迷い込むは、美術館
完全なる見切り発車!イェイ!
目をさますと、俺は仰向けに倒れていた。
「・・・??ここはどこだ?」
見慣れない景色。
さっきまで美術館にいたはずだが・・・?
「まずは落ち着いて、どうしてここにいるのかを確認しないと・・・」
そういって俺は目を閉じ、美術館に入ってからのことを思いだす。
今日は、俺と白雪、そして深雪の三人で有名な画家『ゲルテナ』の美術館に来たんだ。
そこでしばらく別行動する事になって・・・
「ああ、あの海か。」
意識を失う前に見た絵。
暗く飲み込まれそうな色彩の海に、どことなく虚無的な目をした大きな魚が描かれていた。
確か名前は・・・
「・・・っと、そんなことは割とどうでもいいんだ。とりあえず二人と合流して・・・」
ここがどこかはわからないが、まずは二人の無事を確認しないと・・・そう思い、携帯を取り出すべく右のポケットに手を入れる・・・が
「・・・ない?」
確かにそこにいれたはずの携帯がない。
別のところに入れたか・・・?そう思ってポケットを探るが、どこにもない。
「落とし・・・てるわけないし、無くなった、か・・・」
あとで白雪に怒られるなぁ・・・
そこで、俺は気づく。
「・・・ん?なんだこの薔薇・・・珍しい色してるけど・・・」
先ほど俺が倒れていたところのすぐ近くに、真っ黒な薔薇が落ちていた。
「・・・こんなもの持ってた覚えはないし、でもこのままじゃ枯れるよな。」
俺はとりあえずその薔薇を回収し、手近なドアから部屋の外に出ることにした。
「美術館・・・だけど、何か雰囲気が違うな・・・」
ドアの先にあった景色は、俺たちが来た美術館そのもの。だが、そこに飾られていたはずの作品はどこにも見当たらない。
「・・・なーんか、面倒な予感・・・」
暫く美術館を探索し、俺はある疑念を抱いていた。
「人が、いない。」
俺たちが来た時には見に来た人々であふれていたはず、それが誰もいない。さらに
「絵画は消えてないってことは・・・」
色違いの服を着た首のない人形『無個性』。いたるところにあったそれは一体残らずなくなっているが、壁にかけてある絵画『心配』や『吊られた男』といったものは残っている。
「うえぇ・・・動いてたらシャレにならねぇぞ・・・うわっ」
いた。
黄色の『無個性』が、道のど真ん中に。
なぜかどこぞの拳王のようなポーズで。
「なんでそのポーズなんだよ・・・」
突っ込みを入れ、よけて進もうとすると・・・
「・・・・!!」
ポーズをやめ、こちらに向かって走り出す。やっぱりかよ畜生!!
「だが、所詮人形。俺の相手じゃねぇ!!」
俺を捕まえようと手を伸ばす『無個性』、この道は狭く、しかも直線。後ろにはさっきの部屋、前からは走ってくる人形。
「でも、狭いだけで道がないわけじゃない。」
俺は地を蹴って飛び上がると、勢いをそのままに壁を蹴る。そのまま人形の上を走り抜け、反対側へと着地する。
「・・・ぐうっ!?」
ふいに、胸に鋭い痛みが走る。まるで心臓をむしられているような・・・
人形は俺には見向きもせず、何かを・・・俺が壁を走るときに落ちた黒い薔薇を、一心にむしり続ける。
そしてそのたびに胸の痛みは増し、意識がもうろうとしていく。
このままじゃ・・・やばい!!
「くっそ・・・あれが「命」かよ・・・」
今更気づいてももう遅い。花弁はあと二枚。
おそらくあれがすべて散ったとき、俺は死ぬ。
死ぬ?俺が?
「そいつを・・・離しやがれ!!」
気力で立ちあがり、人形を思い切り蹴り飛ばす。
人形は簡単に吹き飛び、ぎりぎり最後の花弁をちぎられずに済んだ。
それを回収し、安堵したところで、俺はそれに気づき、戦慄した。
「おいおい・・・冗談だろ」
見渡す限りの赤。青。黄色。
大量の人形たちが、俺を、俺の命を奪わんと迫ってきていたのだ。
「くっそ・・・」
前からは大量の人形。後ろには先ほど蹴り飛ばした人形。全力で蹴り飛ばしたのにその体に目立った傷はない。
破壊は不可能。対して俺に残された花弁はあと一枚。
「だめか・・・」
どのパターンを考えても、生き残れる方法はない。
むやみに前方に突っ込めば即死、後ろに逃げても待っているのは部屋だけだ。
そこに逃げ込んだとしても、いずれ奴らの餌食になるだけだろう。
行くも地獄、戻るも地獄。
「どっちも地獄なら、少しでも可能性の高いほうに・・・」
そう考えて、俺は前方へと薔薇を全力で放り投げる。
こいつらがどこまで続いてるかはわからない。
でも、こいつらにはジャンプはできない。それはさっきの黄色で確認済みだ。
「さて、あとは俺の体力が持つかどうか・・・だっ!!!」
姿勢を低くして、空気抵抗をできるだけ小さく。
そして、俺は再び地を蹴り、跳ぶ。
さっきは一体相手だったから一歩ですんだ。
でも、今度は・・・!!
「うらあぁぁぁ!!!!!」
壁を蹴り、落ちる前に次の足で踏み込み、また蹴りだす。
それを繰り返し、俺は壁を走る。
もちろん、宙にとんだままの薔薇を回収したうえで。
「あぶねーあぶねー。下手すりゃ速攻終わりだったな」
ゆっくりとこちらを振り返る人形たちを見ずに、そのまま駆け抜ける。
美術館にしてはありえないほどに広い道をほぼ反射で走り抜けると、目の前に両開きのドアが姿を現した。
「なるようになれ、だ!!」
もしこのドアの向こうに人形がいれば、俺はもう諦めていただろう。
だが、そこにいたのは。
「…誰…?」
小学生くらいの少女だった。




