本当の始まり♀
5.本当の始まり♀
気が付いて辺りを見回す、どうやら山の中の森にある切り株に座ってうたた寝をしてしまったらしい。しかし、変な夢を見たなと思う。
まるで自分とそっくりな男の子が目の前に近づいてきてビックリした。さらにビックリしたのはぶつかるっと思った時にそのまま通り抜けてしまった事だった。ファーストキス・・・にはならないね、夢の中だし。
ゆっくりしてもいられない、気が付いたらもう日が暮れる少し前で夕闇から暗闇へ変ろうとしている。お母さんに暗くなる前に帰って来なさいと言われているので急がなくては心配をかけてしまう。
『急がなきゃ』声に出して気持ちを急がせる。
普段からよくのんびり屋だとかのろまだとかからかわれるから、声に出して自分に言い聞かせることが癖になっているの。
トマト畑に行きトマトをいくつか買って山を降りる。
途中で山の出入り口に男の子が立っていた。初めて見る男の子だったので、そのまま通り過ぎようとした時に声を掛けられた。
『君ちょっと聞いて良いかな?』
びくっと体が強張る。男の子とはあんまり話した事がなくて、それこそ昔から仲が良い男の子でも、何年か前から上手く話せなくなってきたというのに、初めて話す人となるとなんか力が入っちゃって余計だ。
『あの、この辺りで友達が山菜を採っているはずだったんだけど、君見なかった?なかなか帰ってこなくてね・・・』
『ってあれ?ユウキじゃん?どうしたの?女の子の格好なんかしてさ』
『そうかもしかして、俺がとぼけてるからって気づかないとでも思ったの?あれでしょ?山菜全然採れなかったんでしょ?そんな格好して先に帰ろうとしたんだね』
『全く君は本当に負けず嫌いなんだから、とりあえず君の家に行こうか、僕は結構採れたから少し分けてあげるよ、おじさんにもたまには挨拶しないとね』
『え、えっとぉ、それは違うん』
『言い訳してもダメだよ、ほら行こうよ』
この人誰かと勘違いしてるよー、でも家のほうにしっかりと向かってるし、まぁ良いかその友達の家に着けば間違えだって分かるし
男の子は帰っている間も話掛けてくる。『しかし、山菜を採りにいってトマトってどうなんだ?しかも畑のやつでしょ?買ってまで勝ちたかったのか』
まるで、独り言のように空に向かって言葉を投げている。これは私に言ってるのかしら?
黙っているとなおも続ける。
『でもよく女の子の格好なんて準備していたね?全く気づかなかったよ?ビックリさせようとして山に準備してたのかな?それとも一回家に帰ってからまた山に行ったの?』
『え、えっとぉ、そ、そうかな?』答えにならない答えを返す。
『そっかぁ適度に楽しかったよ、それ』
何か褒められたので一応お礼を言っておく『ありがとう』
『そういえば、もう一つ思っていたんだけど本当に女の子になっちゃったの?声も少し高くなってるし、なんか話の調子もやっぱりいつもと違うし、でもやっぱりどう見ても、ユウキにしか見えない、どうなの?』
『わ、私は、ユウキさんじゃありません、イツキといいます、生まれてから十七年ずっと女の子です!』言えた、やっと言えた。
『うん、でもやっぱり君はユウキなんだよ。違うようには見えないんだ不思議と』
ダメだーこの人、私の話聞いてないー。
それから少し考えてるような、考えてないような顔をして黙っていた。
『ほら、着いたよ、ここでしょ君の家は』
そこには、見間違うことなく私の家があった、大きくは無いけれども二階建てで石と木でできた建物で屋根は赤色で建物全体は白色にペイントされている、この辺りでは良くある普通の家がいつもの場所にあった。
これで一安心と思ったが、この人は確か友達の家に行くといっていた。そこが私の家のあった場所と同じってことは、あれ?おかしいじゃないか?
