第1話
「ABILITY APPLICATIONから招待状が来ています」
起床した俺は一番にスマホを起動し、そのメールが着ていたことに気づいた。10年程前なら迷惑メールは多くの人に届いていただろう。しかし今の時代、迷惑メールが届くことはほとんどない。そもそもメール機能を使わないため、メールアドレスを誰かに教えたり、サイトに登録する際に使うこともないからだ。
「ア、アビリティーアプリ? 俺横文字弱いんだよなー。どういう意味やろ?」
メールフォルダには初めに購入した時に届いた登録完了メールしかなかったからだろうか。このメールからはどこか異質な感じがした。気になってメールを開いて見ると、そこには謎のURLが記載されていた。
「んー、まずアビリティーの意味がわかんねーや。えーっと、ゴグルか」
検索サイト『goggle』を立ち上げ、検索欄に「アビリティー 意味」と打ち込み、エンターキーを押す。何十万件もの検索結果が出てきたが、その中で一番上にあったサイトを開くことにした。画面が切り替わり、辞書サイトにアクセスされる。
「あ、アビリティーじゃなくてアビリティなんか。えーっと、技術や能力か。んじゃアビリティアプリってのは能力アプリってことか?」
能力アプリ?使うとアニメで使われているような特殊能力でも使えるようになるのか? そのとき全身を電流が走る感覚に襲われる。何かが頭の中で繋がった。
「ん?待てよ?あの都市伝説ってこんな感じの話じゃなかったっけ。もしかして……」
俺は何かに惹かれるようにさっき届いたメールのURLを押した。そのまま画面が代わり、いつもの見慣れたアプリマーケットのダウンロードページに移った。アプリの説明欄には「完全招待制アプリです」としか書かれていなかった。
一見怪しげには見えた。だけどもし都市伝説のアプリが存在しないならそもそもそんな噂なんてたたないんじゃないか? 試しにダウンロードして、やばそうならアンインストールすればいっか。それにもし超能力使えるようになったら……。
俺は何も考えず、安易にダウンロードボタンを押した。容量はそれほど大きくないらしく、30秒ほどでダウンロードが完了し、そのままアプリが起動した。するといきなりスマホの画面が目を開けてられないほどの光を発した。あまりの眩しさに目を閉じるがそれは一瞬の出来事であったらしい。少しずつ目を開いてみると画面に何か文字が書かれていた。
「人体認証登録完了」
なんだこれは。呆然としているうちにまたスマホの画面が移り変わり、使用上の注意という画面に切り替わった。俺はさっきの人体認証というワードに引っかかりながらもスマホの画面に目を向けた。
「使用上の注意。
①このアプリはアンインストール出来ません。
②このアプリを使用することであなたに合った超能力を身につけることができます。
③超能力の使用には対価があります」
対価??読み途中であったがそのワードに若干の恐怖を覚える。俺はとてつもなくやばいアプリをダウンロードしてしまったのではないか、と。しかし次の注意事項を読むことでその恐怖は吹っ飛んだ。
「④対価はスマホの充電、か。あぶねあぶね。寿命とか持ってかれるのかと思ったぜ」
少し心を落ち着かせ、続きを読むためにスクロールを下に下げていった。しかしそこにあった⑤の注意事項で俺の体中から変な汗が止まらなくなった。
「⑤充電がなくなった瞬間、使用者は死に至ます。またスマートフォンが壊れた場合も同様に使用者は死に至ます」
使用上の注意は⑤で終わっていた。充電が無くなったら人が死ぬ?馬鹿らしいにも程があるだろ。第一どうやって? これじゃあほんとに『スマホが臓器』じゃねーか。いや、待てよ。さっきの人体認証登録ってなんだ。何故あんなことが必要なんだ?
