスッポンと呼べばいいのか、一言で言えば褐色エロお姉さん、といった感じだろう。

 

 触手が拘束しているこの状況、エロい漫画でよく見るシチュエーションだな。うん。

 まあ、それは置いておくとして。

 

「このまま連れて帰る、といっても連れて帰れば皆の注目を惹きつけるだけだし」


 売られる、と言っていたしな。

 そうなれば奪われる可能性も出てくるはず。

 身を隠す何か、顔と身体を隠すフードが必要になるな。

 

「町に行くのは得策ではないな。そうなると、ここで待機か。ストリア、悪いが俺の事はどうでもいいから彼女のほうに移ってくれ」


「分かった」


 身体に纏まっていたストリアが、裾から一塊になって地面に落ちる。

 

「ひっ!」


 突然落ちた、見た事もない物体に黒いエルフは驚いた。

 それは人型となり、ストリアは黒いエルフにゆっくりと歩いて近づく。

 

「何これ? 私をどうする気!?」


「ストリア、スライムだ。あんたを拘束している娘であり、俺はあんたがまだ逃げる可能性も考慮して拘束させてもらう」


「くっ」


 拘束された腕を必死に動かし、もがくがそれは意味をなさない。

 そんなことをしている間に、ストリアは黒エルフの前まで迫っていた。

 

「やめろ」


 恐怖しながらジリジリと後ろに下がる黒いエルフに、ストリアは容赦なく飛びついて纏わりつく。

 

「ん? あれ?」


 目を瞑って耐えようと備えていた黒いエルフだが、犯されるような恐れていた事は何もされず起きず、目を開けて安堵の息を吐いた。

 

「ストリア、身動きを封じろよ」


「分かった」


「ちょっと待て! 漏れそうになったらどうする!」


「漏らせ」


「おい!」


「まあ、そんなに長くはないさ。安心しろ」

「ならいい」


 武刀は黒いエルフを完全に無力化した事で、目線を戦場に変える。


 戦況は人側の有利。

 まあ、万里がいるから当然か。

 ジブの方はどうだろうか。

 

 耳を澄ませるが、聞こえるのは遠くで起きている戦場の音。

 怪獣大決戦のような、映画で聞こえてくるような音は耳に入らない。

 

 聞こえない場所で戦っているか、それとも……。

 いや、それを考える事はよそう。

 それよりまず、アルフィーの目的の方を先に済まそうかな。

 すっかり忘れていた。

 

 武刀は再び、黒いエルフに目線を戻す。

 

「聞きたいことがある。他に同族はいるか?」


「いるとも、共に戦っている」


「その理由は?」


「私達エルフは高値で売られる。それ故に攫われることが多くてな、反抗した。魔物との付き合いもその時にだ」


 まあ、予想は出来ていたさ。

 だがそうなると、どうしてアルフィーは攫われるようなことがなかったんだ?

 

「肌が白に近いエルフがいるだろ? どうして彼らは攫われない」


「それは別の大陸の国、アザカと同盟を結んでいるからだ。もし奴隷になれば国際問題に発展する、と聞いたことがある」


 アザカ、俺が呼ばれた国か。

 そうなると、彼らの違いは国と同盟を結べなかったこと、か。

 

 武刀が思考に耽っている時、黒いエルフは不敵に笑った。

 

「来た」


「ん?」


 彼女の見ている方向、頭上に武刀は顔を上げて目線を向けると、ドラゴンとなったスピアが頭から降下していた。

 

 武刀は嫌そうな顔をし、

 

「もうこりごりなんだけど」


 近くに落ちているストラッゾⅢ型を拾った。

 

 

 

 

 

 ジブとスピアによる空中戦が始まった。

 相手の後ろを取り、ブレスを吐く。

 ドラゴンの火は全てを灰と化すが、それはジブという存在が化け物だからであり、普通のドラゴンはそこまでいかない。

 

 一撃でも喰らえば致命傷になる炎に、二人は一度たりとも当たらなかった。

 スピアは首が三つもあり、ブレスの範囲は広く容易に躱すことができないが、ジブはそれを躱してみせた。

 

 それには理由があった。

 

 こいつ、飛ぶことにまだ慣れていないよね。

 

 スピアは元々空を飛ぶ魔族ではなく、又、ジブの鱗で作られた器でありリザードマンの姿をして今まで生活をしていた。

 飛んだのは今回が初である。

 

 スピアが吐く火を下に潜るように躱す。

 

 長期戦にもなれば飛ぶことにも慣れてくるはず。

 それなら、短期決戦で決着を着けるしかない。

 どうやって倒す?

