冬、到来-7
「なんか、緊張してない?」
「き、緊張なんかしてない」
「そうか?」
小さなキッチンに男二人が立ってると、当然狭い。
小杉の体温が、ゆっくりと僕の背中に染みてくる。
「今気づいた、割と那津って小さいのな」
「お前が馬鹿でかいだけだ」
「バカは余計だっつーの」
ククと喉の奥で小杉が笑った。
「狭い」
「うん?」
「お前が後ろに立ってると、狭いんだ」
「キッチンが小さいからなぁ」
「イイから座ってろ、邪魔なんだ」
ぶっきらぼうな言い方になってしまう自分の声に、自分でヒヤッとする。
けれど、それを気にする事もなく、小杉は、はいはい、と言いながら、さっきまで座っていた場所に腰を下ろした。
それにホッとしながらも、何故だかほんのりガッカリしてる自分に気づく。
なにか、まずい事になってる。
ピーッとケトルの笛が鳴った。
まるで、警報みたいだ。
このまま行くと、ヤバイよ。
そう言われてるみたいだ。
ジワリと、掌に汗をかく。
「ぼーっとしてんなよ、あぶねぇぞ」
小杉の声にハッとして、慌ててコンロの火を切った。
小杉に気づかれない様に、ドクドクと鳴る胸を落ち着かせる様に、細く長く息を吐く。
珈琲を入れて、小杉の目の前のテーブルに置いた。
「お、温かそ」
「インスタントだぞ?」
「贅沢は言いません」
「なぁ、灰皿ないの?」
「今、贅沢は言わないと…僕は煙草は吸わない」
普通に話せてるだろうか。
僕の声は、震えていないだろうか。
「珈琲と言ったら、煙草だろ」
「なんだそれは」
そう言いながら、僕はなにか灰皿の代わりになるものはないかと、探し始めた。
「これ使ってくれ」
「悪いねぇ」
ちっとも、悪びれずに小杉が皿を受け取って、煙草を吸い始める。
美味そうに煙を吐く度に広がる小杉の香り。
僕は煙草は好きではないが、この香りは嫌いじゃない。
少しの間の沈黙。
苦しい程に胸がつまる、でもそれが嫌じゃない。
僕はとうとう気づいてしまった。
目の前で、のんびりと煙草をくゆらすこの男の事が、好きなのだ、僕は。
しかも、同性に感じる感情じゃない。
ーーおかしいよ!男同士なのに!
彼女の声が、頭の中で響く。
その事に僕は静かに絶望した。