もしあれで脳みそとスマホが俺の知らない何らかの方法でリンクしていたとしたら?スマホの故障や充電切れでそれまで送られていた特定の電波が届かなくなった瞬間心臓が止まるようなシステムだったら……。
だが俺には驚く暇もないと言わんばかりのスピードですぐさま画面が切り替わった。俺が読み終わったことがわかっているかのようなタイミングに背筋が凍った。だが次の画面をみてまた俺の中にあった恐怖という感情が一瞬にして消え去った。
「あなたの適正能力を判断するため、いくつかの質問をさせていただきます。解答しなおすことはできませんので誤ったクリックに注意してお答え下さい。選択肢をクリックした瞬間次の画面に移り変わります。
①あなたが得るとしたらどのような属性の能力を得たいですか?
火、水、木、土、雷、光、闇」
先程の恐怖なんてなかったかのように自分が興奮していたことに気付いた。早く能力をゲットしたい。使ってみたい。そんな思いに俺は取り憑かれているのかもしれない。
「七種類か。まぁ闇はかっこいいけど厨二臭いよなー。んでなんだかんだみんな選びそうやしー……ん?なんだこれ」
それは闇の項目の下にあった「次の質問へ」という項目。
「この項目おかしくねぇか?」
最初の記述では選択肢をクリックした瞬間に次の質問に行くと書いてあった。しかし何故わざわざそのような項目があるのか。無回答が可能なのか。もしかしたら特別なことが起きるかもしれない。俺は「次の質問へ」という項目をクリックした。
するといきなり陽気な音楽が俺のスマホから大音量で流れる。あまりのことにベットから転がり落ちてしまった。一体なんなんだよ。持っていたスマホに視線を戻すと画面が先程のものから切り替わっていて何か書かれていた。
「陣内一馬様、おめでとうございます。あなたは先程のページの違和感にお気づきになった10人目のユーザーです。よってあなたの身体、精神に最も適した特別な能力を授けます」
画面を下へスクロールさせていくとそこに俺が授けられた能力についての詳細が書かれていた。
USER NAME:陣内一馬
ABILITY:纏い(Lv.1)
ATTRIBUTION:無
DETAILS:体にオーラを纏うことができる。アプリのルーレットを使うことで属性を付与させることも可能である。ただしルーレットは充電の十分の一を使用する。
「オーラを纏うとかめっちゃ厨二感やばい能力だな。オーラで肉体強化したり部分強化して防御力を上げることも可能ってことか。ルーレットはちょい燃費わりーな」
俺は自分に能力が宿ったことに興奮した。使ってみたい、漫画のキャラのように闘いたい、と。この時俺は初めの使用上の注意の充電切れのことなどすっかり忘れていた。そう、何故このアプリが俺の名前を知っていたということさえも。
ドカーーーン。
俺が死のリスクを忘れていたことに警鐘を鳴らすかのように爆発音が家の外から聞こえた。日常的に生活していたら聞くことのないほどの轟音に全身から嫌な汗がとめどなく流れる。何かが俺の家の前で爆発した。俺がこのアプリをダウンロードした、この時に。
「おい、そこにいんのはソナーでわかってんだ。早くツラ出せ。家ごと燃やすぞ。」
外からドスの利いた声が聞こえた。2階の窓から気付かれないように恐る恐る顔を出すと、外にはスキンヘッドで額に傷跡のある厳つい男が立っていた。その容貌から堅気の人間ではないことが伺え、俺は自分の心臓の鼓動が早くなっていくのを感じた。ソナー?まさかアプリ所有者がどこにいるか探知する機能がこのアプリにあるのか?それともあの男の能力か?