 

 火炎は当たらない。

 そうなると、接近戦しかないよね。

 

 ジブは滑空しながら振り向き、立ち止まった。

 スピアと向かい合うようになり、スピアはこちらに迫りながらまた火をを吐こうとしていた。

 

 お返しとばかりに、火を吐くためにジブも周りの空気を吸った。

 スピアはジブを射程に捉えると、二人は同時だった。

 

 両者は火炎は互いにぶつかり合い、せめぎ合う。

 力は互角で、火炎は押したり押されたりと一進一退の攻防であった。

 

 スピアはジブの三倍の首を持ち、火を噴いているがまだ身体には馴染まないこともあり、ジブに勝つことができなかった。

 

 両者の火炎はせめぎ合い、炎は周りに拡散して熱の余波が周りに伝わり、温度が高くなる。

 

 スピアは火を吐き続けることができなくり、火を吐く事をやめると両者の炎は虚空に消えて炎で隠されていた両者の姿を現す。


 しかし、姿を現したのは一人だけだった。

 

「勝ったか?」


 姿がないジブに、スピアは勝ったと思うが今までの戦いを思い出せばあっさりしすぎて、逆に不安だった。

 

 その不安は的中した。

 両腕を掴まれ、後ろに回されて拘束された。

 

「何?」


「捕まえた!」


 その声はジブの声だった。

 

「どうしてだ? 背後に回るなら気づくはずなのに」


「火に気を取られ過ぎ」


 戦いになれば視野が狭くなる。

 それは一撃で死ぬ攻撃であれば尚更であり、スピアは火炎を浴びまいと火を噴き続けていた。

 

「くそ!」


 腕を必死に動かすが、身体がまだ馴染まないこともありジブには勝てなかった。

 

「背後は弱いらしいね」


 地上で戦った時、スピアの背後を取った事をジブは思い出していた。

 

「これでさよならだ」


 ジブは周りの空気を吸い、ブレスを吐こうとする。

 確実に殺すブレスが後ろから喰らえば、死ぬことは確定だ。

 

 スピアは喰らうまいと抵抗し、降下しようともがくがそれはジブの力によって意味をなさず、足も上下に振って暴れだし、ふとしたひょうしにジブの身体に当たった。

 

 それは直観だった。

 両膝を曲げて足の裏をジブの身体に当て、蹴り飛ばす要領で膝を伸ばした。

 ジブはスピアの両腕を掴んでいるが、スピアの身体は下に向かってジブから離れようとする。

 

 それはスピアの腕を掴んでいるジブの腕を伸ばすことであり、腕が限界まで伸びて痛みを伴うが耐えた。

 

 もうちょっと。

 

 空気を吸い込みながら耐え、限界が来たと同時にその時は来た。

 スピアを掴む腕は離された。

 同時に、それを追うようにジブの口から致死の炎が追いかける。

 

 翼を燃やされ、尻尾から足にと炎はスピアの身体を燃やして蝕むが、落下するスピアを止めることは出来なかった。

 

 燃える苦しみに耐えながら、スピアは落下する場所の近くで人を見つけた。

 それは今まで邪魔をし、ことごとく生きている厄介極まりない存在だった。

 

「武刀ォォォォォォッッッッ!!!!!」


 その命を燃やす雄叫びは木霊した。

 

 

 

 

 

「はいはい。聞こえてますよ」


 冷静に答える武刀は、持っているストラッゾⅢ型をスピアに向ける。

 武刀の持つ中近距離魔術、刀身延長では空から落ちてくるスピアを凍らせるには遠すぎた。

 

 故に、最後の大技を使うことにした。

 大剣の形をするストラッゾⅢ型が形を変えた。

 

 刀身が二つに割れて左右に開き、今まで隠されていた鍔の中心には銃口のような丸い口がある。

 

 割れた刀身の断面には魔術回路があり、それと同時に氷撃、氷結の魔術が起動する。

 

「氷凛一掃」


 鍔にある銃口から、青いビームが放たれた。

 ビームの正体は圧縮した氷であり、一点に収束した氷は一瞬にして凍結させる。

 ストラッゾⅢ型から放たれたビームは空気をも凍らせ、一直線にスピアに迫り当たった。

 

