真実への実り♀1
22.真実への実り♀1
戻る為の手がかりもそんなに無いまま一ヶ月半が過ぎようとしていた。
なんだか最近は上手い事やれている・・・気がする。特にデブ猫のシューゾーを学校で世話し始めてから新しく友達も出来た。なんならこのままでも良いのかも・・・なんて思ったりもする時もある位。お母さんの事は心配ですごく会いたくなるし、ハルちゃんにだって会いたい。でも、戻ってもきっとまた今度はこっちの皆に会いたくなる、お父さんに、そしてラル君に。もう私の中ではどちらも大切な人達になっちゃってるんだ。
そんな時、向こうで、ハルちゃんの妹ツバキちゃんが誘拐されたという事件が起きた。私にはどうする事もできない。もう一人の私、ユウキに頼るしかないその時やっぱりハルちゃんのそばにいてあげたくなって、やっぱり私は向こうの人なんだ、戻らないといけないんだ、そう感じた。
無事にツバキちゃんが保護された事の報告を夢の中で受けた。
『心配したよ、本当に良かった。ハルちゃんも大丈夫そう?』
『あぁ心配しなくて良いぞ、もうすっかり元気になった』
『本当にありがとう、もし私がそっち居たとしても何もしてあげられる事なんてなかったんだと思う、私じゃなくて良かった』
『それは違う、俺がこっちに来てしまったから狙われてしまったんだ』
『何?どういうこと?』
『実は狙われていたのは、ツバキではなくて、俺だったんだ、俺をおびき寄せるためにツバキが狙われた・・・』
『そんな・・・なんで?・・・もしかして』
『多分、俺たちが入れ替わってる事を知っている、そしてそれを良いと思っていないんだろう』
『あなたが死んでしまったら私はどうなるの?』
『分からない・・・』
『戻れるかもしれないし、一緒に死んでしまうかもしれないって事よね』
『なるほど、そういうこともあるかもしれないのか危なかったな!』
『危なかったの?!』
『まぁ無事だったんだから良いじゃん。これからはお互い気をつけるって事でさ』
『そ、そうね、私だってどうなるか分からないし』
『そっちは狙われてるとかって言う事は無いのか?』
『そういったことは無いよ、今の生活にどんどん慣れてしまって、それが少し怖いかな?』
『それは、俺もそうだ、こっちの皆と仲良くなっていけば、いく程に分かれたくないって思いも強くなる。でも俺は帰らなきゃいけないんだ、だってそっちが』
『そっちが私の居るべき場所なんだ。私もそう思う』
目を覚まし、天井が見える。この天井を見て起きると、どっちの街に居るのか一瞬分からなくなる。前は戻っていたら、何て考えたけど、今は・・・。
もうよそう、そんな事を考えるのは、とにかく戻ることだけを考えなきゃ。
学校へラル君と一緒に行く。いつものように迎えに来てくれて、何歩か前を歩いている。
『どうかしたの?』
相変わらず、こっちを見ずに空に向かって唐突に言った。
『え?な、なんでもないよ、どうもしてないし』言ったほうが良いのかな?
『それなら良いんだけどね』
『・・・・・・』
『・・・・・・』
はぁラル君が溜め息をつく『帰りに、おいしいあんまん買ってあげるから、元気出しなよ』
『え?本当に?やったー!元気出てきた』
『くいしんぼうだな、それじゃあシューゾーと変わらないぞ?飼い主に似るらしいがこの場合は飼い主が似たってことになるね』
『そんな事ないよ、最初からだよー』
『類は友を呼んだって事か』
『うん、類友だね』
『じゃあ、俺とイツキも似たもの同士なのかも知れないね』
『ん?どこが?』
『どこだと思う?』
『んー、似ているところ・・・本を読むのが好きとか?もしくは甘いものが好きとか』あれ?甘いもの好きだったかな?