俺はこの時になって自分の心の中に恐怖や焦りといった感情がなく、むしろ冷静であることに気付き、驚いた。さっきの爆発音が逆に俺を冷静にさせたのか、もしくはこの非日常的な展開に興奮しているのかもしれない。
「とりあえず分かるのはあいつの能力が恐らく火属性だってことだ。ソナーってのが能力ならそんな簡単に情報を漏らすはずがないからな。ならここで少しの充電を使ってでも属性を付与したほうがいいかもしれない」
俺はあのアプリを開いた。アプリを開くといくつかの項目があり、そこにはソナーの項目もあった。あれは予想した通り、アプリの機能だったらしい。俺は1番上の項目、ルーレットのところをクリックした。
すると画面が移り変わり、ルーレットが映し出された。ルーレットは八つに分けられていて、火、水、木、土、雷、闇、光、?となっていた。?はなんだ。でも今は考えてる余裕はない。
俺がルーレットの画面を押すと、ルーレットが回り出す。目にも止まらぬスピードで回っていた針の回るスピードが徐々に遅くなっていき停止した。その針は闇を指していた。
「ちっ、闇かよ。今すぐ使いたいから複雑そうな属性は避けたかったが……。しゃーねー」
俺は使い方がわかっていたかのように体中にオーラが張り巡らせていった。そのことに違和感を覚えた。オーラに包まれた感覚はどこか懐かしい感じがした。そして頭に浮かんでくる闇のオーラの使い方と能力。
「よし」
俺は部屋の端から走り、目をつぶって窓ガラスに飛び込む。窓にぶつかった衝撃。そして窓ガラスが割れた破片が俺の右腕に刺さる。はっと目を開けると俺の体は空中に投げ出されていた。慌てず、空中で体勢を整え、地面に着地した。
着地した先は男の丁度真ん前であった。着地の衝撃はオーラで緩和させたため、それ程ではないが、衝撃でその部分のオーラが剥がれる。初めて使ったため、厚さの調節ができていなかった。
男はいきなり飛び降りてきた俺に一瞬目を見張ったものの、すぐに男の表情が引き締まる。場数慣れしているのだろう。こんなちょっとした事では動じない。
「やっと出てきたと思ったら闇か。こりゃ厄介だ。早めに始末しとくか」
男はそう言いながら手のひらを俺の方向に向けた。すると、男の手のひらからものすごい勢いで炎が俺に向かって発射された。だがそれは想定内のことであった。俺は闇のオーラを男のように右の手のひらにだけ集中させた。
充電50%。その手のひらで炎を受け止める。一瞬の衝撃。歯を食いしばり炎の勢いに耐え、その炎を握りつぶす。するとそのオーラによって消滅させられたかのように男が放った炎は消滅した。
「なに!?!? やはり5%じゃダメか。甘く見すぎた。お前に出し惜しみは無駄やな」
そう言って男は今度は右手だけでなく、全身に炎をを纏い始めた。俺は危機を察知した。この量はやばい。炎が男の全身隈無く纏われているため、ノーダメージで攻撃を与えることが出来ない。確かにオーラを纏えばダメージを軽減することは出来るだろうが、恐らくやつは自分の充電のほとんどを使っている。
それくらい炎が先程より純粋な色であった。そしてどんどんふくれあがっていく。恐らくこの一撃で俺を仕留めようとしている。あの量では先程のように右手で受け止め、闇のオーラの能力で『破壊』しきれない。頭が死を感じる。全身をアドレナリンが駆け巡っていた。
しかしその感覚に怯えることはなかった。むしろこの非日常的で漫画のような展開に自分がいることが楽しくて仕方が無い。今までの俺は『あの日』を境に家から一歩も出ず、引きこもりの生活をしていた。あんな非日常的で自分のすべてを奪った出来事から目を背けていたのかもしれない。
だけどもし、この力を使いこなせれば、『あの日』の真相にたどり着けるかもしれない。力の無かったあの頃の俺の心を粉々にしていった『あの日』を。
俺は全身に最低限の薄いオーラを貼った。このオーラは元々の俺の能力で、属性をまとっていないものだ。身体強化と防御力を高める。そして俺はさっきのように右の手のひらに闇のオーラを集める。あの炎を打ち破り、あの男を倒すには全体ではなく、むしろ一箇所にオーラを集中させることで、密度をあげ、威力をますことができる。
「おもしれー。俺の炎とやり合おってか。気に入ったぜ坊主」
