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十一話

「余所見してると、あっけなくやられるぞ」


 これじゃあ、相手を傷つけちまうな。

 穂先ではなく、石突きに返る。

 

 全身にある一を消して、両足に十。

 前に駆ける。

 さっきまで、緩やかな動きじゃない。

 急速。

 とてつもなく速い。

 

 平野の目の前に来る。

 ウッ!

 急加速から急停止。

 両足にとてつもない負担が生じる。


 だが、気にしない。

 気にする暇がない。

 足に力を掛けすぎた。

 十じゃなく五だったか。

 

 だが!

 両足の十を消して、両腕に十!

 やったあとで後悔するよりも、やる前に後悔するほうがいい。

 

「何を言ってるんだ? お前なんかにやられる……」


 平野の声が聞こえる。

 それを無視し、槍を突く。

 同時に、剣が真上から振って来るのも見えた。

 このままでは、剣とぶつかる。

 

 だから、突きの勢いを殺さずに向きを下に変え、身体に触れる直前で停止し、振り上げる。

 剣と一緒に腕も振り上がり、胴ががら空きとなった。

 

 一度槍を引き、鳩尾に石突きを叩き込む。

 

 急所を打ち抜かれた平野は咳き込み、しゃがみこむ。

 しゃがみこんで隙だらけな首に、石突きで優しく触れる。

 

「はい。おしまい」


 終わった。

 周りが静まる。

 音が聞こえない。

 だけど、すぐにノイズが入る。

 近づいてくるノイズが。

 

 そちらを見ると、さっき平野と話していた金髪不良がこちらに向かって迫って来ている。

 走る速さが、高校生では出せない速度だ。

 既に身体強化の魔法を使っているからだろう。

 

 俺は勝った、終わったという達成感から気を抜いていた。

 だから、迎撃をすることもできず、槍を横にして守った。

 

 目にも止まらぬ速さで近づいた金髪不良は、右手を握りしめて殴りかかる。

 だが、まだ距離がある。

 今のまま殴れば、空振る。

 

 なのに、爆発した。

 爆発は槍にぶつかり、爆発の衝撃で地面に足を着けながら後ろに吹き飛ばされる。

 槍から爆発の煙が昇り、さっきまでの手の重さの感覚が少し変わっている。

 試しに、右手と左手を離してみる。

 

 すると、分断されていた。

 

「お前、よくも俺のダチをやってくれたな!」


 右拳を熱く握りしめながら、金髪不良は睨んでくる。

 なんだろう。無性にイラついて来る。

 

「お前と呼ぶなよ。俺には、阿崎武刀という名前があるんだよ。それに、先に喧嘩を売って来たのはそっちなんだが!?」


 二つに分かれた槍の断面は、まるで木を無理矢理折ったような、無数の鋭い小さな槍のようである。

 

「そうかいそうかい。阿崎、爆発して死ね。俺の能力、弾丸砲撃バレット・ブラストでな」


 どうして俺が喧嘩を売られたのに、こんなことになるわけ?

 もういいや。相手も殺る気なんだ。こちらも殺ろう。


「あっそう」


 断面が鋭い。これなら殺れるか?

 喉に押し込めば、イケる!

 両手の十を消して、足に十。

 

 もう、足がボロボロだけどこっちはいけるかな?

 

 互いに前に出ようとしたとき、仲裁が入った。

 

「ここまで!」


 それは指導役でいた兵士とは、ちょっと違った。

 防具が豪華なんだ。

 そもそも、兵士というより騎士、といったほうが正しい。

 安そうな兵士の鎧とは段違いだ。

 

「両者、良い戦いを見せてもらった。だが、今日はここまで」

 

 騎士は剣を抜かず、凛とした佇まいで告げる。

 それを聞き、

 

「チッ! 分かったよ!」


 金髪不良は舌打ちをしながらも、あっさりと引いて行く。

 

「君も、それでいいかい?」


 騎士がこちらを見てくる。


「ええ、まあ。これ、どうします?」


 折れて二つになった槍を見せる。

 

「それはこちらで回収するとしよう」


 手をこちらに出してくるから、槍を渡す。

 槍を渡し、立ち去る。

 久しぶりの運動で、疲れてしまった。

 それに、これから魔導書作成を行わければならない。

 極力、疲れたくないのが本音だ。

 

 視界の端に、倒れた平野の元に結城先生がしゃがんでいる。

 手から、緑色の波動が放たれているのが見えた。

 

 

 

 

 

「勇者同士が戦った、と?」


「はい。互いに本気でやりあいました」


「そう」


 場所はミリヤ姫の自室。

 ミリヤは部屋の扉を開け、雲一つない闇の空に浮かぶ、光る月を眺める。

 

「で、誰が戦ったの?」


「それは」


 傍らには騎士が一人、ミリヤの後ろで跪いている。

 それは、平野と武刀の仲裁に入った騎士だ。

 

「ヒラノとアザキと言う者です」


「アザキ、という者は覚えてる。能力がなかった無能だった筈。ヒラノという者は……」


 ミリヤが考える素振りを見せる。


武器錬成ウェポンズ・ラックと呼ばれる、マナを消費して武器を作る能力です」


「そう、そうだったわね。で、勝ったのはヒラノさんなのね。で、アザキさんはどれほど負傷したの?」


「いえ、それが……」


「?」


 騎士が言い辛そうにしているのを見て、理由が分からなかった。

 

「買ったのはアザキです」


「あの無能が!? 魔法も使えないと言っていたじゃない!」


 それが信じられなかった。

 能力がない、ということを知って、落胆はした。

 けど、勇者であるなら普通の人よりも強いはず。

 

 だけど、魔法を使えないと知ってから、戦力として考えないようにした。

 だから、普通に魔法が使える相手、それも勇者だから勝てるとは予想していなかった。

 

「勝因はなんだと思う?」


「そうですね。まず、指導役の兵士達が十分に教えきれなかったことかと。それと、私が知らない魔法を使ったことだと思います」


「そう。なら、指導役の兵士達が減給。魔法については……そういえば、初めの指導以来、アルフィー・シスタードさんの書庫にいることが多くなったのよね?」


 確認のために聞く。


「はい」


「なら、アルフィー・シスタードさんに聞けばその魔法を教えてもらえるかしら?」

「教えてもらえるかもしれません。ですが、断られれば国との契約上、教えてもらうことはできません」


「めんどくさいわね。そうだ。そろそろ、あれを行いましょうか?」


 名案を思い付いたとばかり、顔が明るくなる。

 

「あれ、とは?」


「ダンジョンよ。そろそろ、力試しをさせても構わない頃合いじゃないかしら?」

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