『・・・うん、そうだね両方似てる』
本を読むのが・・・か。そういえばあの本って。
『イツキは境界ドロップって本を知ってる?』
『うん、知ってるよ、大きな穴に落ちて、性別が逆転した・・・世界に・・・行っちゃうとかってやつだ・・・よね?』
『そうなんだよ、それってこっちで読んだの?』
『ううん、向こうで読んでたんだ、まだ途中だったけど、こっちにもあるの?』
『ああ、何年か前に流行ってね、その理由がノンフィクションだって事だったんだ』
『それは私の方でもそうだったよ?』
『もし本当に、ノンフィクションだったら・・・』
『おーい御両人朝から仲良く登校とは、羨ましい限りで』
『ルウか、おはよう』
『おはようございますルウルさん』
『同級生なんだから、さん付けしなくても良いんだけどな。まぁいいか、おはよう』
『そんな所で話し込んでないで早く教室行かないと、遅刻になっちゃうよ?それとも二人でサボる計画でも立てていたのかな?』
『そ、そんな事しないです』
『そうだよね、こんな朝からしけこむなんて事はしないよな、安心した、友人がそんな事するような奴じゃないって信じていたから』
『しけこむって何?』
『何だろうな?ルウ意味は何なんだ?』
『知らないよな、お前らは知らないよ。知りたければ自分で調べな。じゃあ先に行くから』
『私たちも急がないと!』
ダッシュで教室に行った。その頃には朝の憂鬱さは無くなっていた。
学校が終わり、ラルに話しかけられる。
『朝の事だけど、行くか?』
『うん、もちろんだよ、あんまん食べさせてくれる約束だもんね』
『そんな約束もしたな・・・ってそうじゃなくって本の事だよ、図書館行くか?ってこと』
『ああ、そっちか、探しに行こう。でもその前にあんまんだよね!』
『あとシューゾーが昼過ぎに来たらしいから、帰る前に寄ろたいな・・・ダメかな?』
『良いよ、俺も元気にしているか気になるからね、とりあえずシューゾーの所に行こうか』
奴は置物のようにそこに佇んでいた。何もせず帰っていく生徒たちを見守ってるようにも見えるし、何も考えずにボーっと座っているようにも見える。
シューゾーを確認してダッシュで近づく。
『シューゾー!元気にしていた?会いたかったよー』
なでなでしても何も反応を示さない。相変わらずボーっとしている。本当にコイツはなんて可愛がり甲斐の無い猫なんだ。
『相変わらずだね、シューゾーは』
『うん、私のことなんて何とも思ってないんだ』
『そ、そんな事無いと思うけどなー、ほら気持ちよさそうな顔してるぞ?』
『そ、そうかな?』
『もちろんだ、頑張って餌付けしたんだ、その事を忘れるなんてそんな事ないさ』
『そうだ、お昼の残りあったんだ』鞄の中のお弁当箱から魚肉のソウセージを取り出した。
ピクンと鼻が動いた、と思ったら首がぐるんと回って明後日方向を見ていたのに、こちらに顔だけを向けてくる。
そのあまりの気持ち悪い動きで、こっちはビクンとしてしまった。
やっぱりおかしいよこの猫。
ラル君を見るときっと私と同じ表情をしてるんだろうと思うそんな顔をしていた。
じっとこちらを見てくる。
『早くよこせー』
何か聞こえた!?何なんなの?
『今何か言った?』
『いや?』
『そうか、まぁ気のせいかな』ソーセージを小さくちぎって食べさせた。
可愛い声を出して鳴く少しこっちに擦り寄ってきて、さらに催促してくる。
カワイイ!
またちぎっては食べさせる。
カワイイ声を出す。撫でると先程撫でた時とは全然違う反応をする。グルルリューと鳴いて、お腹を見せてくる。突然デレてくる、現金な奴だ。
これをデブデレと言うのかもしれない。
そうして、ペロッと全部食べ終わるとまたしても、動かなくなる。こいつは本当に太って死んでしまうんじゃないかと思う。まん丸になって、始めて見た時よりも大きくなっているような気がするのは気のせいではないはず。
『イツキ、そろそろ行こうか』
『うーん、そうだね、元気で相変わらずだったから安心したよ。ようし今度はあんまんだ』
『はぁ、そうだだった、今度はイツキの食欲を満たさないとだったね』
『ありがとう、ラル』
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