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夢物語  作者: めとろのうむ
1/1

金髪先生


――そういや、夢なんて、今まで全く意識した事なかったなぁ。


  自分が何をしたいのかも、何をしなければならないのかも、何一つ分からない。


  このままじゃダメだ。それは分かっている、だけど、じゃあ一体何をすればいいんだ?


  いや、今時こんな若者も珍しくないだろうし、別にそんなに深く考えなくてもいいや。



  きっと・・・――




          ○




 大学を休学した年の秋、いつも通りバイトへ向かう道中、その人に、俺は出会った。

「おーい、そこの君!」

何だろうか、振り返るとそこには金髪の男が立っていた。

「おお、気付いてくれたか、君、私のペットを見なかったかね?

 シュナイダーと言って、緑色でフサフサした生物なんだがね・・・」

見ていないし時間も無い。というか何なんだ、その生物は。

「いえ、何も見ていませんが・・・」

そう行って立ち去ろうとすると、男が続けた。

「そうか、では少しだけ探すのを手伝ってくれんかの?」

ふざけるな、こっちは遅刻ギリギリで急いでるんだぞ?

そう思い、口を開いた。

「少しだけですよ?」




          ○




「ハァ・・・」

 今日もまた、予備校をサボってしまいました。

私は今浪人生なのですが、受験はもう半ば諦めています。

何せ、将来やりたい事もありませんし、大学に行く必要があるのかも分からなくなって来たのです。

そんなこんなで自己嫌悪に苛まれながら定禅寺通りをウロウロしていると、

金髪の男性が声を掛けて来たのでした。

 彼は私に何やら色々と話しかけて来ていましたが、申し訳ない事に、

私は彼の隣に居る可愛らしい生き物に釘付けで、

彼の話は殆ど聞こえていませんでした。

聞いた所によると、この緑色でふわふわした可愛らしい生き物は、シュナイダーという様です。

どうやら彼のお宅へ伺う事でシュナイダーともっと沢山遊ばせて頂けるそうなので、

彼に付いて行く事にしました。

 彼のお宅へと歩いている間に、彼が私に問いました。

「そう言えば、まだ君の名前を聞いていなかったな」

そうでした。自己紹介がまだでした。

「私は夢野と言います。よろしくお願いします」




          ○




 その日、俺はバイトをクビになった。

 そりゃそうだ、3時間も遅刻したんだから。

それにしても、あの生物は一体何だったんだろうか、シュナイダーと言ったかな、

あいつは本当に気持ち悪かった・・・

そんな事を考えながら重い足取りで定禅寺通りを歩いていると、見覚えのある男が立っていた。

「やぁ、また会うとは奇遇だねぇ」

待ち伏せしていたに違いない。

「一体何の用です?」

「いやぁ、実はねぇ、ちょっとウチまで付いて来て欲しいのだよ」

本来ならこんな怪しい奴なんぞにノコノコと付いて行ったりなどしないのだが、

今日の俺は気が立っている。

文句の一つでも言うついでに住所も押さえておこう。

「分かりました」


 男の家に着くと、それは立派な一軒家であった。

「入り給え」

男にそう促されてリビングへ入ると、そこにはシュナイダーと一人の少女がいた。

 シュナイダーとは緑色でフサフサした生物である。そこまではまだ良いのだが、問題はその目である。

何とも形容し難い気持ちの悪い目をしている。

この目に睨まれた者はたちまち精神に異常をきたし、一日中発狂する、

なんて都市伝説があってもおかしくは無い。それ位の気持ち悪さである。

 さて、この少女だが、何者なのだろうか、見た目で判断すると、恐らく高校生位であるが、

綺麗な黒髪に整った衣服。

今時の女子高生にしては随分と純情そうな子である。

 俺が不思議そうにしているのに気付いたのか、男が言った。

「彼女は夢野君だ、彼女もさっきここに来たばかりだ」

「なるほど、ところで、こんな若い子を家に連れ込むなんて、そんな趣味があるのですか?」

「そう言えば、まだ君の名前を聞いていなかったな」

話を逸らしたな、今。まさか図星なのか・・・

「名取です」

「そうか、名取君か。では名取君、夢野君、君たちに夢はあるかい?」

「いえ、特には無いです」

隣で夢野さんも首を横に振っている。

「そう言うと思っていたよ。君たちは人一倍死んだ魚の様な目をしていた。

 だから君たちには暫く、私の下で働いて貰う。」

「は、働くって・・・」

「何をするのですか?」

俺に続き、夢野さんも驚いて声を上げた。

「働くと言ってもちょっとした雑用位の物だ。安心すると良い。

 君たちには色々な経験をしてもらって、沢山の夢や希望を持って貰う。

 もちろん、給料も出そう。」

「あなたは何故そこまで・・・」

「これからは先生と呼ぶと良い。

 私には、夢がある。東京へ出て声優の演技を学びたいのだ。」

「・・・ん?」

何かおかしいぞ?

