百一話
くそったれが。
アルフィーは内心毒吐く。
魔物は全方位から来る。
それは調査を始めて翌日、二日目で得た情報だ。
相手はゆっくりと且つ確実にこちらの首を?み千切りに来た。
その予兆が、町の周りにいた魔物の数だ。
事前に間引きをしていて良かった、と今更だが思う。
全方位から来るが、主力は南東からやって来る。
あとの西と北は少数だが、それはあの大群から少数ということだ。
魔物が押し寄せてくると知って、町の人間はここから出ようとした。
それは貴族も一緒だった。
町が囲まれているにも構わず、魔物から逃れようとする。
しかし、そんなことは不可能に近いが今のままじゃ町が滅びるのも目に見えている。
だからこそ、彼らはここから逃げようと考える。
大金を払い、冒険者を雇って。
その考えは冒険者達も同じように考え、ここから逃げる次いでに依頼として受け、冒険者がいなくなろうとしているが、中には知り合いを逃がすために敢えて受けた者もいる。
それにより、今の冒険者ギルドは昔と比べて閑古鳥が鳴いている。
それは、現在絶賛大量の魔物を出迎えるため準備をしているから、とも言える。
ここに残っているのは、この町を守りたい、一緒に最後を迎えたい、離れたくないと思う者や冒険者達だった。
アルフィーもその一人だった。
武刀が消えて四日、ここに戻って来るかもしれないという可能性もあり、ここでずっと待つしかない。
もしこの町がなくなるのなら、守るしかない。
町に残った人達は協力し、落とし穴といったトラップ等を製作した。
罠なんて、時間稼ぎにしかならない。
しかし、何もしないよりはましだ。
「魔物が目視できました。来ます!」
冒険者ギルドに若い冒険者が、慌てて入って来て全員に聞こえるよう叫んだ。
聞いた途端、アルフィーは冒険者ギルドから出て南門に向かう。
南門に向かう道には、人があまりいない。
魔物の大群が来る前には屋台などで賑わっていたが、今では誰もいない、この有様だ。
南門に辿り着く。
既に魔物が来た知らせを聞いたのか、冒険者たちが南門に集まっている。
外と中を繋ぐ扉を開いており、外に出て魔物を確認している。
「風の聖霊よ。私を浮かして」
アルフィーは風の精霊を使い、自身の周りに風を起こし、小さなアルフィーの身体を浮かして城壁の上まで飛ぶ。
壁の上は人が横に並んで二人ほど歩けるほどの広さがあり、城壁の上から落ちないよう腰ぐらいの高さに伸びた壁のような手すりがあった。
城壁の上には多くの衛兵が外を、遠くに見える魔物の群れを見ている。
空へと浮くアルフィーは魔法をやめて城壁の上に着地し、走って城壁の手すりから上半身を出して外にいる魔物の大群を見る。
遠いせいで魔物は豆粒のようにしか見えないが、目視できた。
「来る、か。そちらの仕事は任せたぞ。ジブ」
「ああ。任された」
遠くにいるアルフィーの声が聞こえる筈も無いが、ジブは答えた。
彼女は南門の外で待ち構えている冒険者たちの先頭、ジブは斧を地面に突、き石突きを両手で掴んで仁王立ちしていた。
それは魔物の量、主力、範囲を知った二日目の翌日、三日目にこの町に残る人で防衛戦力の振り分けを冒険者ギルドで話し合った。
「残っている人は?」
この場を仕切っているのは、アルフィーだった。
ここの冒険者ギルドの長は、我が身可愛さに逃げて行った。
「戦える者は、百五十名ほどです。冒険者五十名、衛兵百名。計百五十名」
答えてくれたのは、ここに残った物好きな冒険者ギルドの男性職員だ。
荒事しかできない冒険者に変わり、冒険者ギルドの仕事をやってくれている。
「百五十名で、魔物の主力は正確には分かりませんが、五千以上だと」
相手はこちらの五十倍以上。
指揮官ならば、勝てることを諦める量だ。
普通なら死ぬまえにここからいなくなりたいが、ここに残るのは物好きな者達ばかりだ。
そしてアルフィーもその物好き。
武刀が帰ってくることを信じ、ここを守るも物好きだ。
その物好きも、もう一人いるが。
「王都からの連絡は?」
五十倍の数は勝てない。
なら援軍を呼ぶ。
「編成は終わったようですが。ここに来るには時間がかかるそうで……」
「くそがっ!」
アルフィーは感情的に、今の心情は吐く。
頼みの綱が来ないことを聞けば、誰だってそうなる。
感情的になったアルフィーは、一度深呼吸をして落ち着く。
「ここの町の門は二つ。北と南でいいんだな?」
「はい!」
「なら、南西から来る魔物達に対し、南門に戦力を集中。北門はまだ逃げきれていない住民の避難を優先。それと、北門もいずれ戦場になる。そのため、罠は北に優先」
「分かりました!」
アルフィーの言葉を聞いた者達は、他の者に知らせるために外に出て行った。
そして翌日、町の戦場となった。
魔物の大群は、雪崩のようであった。
生きた雪崩、蠢く波。
飲まれたら最後、絶対に生きて戻れない、そう感じた。
