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人たらしの恋  作者: 琥珀まみ
13/30

冬、到来-7


「なんか、緊張してない?」

「き、緊張なんかしてない」

「そうか?」


小さなキッチンに男二人が立ってると、当然狭い。

小杉の体温が、ゆっくりと僕の背中に染みてくる。


「今気づいた、割と那津って小さいのな」

「お前が馬鹿でかいだけだ」

「バカは余計だっつーの」


ククと喉の奥で小杉が笑った。


「狭い」

「うん?」

「お前が後ろに立ってると、狭いんだ」

「キッチンが小さいからなぁ」

「イイから座ってろ、邪魔なんだ」


ぶっきらぼうな言い方になってしまう自分の声に、自分でヒヤッとする。

けれど、それを気にする事もなく、小杉は、はいはい、と言いながら、さっきまで座っていた場所に腰を下ろした。


それにホッとしながらも、何故だかほんのりガッカリしてる自分に気づく。


なにか、まずい事になってる。


ピーッとケトルの笛が鳴った。

まるで、警報みたいだ。


このまま行くと、ヤバイよ。

そう言われてるみたいだ。

ジワリと、掌に汗をかく。


「ぼーっとしてんなよ、あぶねぇぞ」


小杉の声にハッとして、慌ててコンロの火を切った。


小杉に気づかれない様に、ドクドクと鳴る胸を落ち着かせる様に、細く長く息を吐く。

珈琲を入れて、小杉の目の前のテーブルに置いた。


「お、温かそ」

「インスタントだぞ?」

「贅沢は言いません」

「なぁ、灰皿ないの?」

「今、贅沢は言わないと…僕は煙草は吸わない」


普通に話せてるだろうか。

僕の声は、震えていないだろうか。


「珈琲と言ったら、煙草だろ」

「なんだそれは」


そう言いながら、僕はなにか灰皿の代わりになるものはないかと、探し始めた。


「これ使ってくれ」

「悪いねぇ」


ちっとも、悪びれずに小杉が皿を受け取って、煙草を吸い始める。

美味そうに煙を吐く度に広がる小杉の香り。

僕は煙草は好きではないが、この香りは嫌いじゃない。

少しの間の沈黙。


苦しい程に胸がつまる、でもそれが嫌じゃない。

僕はとうとう気づいてしまった。


目の前で、のんびりと煙草をくゆらすこの男の事が、好きなのだ、僕は。

しかも、同性に感じる感情じゃない。


ーーおかしいよ!男同士なのに!


彼女の声が、頭の中で響く。

その事に僕は静かに絶望した。



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