「そして行く行くはあの憧れの声優さんとお近づきになるのだ」

「えっ・・・」

どうやら夢野さんもおかしい事に気付いた様だ。

「その為には、金を貯めたりなどと色々やる事がある。

 そこで、君たちに手伝って貰いたいのだ」

「・・・」

要するに、上手い具合に言いくるめられそうな雑用係が欲しかっただけ・・・なのか?

で、俺と夢野さんがその雑用係にピッタリだったのか・・・

ふざけるな、そんな事を俺が引き受ける訳が無いだろ。

「素敵です!是非ともお手伝いさせて頂きます!」

夢野さんが言った。

「僕もお手伝いします、先生!」




          ○




 先生の下に就いてから一ヶ月が過ぎた。この一ヶ月間、俺は本当に何もしていない。

ただ先生の家の家事手伝いをしただけである。

先生は俺と夢野さんを交互に家に招くので、夢野さんとはちっとも仲良くなれていない。

 そういや、未だに先生の名前を聞いていないぞ。

家の表札には佐々木と書かれているし、先生のメールアドレスのアカウント名は森野だし、たしかサラダと自称している所を見た事もある。

一体どれが本当の名前なのか、はたまた全てが偽名なのか、真相は未だ藪の中である。

 それにしても今日はクリスマスイヴだというのに、先生が俺を家へ呼んだのは意外だった。

俺なら迷う事無くこんなむさ苦しい男なんぞではなく、夢野さんを呼んでいるに違いない。

 先生の部屋へ入って違和感を覚えた。

「おや先生、今日はシュナイダーはどうしたんですか?姿が見当たりませんが・・・」

「いやぁ、シュナイダーの散歩に行ったんだが、途中ではぐれてしまったんだよ・・・」

「えっ、探しに行かなくて良いんですか?」

「大丈夫だ、連絡先を書いた首輪をしてるから時機に電話でもあるだろ」

「なるほど、それなら大丈夫ですね」

 程無くして電話が鳴った。随分とタイミングが良すぎやしないかと思ったが、とりあえず出てみよう。

「はい、もしもし」

「あ、もしもしー、仙台○○警察署の山田と申しますがー、川崎さんのお宅でしょうかー?」

次は川崎か・・・

「あ、はい」




          ○




 今日はクリスマスイヴです。

だと言うのに、私はどうやら今年も一人で暮らすことになりそうです・・・

テレビを点けてもクリスマスの特番ばかりでつまらないし、予備校にもまともに出席していないので、数少ない友達にも連絡し辛い状況・・・

「あ、そういえば」

先生と名取さん、男性二人で寂しい思いをしていらっしゃるかもしれません。

よし、では早速ありったけのケーキとチキンを買って先生のお宅へ伺いましょう。

ところで、先生は何て苗字でしたっけ?




          ○




 定禅寺通りのイルミネーションの途中で南へ折れ、そのまま暫く下って警察署までやって来て、

ようやくシュナイダーを引き取った。相変わらず気持ち悪い。

 帰りにシュナイダーと共に中央通りを歩いていると、コンビニから夢野さんが出て来て、危うくぶつかる所だった。

どうやら夢野さんはコンビニでケーキやらチキンやらを大量に買ったらしく、両手に袋を抱えている。

「名取さん、今先生のお宅へ向かっておられるのですか?」

「あぁ、そうだよ」

「私も丁度先生のお宅へ向かう所なのですが、ご一緒してもよろしいでしょうか?」

「ああ是非とも」




          ○




 俺と夢野さんとついでにシュナイダーで、光り輝く木々の間を歩いた。

周りはカップルで一杯で、とても気まずい・・・

何か、何か話さないと・・・

「ゆっ、夢野さん、すっ、好きな果物は何ですか!?」

一体何を聞いてるんだ俺は・・・

「蜜柑です」

夢野さんはクスッと笑って答えた。


 この日、初めて夢野さんの笑顔を見た。



「さぁ名取さん、早く先生のお宅でパーティをしましょう」


「もう少し・・・ゆっくり歩かないか?」

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