男は炎を纏ったその体で俺に向けて突っ込んでくる。足に纏った炎を足と地面との間で爆発させてどんどん加速してきている。予想以上のスピードに驚きながらも、俺は身体強化した足で思い切り地面を蹴り、ジャンプして男の突進を交わそうとする。
しかし男のスピードが想定していたよりも速かったため、ジャンプした俺の体めがけて伸ばした男の手が俺の足を掴みとる。そして俺を地面へ投げつけた。咄嗟に受身を取り、体制を整えようとするが男に掴まれた足の火傷の痛みで少し体勢を整えるのに時間がかかってしまう。
そんな隙を見逃すハズもなく、男は俺に向かって右ストレートを繰り出す。しかし俺はそれを予想していた。その右ストレートを闇のオーラを纏った右腕で受け止める。そしてその箇所から徐々に闇のオーラで炎を破壊していった。
男は驚愕の表情を浮かべ、手を離そうとするが俺はそれを許さない。闇のオーラで掴んでいた男の右腕を握力で破壊する。握力の強さは通常の二倍ほどになっていた。身体強化の賜物だ。
「ううっっ」
男はうめき声をあげながらも空いている左手で俺を殴ろうとしている。しかしその左腕が振るわれることはなかった。男が俺の右手にあるものに気付いたからだ。
男はまたも驚愕の表情を浮かべて俺を睨みつけながら言った。
「何故。何故お前がそれを持っている!?!?」
男の目線の先、俺の左手に握られていたのは男のスマホートフォンであった。俺は男の右腕を離し、後ろにジャンプして距離を取った。
「お前はさっき俺がジャンプしてよけようとした時にとっさにスマホを持っている左手でつかもうとした。左手でスマホを持つこと。それが能力の発動条件なんだろ? お前が俺を地面へ投げたとき、空中に投げ出されていたスマホをお前が気付く前にすぐ回収したよ。だから受身が一瞬遅れたんだよ」
俺の言葉を男は呆然した顔で見つめながら聞いていたが、終わったと同時に男は崩れ落ちるように倒れた。充電が切れかけているのだろう。さっき男の腕を掴んだ時にほとんどの炎を破壊したからだ。
あの炎が破壊されず、そのまま戻されれば充電が戻るはずであったが、その炎を破壊したため、その分の充電を失ったのだ。一応警戒し、全身にオーラを纏い男に近づくが、男に抵抗する気力はなかった。
「俺の負けだ。殺せ坊主」
男は負けたというのに清々しい表情をしていた。
「何言ってんだよおっさん」
だけど俺は全身のオーラをとき、スマホに充電を戻す。俺の充電も残り10%でギリギリだった。炎を破壊していた時に男の炎の威力でオーラが持っていかれたため、最初に纏ったすべてのオーラが充電として戻ったわけではなかった。正直もう一度やったらどうなるかわからない、それくらい拮抗した闘いであった。
「俺さ、やんなきゃなんないことがあるんだ。それで仲間が必要なんだ。おっさんの強さは身を持って体感してるからさ。俺にはおっさんが必要なんだ」
おっさんは唖然とした表情をしていた。しかし俺が言ったことは本心からの言葉であった。俺が勝てたのもおっさんが俺が初心者であることを見抜き、油断していたからだ。それを利用して勝ったとゆうのは明らかであった。
それにこれからの闘い。俺一人では無理だ。このアプリについての知識や情報が無さすぎる。そういう面でもおっさんが必要なんだ。
おっさんの表情が変わる。俺の真剣な表情でふざけたことを言っているわけではないことがわかったのだろう。それは柔らかな表情であった。
「ったく、どこの物好きだよてめぇは。まぁだが、お前がこれからどう成長してくか、見ていきたくなっちまった。面白い人間だよお前は」
「おっさん程じゃないって。俺が素手だからっておっさんも素手で来なくても良かったんだぜ? 」
俺はおっさんに手を差し伸ばしながら言った。おっさんは一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐ声をあげて笑っていた。
「ったく、そこまでわかってたか。っつっても初心者って甘く見すぎてた俺のミスだ。お前が助けてくれた命、お前のために使わせてもらうぜ」
そう言って俺の手を握り締める。俺はおっさんの手を引っ張り、立ち上がらせた。
「俺はお前って名前じゃない。陣内一馬だ、よろしくな」
「俺だっておっさんって名前じゃないっての。袴田猛だ。」
二人の間には確かな絆が芽生え始めていた。先程命を取り合っていたことを感じさせない程、確かな絆を。