「弓隊。魔法隊。準備!」
アルフィーは城壁の上に立って声を張る。
その下の南門の外には、冒険者と衛兵が待っていた。
ただし、外にいるのは弓や魔法を使う者だけだ。
弓を扱える者は、弦に矢を番えて引き絞ってアルフィーの言葉を待つ。
魔法を使える者は、いつでも魔法が使えるよう
相手の魔物が、こちらの町という名の砦を落とそうとする。
ならばこちらが行うのは、籠城戦。
防衛するには籠城戦が有効だ。
その前に、奴らの数を減らす。
魔物が近くにまで接近する。
一目見て、強い魔物がいないと分かる。
強いのはいないか。
それは良かった、とアルフィーは思う。
強い魔物がいれば砦が破られるのに時間はかかるが、弱い魔物がいればなんとかなる可能性が高くなる。
弓隊と魔法隊の準備は完了した。
しかし、まだ射程距離には入っていない。
群れで迫る魔物だが、こちらにゆっくりと、まるで命令を従っている様子に見える。
やはり、魔王の進行。
それに暴走魔法≪バーサーク≫を使えるエルフの仲間もいるはずだ。
なんとかしないと。
軍隊の隊列のように歩く魔物達が、弓と魔法の射程距離に入った。
「弓隊。撃てえぇぇぇぇぇ!」
矢が宙に放たれ、小さい孤を描いて魔物達に届く。
「魔法隊。撃てえっ!」
まだ矢が魔物に当っていないが、魔法隊は魔法を放った。
冒険者が扱える魔法は人によって得意な魔法が異なり、色々な魔法が直線的に魔物に向かった。
魔物が最初に当たったのは、矢だった。
上から降ってくる矢に、魔物達は戸惑い、焦り、混乱したが何か命令を受けたのか、仲間が倒れても魔物達は進んだ。
が、混乱がなくなってすぐに魔法に襲われた。
魔物達は火によって火達磨となり、水により身体の一部が吹き飛び、風によって身体が切断され、氷によって氷漬けとなり、土により身体に穴が開く。
それでも尚、魔物達は前に歩く。
自分で考え、判断する能力ができないようにされているようだ。
だが、それがある意味都合が良い。
こちらの起こしたアクションに対し、相手は魔物に伝えるためワンテンポ動きが遅れるからだ。
今が最大の成果を出せる、とアルフィーは判断した。
「ジブ。今だ!!」
外にいた魔法や弓の冒険者は既に町の中に入り、外にはジブ一人しかいない。
「了、解ッ!!」
石突きを両手で掴んで地面に突き刺していた斧のグリップを握り、ジブは斧を振り上げる。
「イグニッション!! ブレイクゥ!!」
斧にある魔術を発動させ、地面に叩きつけた。
魔術は起動し、斧から地面に向かって衝撃が伝わり、その衝撃は地面にひびを起こしながら魔物達の方に伝わる。
範囲としては中央の魔物達の地面にしかひびが入っていないが、中央辺りまでひびが届いた。
そして衝撃が地面に届き終えると、Uターンするように戻ってくる。
ひびの入った地面は隆起し、中央の魔物達は非常に歩きにくそうだ。
しかし、それは中央だけで左右には全く効果がない。
「ごめん! 距離を優先したから、威力がかなり削がれた」
「いい。私が命令したことだ」
この目的は足止め。
逃げれないように時間を稼ぐために。
まあ、魔物達が判断できないからどっちみち良かったんだけど。
役目を終えたジブは町の中へと入って行き、門は閉まる。
その姿を見ながら、アルフィーは魔法を発動する。
「水の精霊、雷の精霊、土の精霊、氷の精霊、私に力を貸して」
アルフィーは杖を両手で持って願うように構えて、溜め込んだものを解き放つようにして魔法を放った。
水の精霊が空から大量の水を流す。
地に落ちた水は土の精霊により吸収され、一瞬にしてぬかるみと変わる。
水はそれでも尚空から吐き続け、地は吸収しきれず、魔物達の膝下まで泥水が溜まる。
雷の精霊がその泥水に雨のように電撃を降り注ぎ、魔物達は感電死するがさらに追い打ちとして、氷の精霊が泥水を、空から流れた水により濡れた身体を氷漬けにする。
一瞬にして魔物達を殲滅し、城壁の上にいた者達は歓喜の声を上げた。
それは轟き、下で何も見えなかった者達も理解した。
アルフィーも全魔力を絞り切った魔法で魔物を殲滅し、足がガタガタと震えて立つことを維持できず、杖を支えにして立っていた。
町が救われたことを安堵し、地平線の先を見ると安堵していた顔が凍った。
そこには魔物がいた。
さっきとは数が劣る。
だが、明らかに強い魔物を集めている。
思えば、今の戦いは明らかに弱い魔物ばかりだった。
数が多いからこそ、主力だと勘違いしていた。
故にアルフィーは本気で殲滅した。
それが相手の思惑通りだとも知らずに。
やられた!
気づいた時には遅かった。
前哨戦は終わった。
次に始まるのは、戦争である。
魔物と人間、エルフ、ドラゴン、魔術師達との。
次回の投稿は火曜日になります。
ほんの少し、投稿のペースが落ちます。
金曜日の連続投稿でストックが・・・
まあ、それも一週間か二週間ぐらいで収まると思います。




