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人たらしの恋  作者: 琥珀まみ
19/30

冬、しんしんと-6

どれだけ、そうしていたんだろう。

気づけば辺りは、暗く、遊んでいた子供の声もしない。


ため息をついて、立ち上がりかけた時に、見慣れた人影に気づいた。

カチリと音がして、ぽうっと赤い火が灯る。


微かに、漂う煙草の匂いに僕は目を見開いた。


「細谷先輩…」


思わず、声をかけてしまっていた。

彼女の兄だ。


僕の声に少し驚いた様な表情(かお)をしたけど、悪びれる訳でも、動揺した訳でもない。


「ばれたか」


ちょっとだけ、苦みを含んだ笑顔を浮かべてそう言っただけだった。


ベンチで、細谷先輩と並んで座る。

さっきの彼女の泣顔がふと、浮かんだ。


「…妹がな、泣いてた」


ぽつりと、つぶやく様に言われ、思わず身体が強張る。

なにも言えずに項垂れた僕に、細谷先輩は軽く笑った。


「なんとなく事情は聞いてるよ…お前、女ダメか?」


からかう訳じゃなく、軽蔑を含んだ声でもなく、ただ、事実を聞いた、そんな問いかけに促される様に、僕は小さく頷いた。


「俺と同んなじ、だな」


驚いて、顔を上げた。

煙草の煙を吐いた細谷先輩の表情(かお)が、どうしようもなく乾いていて、でも、何処と無く道に迷っている様な色を含んでいた。


言葉を交わしたのはただ、それだけ。

煙草を吸い終わるまで、僕らは並んでただ座っていた。

何かを喋る必要もなかった。

道にはぐれた者同士、やっと人に出会った。

そんな安堵感があったのは、僕だけじゃないと思う。


結局、僕と彼女は別れた。

彼女に新しい恋人ができたからだ。


ホッとしたような、少し淋しい様な複雑な感じだった。

間違いなく僕は彼女が好きだったからだ。

けど、お互いにベクトルが違っていた。

どこまでも、重なり合うことはできない。


細谷先輩とも、合う事はないと思ってたけど、なんとなく、あの公園のベンチで会っていた。


初めて、お互いに触れ合ったのはそれからしばらく後の事だ。

恋愛感情と言うには、頼りなげで。

同志、とでも言うのだろうか。

触れてみたい、ただ、その欲だけだったような気がする。


公園のベンチで待ち合わせをして、ラーメン屋とか、ファーストフードの店で食事をする。


『お前、何食べさせても、美味そうじゃないないな』


苦笑いする細谷先輩に申し訳無い気持ちになったものだ。


ビルの階段。

誰の目も届かない場所で、僕らは抱き合った。


後ろは使った事はなかった。

ただ、お互いの肌を、確かめ合う様にして隅から隅まで指や手のひらで辿った。

唇を触れ合わせて、温もりを確かめあった。

閉鎖された幼い世界。

そんな場所で僕らは二人きりだった。



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