百六話
黒いエルフ。
俺らの方ではダークエルフとは言うけど、本当にいるんだ……。
武刀がいた世界にも、エルフは存在する。
しかし、ダークエルフは存在しない。
何故なら、既に滅んだ後だからだ。
どこかにいる、と風の噂程度に聞いたことはあるが今まで見たことはなく、今日初めてその顔を拝むことができた。
そして、彼女が暴走魔法≪バーサーク≫を使ったエルフ……。
アルフィーの会話の内容を思い出す。
エルフが生み出した暴走魔法≪バーサーク≫。
暴走魔法≪バーサーク≫は魔物を凶暴にさせてしまう一種の洗脳。
それを使う者に一度襲われ、そして今、魔物の大群を後ろから突いた時に現れた。
ということは、ダークエルフはこの件と魔物共と共闘している。
武刀は考え事をしながら目を一瞬だけ動かして周りを確認すると、魔物の存在はなかった。
「よくもやってくれたな」
ダークエルフは静かに怒りながらも、その口調からは怒気が伝わる。
武刀は長話になるかも? と考え魔術回路を少しでも休ませるために魔術を解いた。
「なんのことだ?」
できる限り魔術を休ませるため、武刀は長話する必要がありとぼけた。
「なんのこと? 白々しい。お前が倒した魔物の事だ。お蔭で、こちらの作戦が失敗するかもしれないんだぞ」
作戦、魔物、やっぱり魔物を使う作戦か。
暴走魔法≪バーサーク≫があることだし、想定はできるが。
「それは良かった。こちらも死にたくないんでね、作戦が失敗してくれるのは嬉しいよ」
「お前!」
皮肉を言うと、黒エルフは鬼の形相で右手に持つ剣をこちらに向けた。
う~ん、怒った姿もいいな~。
鬼の形相で睨まれているが、武刀は内心にやけていた。
ああいう色っぽいお姉さん系は欧州の方に集まってて、身近にあんまりいないんだよな~。
まあ、いるっちゃいるけど。
そんなことより、やっぱりダークエルフというのは希少価値が高いな。
一人は欲しいよな~……。
ゲットするか。
「──い、おい! 聞いているか!」
「ん? あ、悪い。聞いてなかった」
考え事をしていたせいか、黒エルフの話を全く聞いてなかった。
「お前は本当にふざけているな」
「よく言われる」
怒りが膨れ上がる黒エルフに対し、武刀は平然と答える。
武刀は人間の女性に全く好意を抱くことがなく、それで周りから頭がおかしい、ふざけてると良く言われているのだ。
罵倒に聞き慣れた武刀にとって、特に何も感じなかった。
「ぐっ……こいつ」
受け止めることなく受け流され、反応を期待していた黒エルフは言い詰まった。
「もう終わりだ。とっとと殺す」
怒りが吹っ切れた黒エルフは襲い掛かって来た。
剣を上段からの振り下され、サイドステップをして右に躱して距離を取る。
ゲットしたいから傷つけたくはなし、身動きを封じるか。
「ストリア、頼みがある。俺が隙を作るから捕縛してくれ」
黒エルフに聞こえない小さい声で、武刀はお願いした。
「分かった」
ストリアは静かに頷くいた時、後ろから背中を突き刺すような殺気を感じ、瞬時に振り向いて槍を横にして盾にした。
背後からの蹴りを槍で受け止め、武刀は滑るようにして後ろに下がる。
目線をほんの少し上げて蹴った相手を見えると、そこには黒いリザードマンいた。
ただし、赤いリザードマンはトカゲっぽさがあったが目の前の黒いリザードマンは人っぽさがあった。
武刀はこの魔物の正体が何か、見た瞬間気になっていた。
なんか似てる。
この黒いリザードマンは彼女と似ている。
これは多分、自然が生み出したものじゃない。
人為的なものだ。
じゃないと、彼女と似ているとは思えない。
武刀が考え事をしている時、黒いリザードマンは武刀の後ろにいる黒いエルフに命令をした。
「何をしている。貴様には役目がある筈だ。そちらの方を遂行しろ」
「はい」
頷いた黒いエルフは武刀を大きく迂回し、黒いリザードマンの奥へと走って行った。
役目、やっぱり暴走魔法≪バーサーク≫を使うつもりか。
こいつは足止め、時間稼ぎ、もしくは俺を倒せるほどの実力があるかのどっちかだな。
「久しぶりだな?」
「えっと、誰?」
黒いリザードマンは武刀と認識があるらしく声を掛けたが、当の本人は全く思い出せなかった。
こりゃ、話す時間ある?
話す時間が長くなると考えた武刀は、少しでも魔術回路を休ませるため一度全ての魔術回路を切った。
「俺の名は……」
「そんなんどうでもいい! それよりも教えろ! どうしてジブ、ジブラリアと同じように感じる!」
武刀が目の前の黒いリザードマンと似ていたと感じたのは、ジブであった。
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