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人たらしの恋  作者: 琥珀まみ
18/30

冬、しんしんと-5

どうしても、一人で店に入る気にならない。

どこもかしこも、小杉の面影があって、今は二人の姿を見るのも胸に堪える。


なのに今夜に限ってお気に入りのコンビニのスープは売り切れ。

かと言って、コンビニのハシゴをする気にもならないくらいに外は寒い。


雪は雨になって、それが余計に寒さを増していた。


もう、何も食べる気にもならないから、仕方なくコンビニを出る。


駐車場に入ってきた車を横目に、とにかく家に向かう。


「横井?」


ふいに名を呼ばれドキリとする。

こんな時間に小杉が、こんな場所に居るはずもない。

なのに、僕はあの男の声で名前を呼ばれる事を何処かで待っているんだ。


何気なく振り返る。

社の人間だろうか。


「やっぱり横井だ」

「…細谷先輩」


穏やかな笑顔を浮かべた長身の細身の人は、遠い昔、僕を求めて、そして去って行った人だった。



ーー 飴色のテーブルの上に琥珀の香り高いウィスキーが二人分。

差し向かいに座った人の燻らす煙草の紫煙が立ちのぼり、言葉も無い僕らを包んだ。


あの頃、悪戯にこの人はこうして煙草を吸っていた。


ーー 明るい弟妹と、父と母。

そして、一人、その中で溶け込めずにいた僕。


だからと言って、冷たくされていた訳でもなく、嫌っていた訳でもない。


ただ、家族との間にどうしようもなく、薄い膜のようなものがあって、それがいつも僕と皆を阻んでいた気がしていた。


それは、僕が抱えている形にならない気持ちが原因だったんだけど。


そんな気持ちを抱えたまま僕は、高校生になった。

同級生に、華やかではないけど、優しい女の子がいた。

その子と、付き合ってみたりしたけど、彼女が望むような付き合い方がどうしても、僕にはできずにいた。

今、僕の目の前で煙草を燻らしている人は、その彼女の兄で、高校の先輩だった。


僕とは真逆の人で、明るくて、人を惹きつける話し方、友達も多くて、生徒会長に二年連続で望まれる様な人だった。


けど、何処か、その瞳の奥に乾いた何かを隠し持っている。

そんな気がして仕方なかったんだ。


そんなある日、彼女の家で、言い合いになった。

どうして、キスしてくれないの?

私を好きじゃないの?


彼女はそう言って、泣きながら僕を責めた。

きっと、彼女は不安だったんだろう。

周りの友達の付き合い方と、あまりにも違う僕らに。


望まれても、僕は彼女にキスさえできなかった。

抱きしめて、慰める事はできても、彼女にそう言う気持ちを持つ事が出来なかったからだ。


気まずい気持ちで、彼女の家を出た。

一人帰る、夕暮れの道。

家には帰りたくなかった。

目を逸らしていたままの、僕の奥にある秘密に、僕自身が気づいてしまったから。


どこに行く当てもなく、公園のベンチで途方にくれた。


家族との間にある、薄い膜。


ーー 僕は、女の子に恋をする事が出来ない。


それが、その正体だったんだ。






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