 スピアは頭から氷凛一掃が当たり、氷撃により氷漬けとなり、氷結によって一瞬にして身体全体に氷が広がり、像に変わるが追撃するように空から炎が降り注ぎ、氷なんて関係と言わんばかりに全てを跡形もなく消し去った。

 

 

 

 

 

「ふう」


 氷凛一掃を放ち終えたストラッゾⅢ型は、二つに割れた刀身が元に戻って一つになった。

 スピアに向けていたストラッゾⅢ型を振るい、右肩に背負った。

 

 上空からスピアに降り注いだ炎は地上に降り注ぐ前に霧散し、消えて去った。

 

「ジブには助けられたな」


 あのまま氷漬けの状態で落下してきたら、下敷きになって死んでいたかもしれない。

 まあ、もし落ちてきたら氷園で氷の腕を作って受け止めるのだが。

 

 武刀は顔を見上げ、救ってもらったジブを見つけようとする。

  ジブがドラゴンになっていたため、発見できるのは容易いと思っていた。

 しかし、見つからない。

 

 あれ? いない。

 

 だがその直後、目の前で土煙が吹き荒れた。

 武刀や黒いエルフは反射的に目を瞑った。

 速すぎて何か分からなかったが、目の前で何か着地してその衝撃で土煙が起きた。

 

 ただ、武刀は何が着地したのか分かっていたため構えることはなかった。

 着地した衝撃で吹き荒れた土煙は一度通り過ぎると、視界を邪魔するものがなくなり着地した正体を認識することができた。

 

「疲れた~」


 ジブは空から着地したにも関わらず、それを一切感じ取れない歩きを見せ、武刀に近付く。

 久しぶりの人外状態に、ジブは疲労を感じていた。

 

「やっぱりジブだったか。どうやってドラゴンになれたんだ? 魔術は使えなかったはずだが」


「万里ちゃんに助けてもらったんだ。彼女に魔術に使えるようにしてもらったんだ」


「魔術を? ということは、万里は噛んだのか、めずらしいな」

 

「噛んだ!? どういうこと? 詳しく教えて!」


 噛まれたことを知らなかったらしいジブが、武刀に駆け寄って下から強い眼差しで見上げる。

 

「万里は吸血鬼でね、吸血鬼本来の血を吸う力の副作用として魔術回路を弄る力がある。多分だけど、ジブの魔術回路を弄る時じゃないかな。まあ、それは一つの応急処置だけどね」


「噛まれたのはあの時か。けど、そのおかげで僕が救われたわけだし」


 噛まれた事は分かっている、ということは痛みはあったのかな。


 万里に噛まれたことに、ジブは救ってもらった手前訴えるか悩んでいた。

 

「ジブ、頼みがあるんだけどいいか?」


「何?」


「アルフィーか万里か、どっちかが来ると思う。それでマントか大きい布か、顔と身体を隠せる物を取ってくるよう伝えてくれるか」


「それはいいけど、どうして武刀が言わないの?」


「逃げるためだ」


「逃げる?」


 ジブは武刀の行動理由が理解できなかった。

 

「ああ。少しの間息を潜める。そうすれば万里も帰るはずだ」


 これだけ聞けば、ジブも武刀が逃げる理由が分かった。


「会いたくないの?」

 

「ああ。だから逃げ──」


「せ~んぱい!」


 可憐で少女特有の可愛い声が背後から聞こえた。

 しかし、武刀からすればそれは死神の鎌が喉元に突きつけられたような気がした。

 

「はい。なんでしょう……」


 壊れかけのロボットのように、武刀はギギギッとゆっくりと後ろに振り向く。

 そこには、万里がいた。

 

 どうしてここにいる。

 魔物達はどうした。

 まだ壁役はいたはずだ。

 時間稼ぎしてくれないのか?

 

 万里を見ながら、武刀は必死にここにいる理由を考える。

 しかし、考えた所で万里がここにいる事実は変わらない。

 

「逃げるんですか?」


「き、きこえ……」


「はい。聞こえていました」


 武刀は恐る恐るといった恐怖の表情を浮かべ、万里はニコッ! と擬音が聞こえるほどに綺麗な笑みを浮かべていた。

 

「そうか」


 聞こえてしまったのか。

 

 万里に聞かれていたことを知り、武刀は清々しいほどにすっきりとした表情に変わった。

 

「殺さないでくれ。色んな意味で」


「分かってます、そんなこと」


 武刀の右手を万里が左手で掴み、引っぱって町に向かった。

次回の投稿は土曜になります

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