裏切り
その日からその人は毎週のように公園に現れるようになりました。
そして僕はそのたびに話しかけるようになりました。
たいていはなんてことないありふれた話題でした。
でも僕はそれだけですごく幸せでした。
声を聞けないことも残念に思いましたが父親の言葉を思い出して我慢することにしました。
そんな日がしばらく続いたのですが、
三か月ほどあとになってその子の様子が変わってきました。
服装を白いワンピース以外にもかわいらしい服装になってたり、
髪型が三つ編みからポニーテールのようなひとつ結びになっていたり、
少し化粧していたり、
どんどんかわいらしくなっていってました。
態度にも少し変化が出てきました。
最初は首をふるだけで表情はこわばっていたのですが、
最近だと柔らかくなり、たまにですが笑顔をみせることもありました。
もしやこれは心を開いているのでは?と僕は有頂天になって
いろんな自分のことを話しだしました。
学校のこと、部活のこと、家でのこと・・・
その人はうなずいてくれるだけでしたが、とてもよく笑ってくれて話が尽きることはありませんでした。
そして、その人も僕が話したおかげか、その人もぽつぽつとですが話してくれました。
とはいっても、僕がはいいいえでこたえる質問をするという形式ででしたので時間はかかりました。
年は17歳、公園の近くに住んでいて、現在近くの高校に通っているとのことでした。
まず年が僕より年上ということに驚きました。
その人は童顔であったこともあって外見上では僕と同い年か年下くらいに見えたからです。
この奇妙な関係は思ったよりも長く続きました。
変化があったのは5か月ほどたった頃でした。
秋の季節でもうそろそろ寒くなるころでした。
いつものように公園に向かうとその人がいました。
しかし様子がおかしかったのです。
座ってるはじゃずのブランコにはおらず、おろおろしながら歩きまわっていました。
そしていつもスカートかワンピースだったその人がパンツでした。
明らかにおかしい様子に思わずとっさに隠れてしまいました。
そしたら僕がいた入り口とは向かいにある別の入り口から女の子が二人歩いてきました。
「あーー!!うめちゃんじゃない!どうしたの?こんなところで」
「あ、あのね。人を待ってたんだ」
「ふーん、そうなんだー、男じゃないでしょうね?」
「お、男の人じゃないよ」
「へー、ならいっか。最近寒くなってきたから気を付けてね」
「うん、ありがとう」
そういって女の子二人はじゃあねーといいながら帰っていきました。
その会話でわかったことはいっぱいありました。
まず、その人の名前は【うめちゃん】だということ。
二つ目は、うめちゃんはしゃべることができたということ。
そして、うめちゃんの声は高くはあったが、確実に【男の声】だということでした。
女の子二人が完全に帰ったあと、僕はうめちゃんに近づきました。
うめちゃんは僕に気が付くとしどろもどろになりました。
「やあ、うめちゃん」
「え?」
「ごめんね、盗聴する気はなかったけど聞いちゃったんだ」
「・・・・・・・」
「まさか、うめちゃんが女の子じゃなくて男の子だとは思ってもみなかったよ」
「・・・・・・・」
「ごめんね、スカートとかはいてたから勘違いしちゃってたよ、そういう趣味の人だったのか、あ、でも大丈夫。僕、そういうことに関して偏見はないからさ。ところで聞きたいことあるんだけどいいかな?」
「・・・なんだい?」
「なんでずっと黙ってたの?」
「・・・・・・・」
うめちゃんは黙り込んでしまった。
僕はどういう感情なのかわからなかったんです。
ただ、自分で思っているよりは心は静かでした。
「大丈夫、怒ったりしないからさ。」
「・・・・最初に女装してたのはたまたま罰ゲームの途中だったんだ。そしてまた女装してこの公園に来たのは復讐するため、怒ってないふりをして仲良くなって、好きにさせてからひどく振ってやろうっていう作戦だったんだ。」
「そっか・・・そうだったのか、まあ最初にあんなことをしたんだ、しょうがないよね。ごめんなさい。もう、きみの前から消えるよ。今までありがとう。」
「えっ・・・そんな、田中さん、まって!」
うめちゃんの静止を振り切って僕は走りだしました。
でも、なにをおもったか急にうめちゃんのほうに走り出しました。
「えっ?田中さん?」
ずんずんと近づいていき、僕は渾身の力で
うめちゃんに回し蹴りをくらわした。