百三話
アルフィーが魔物の大群に魔法を放った時、王都に向かっていた馬車は魔物達に襲われていた。
馬車の周りには護衛の冒険者がおり、円のように馬車を囲み、魔物達と戦っていた。
魔物は狼のようで、数は三匹。
対して、冒険者は十人と多かった。
狼系の魔物は犬より一回り二回り大きく、体毛は真っ黒で上の歯から二本の牙が伸び、口からは涎が垂れており、獲物を欲しているようだった。
冒険者達は数の有利を活かし、一対一では戦わず最低ニ対一で戦っていた。
最初は冷静に対処していた冒険者だったが、狼の魔物を殺しても殺しても数が増えていき、一瞬集中力が途切れた。
その瞬間を狙われた。
狼の魔物は何か錯乱でもしているのか、躱す素振りもみせず身体目掛けてぶつかり、マウントポジションを取ると捕食し始めた。
「痛い!! やめ、やめて! やめ……」
生きながら食われ、必死に叫ぶが狼の魔物は気にせず食べ、仲間が食われているのを見た冒険者が仲間を捕食する狼の魔物に剣を何度も突き刺すが気にも止めないとばかりに食べる。
それが切っ掛けとなり、負の連鎖が始った。
一人、二人、狼の魔物に捕食され、仲間を助けようと捕食する狼を攻撃するが、別の狼に襲われてまた捕食される。
凄惨たる現場に、馬車の御者は我が身可愛さに馬を走らせた。
馬は全力で走った。
人を何十人も乗せているため長く全力で、速く走ることはできないが御者は焦っていた。
その馬が走る道の先に、人っぽさがある黒いリザードマンがいた。
御者は目の前に魔物がいることに気づいたが、止まれば後ろから狼の魔物に襲われることは目に見えているため、止まることはせずに方向を変えた。
黒いリザードマンから逸れたが、一瞬にして馬の右に黒いリザードマンが近寄り、右手を一閃してその首を刎ね飛ばした。
馬は首がなくなり倒れ、馬車は横転した。
馬車の中にいた町の住民は揉みくちゃとなり、身動きすることが上手くできなかった。
御者は馬車が横転した際に飛ばされ、目の前で馬が死ぬ所を見て恐れで逃げようとしたが、後ろから迫ってきた狼の群れに襲われ捕食した。
「うわああああああああ」
御者の恐怖の声を聞き、馬車の中でもみくちゃになった町の住民が恐怖と焦りが混じった顔をしてなんとか馬車の外に出たが、狼の魔物に捕食された。
目の前で悲鳴を上げながら食われるのを見て、馬車から逃げようとしていた人は馬車の外にでることができなかった。
「これをどうするか。男は魔物の餌になるし、女は産ませるとしよう」
黒いリザードマンは喋り、足元に魔法陣が浮かび上がりそれは馬車まで伸び、消えた。
黒いリザードマンと馬車が消えて残ったものは、狼の魔物と捕食されている人であり、馬車から逃げて捕食された人の中には、バンデットの姿があった。
「何!? 北門が襲われた?」
「はい。それ援軍が欲しいと」
「今はそれ所じゃないのに……」
北門から来た冒険者は、南門のリーダーであるアルフィーに救援を求めたが、南門は北門以上に地獄であった。
オーガや赤いリザードマンたる異常種は、氷の障害物は壊した。
そのため、水と氷の魔法で障害物を増やして時間稼ぎをしようとした。
だが、そうはさせてくれなかった。
空から、鷲の魔物が襲い掛かって来たのだ。
動物と比べて二回り以上大きい鷲の魔物は、足の爪で冒険者を引き裂いた。
その切れ味は剣のような刃物のようであり、防具の上から身体に傷を付けた。
又、衛兵の肩を足の爪で掴み、爪が身体に食い込み、暴れようとするがそれよりも先に上に向かって飛び上がり、足を離して高い所から落とした。
衛兵は潰れたトマトようにグチャリ、という音が落下した時に聞こえた。
「弓部隊は鳥の魔物を追い払え。くれぐれも仲間に当てるなよ。槍や剣の者は接近させるな。魔法隊を守れ」
アルフィーもただ見ているだけでなく指示を出すと、その指示に衛兵や冒険者達は従った。
そのアルフィーを狙って、強襲する鷲の魔物がいたが、アルフィーが気づくよりも先にジブが斧で両断してみせた。
「注意して」
「ああ、ごめん」
ジブはアルフィーを守ると、他の者達を守り始めた。
明らかに劣勢な状況に、アルフィーはここにいない者に向かって助けを願った。
何をしてるんだ。ムトウ、早く来てくれ。
次回は土曜日になります。