この人の言うユウキさんの家が私の家と同じってことはユウキと私が同じって事の根拠になる?いや、私が知らなかっただけで本当はお兄さんか、弟が居たとか?うん、可能性は無くはない。ほぼ無いだろう可能性に縋る。
『そう、ここが私の家・・・』扉を開ければ、きっとお母さんが居てくれるはず。
ただいまーと言って扉を開けるそこにはよく知っている部屋が広がっていた。ふぅ、っと安心してため息をついた。ほら私の家じゃない。よくも騙してくれたわね!と思って振り返ると男の子も家の中に入ってきていて、おじさーんとこの家に居ない人を呼ぶ。何してるの?人の家で、と言ってやろうとした時に家の奥から声が聞こえてきた。
『おー、この声はラル君かな?久しぶりだなぁ、ウチの馬鹿息子と帰ったのか?』といって玄関に出てきた。
え?
『おや?ユウキお前なんで女の格好なんかしてるんだ?』首をかしげながら多分私に聞いてくるが答えられない。何で男の人が?疑問に思って誰かに説明して欲しくて振り返るとラルと呼ばれた男の子が答えた。
『おじさん、これは学校でやったゲームに負けた罰ゲームなんですよ、女の子になるっていう』そう言って、家の中に入っていく。そのときに何かおじさんになにか耳打ちをしていたが、何がなんなのか分からなくなってしまって、とにかく後を付いていくしか無かった。
『お、おう、そうなのか?まぁ飯でも食べていけよ』どっちに言ったのかも区別つかない、もしかしたら二人に言っていたのかもしれない。
その後、考えがまとまらなくてぼぅーっとしてしまっていて、ご飯も何を食べたのか分からないような状態だった。
『そろそろ、僕はこの辺で帰ります。おじさんおいしかったです。ご馳走さまでした』
『おう、また遊びに来てくれよな』
『はい、また来ます』
『じゃあ、イツキまた明日来るからね?』
聞こえてはいたんだが声は出ない。
二人きりになり、黙っていると、おじさんが食器を片付けだした。反射的に手伝わなきゃと感じ動き出す。いつもは夕食の片づけをやるのはイツキの仕事だった、お母さんは食後の紅茶を楽しんでお話をしたりする。いつもなら・・・。
『おお、悪いな』
『いつも、やっているので・・・それにご馳走になってますから』
『そうか、よろしく頼む』
『俺の息子はな、晩飯を食べ終わっても自分の食器を片付けたらソファーに横になってすぐに眠りやがるんだ。こっちは作ってやったってのに洗い物なんかやったことねー』
『すいません』なんか悪い気持ちになってしまう。
『いや、ありがとう、楽をさせてもらうよ。イツキと言ったか?』
『はい、そうです』
『とにかく、事情は俺にも良く分からない、俺にはお前が俺の息子にしか見えないんだ、声や行動は違ってもそういう事じゃなくてな、あいつが帰ってこない事よりも、女になってしまったって方がしっくり来ちまうんだ、普通は逆なんだと思うし心配しない親はどうなんだって思うかも知れないがね。』
『息子は俺が洗い物を済ませると、眠ってたはずなのに起きてな、肩を揉んでくれる事があるんだ、たまにだがな。それはきっと君がいつもそうやって洗い物をすることが、君の親への思いでやっているなら、それは息子も同じなんだろうと思うよ』
イツキは黙ってしっかりと耳を傾けた、自分の母親に言われた言葉のように刻み付ける事にした。『そうかもしれません』そう一言いって洗い物を終わらせる。
『まぁ今日一晩寝て、今後の事は明日話すとしよう今日は色々疲れただろう、風呂に入って寝てしまいなさい』
分かりましたといって、言われたとおりお風呂に入り、ユウキという男の子の自分と全く同じ部屋の同じベットで寝た。
夢を見たそれは、山の中で見た男の子が私のお母さんと一緒に暮らしていて、何で自分はそこに帰れないのかと泣いてしまう夢だった。
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