冬、しんしんと-2
「いらっしゃいませぇ」
語尾が気怠げな、顔馴染みのバーテンダーが僕の顔を見て、軽く眉を上げた。
その後で、視線をスライドさせる。
視線の先には、小杉の少しだけ猫背の背中と、その横にいるほっそりとした背中。
垣間見える横顔は、楽しそうな笑顔だ。
ちくり、と胸が痛む。
けど。
「来たな」
僕に気づいた小杉のニヤ、とした笑い顔が
その痛みを少しだけ薄れさせた。
「久しぶりだな」
その表情に、素直な言葉が転び出る。
珍しい、と言わんばかりの小杉に思わずふい、と視線を逸らした。
「こんばんわー」
小杉の横の女性が僕に気さくに声を掛けてくれる。
目元の笑い皺と、キュッと上がった唇から零れる綺麗な歯並び。
そして、その口元にある少し色っぽい黒子が印象的だ。
「こんばんわ」
「うわぁ、なんか綺麗な人!」
ビックリした。
綺麗と言われたのは生まれて初めてだからだ。
「綺麗って、佳奈ちゃん」
小杉が苦笑いする。
この男の選ぶ女性はいつも、何処か似ている。
一度会ったら忘れられないような印象のある
、物怖じをしない女だ。
「あ、男の人に綺麗なんて…ごめんなさいね」
思わず、と言った風に口元を押さえた。
「いや、佳奈ちゃんが言うのもあながち間違いじゃないかもな」
小杉の言葉に、ドキリとする。
綺麗などと言われてときめくのも男として
どうかと思うけど、仕方ない、小杉にそう思われるなら、それでもいい、と思ってしまうんだ。
「また、適当な事を」
僕は、いっそつっけんどんな、言い方に聞こえるように、声を尖らせた。
けど、本当にそんな風に小杉に思われているかどうか、この男の気持ちを探っているのだ、本当は。
小杉は、それには何も答えずに唇の端をあげて笑って、自分の隣の椅子を引いた。
突っ立っている僕のために。