少女を中心とする話4
20.少女を中心とする話4
目を覚ますと、寒さなどには負けずに布団から飛び出て私服に着替える。
まだお母さんは起きてない。いつもよりも早い目覚めだ。置手紙を書いてテーブルに置いて、パンをてきとうにかじりながら家を出る。
『ツバキを迎えに行ってきます。学校には連絡しておきます』
ハルと近くの公園で待ち合わせになっている。公園に行くとそこにはすでにハルの姿があった。
『ハル、おはよう』
『ごめんなさい、ユウキ。私、あなたに迷惑かけて』きっと声を掛ける直前までその事を考えていたんだろう、挨拶よりも先に謝るなんて、そんなことしなくていいのに。
『ごめんじゃないだろ、ありがとうで良いんだ』
『うん』ちゃんと寝ていないのかもしれない瞼が少し腫れている。
『とにかく一度学校へ行ってチーリ先生に休む事を言わないとな』
学校へ向かって歩く、昨日は三人で楽しく歩いていたことを思い出して、手に力が入る。
『でも、どうすっかなー、どうやって、どこを探せば良いのか分からないんだよな。少しでも手がかりがあれば良かったんだけど・・・おじさん帰ってきて何か分かった事とかあったのか?』
『手がかりかは分からないんだけど、昨日はどうやらこの辺りでは見かけない馬車が走っていたらしいわ、しかも籠付きの』
『籠つき・・・か、偉い人が遠出する時に使うやつだよな?』
『そう、偉い人たちやお金持ちの人たちが乗るのは豪華な装飾がしてあるらしいけど、それは普通に私たちでも借りたりできる物らしいわ。それが学校と私の家の途中で目撃されているの』
『なるほど、確かに怪しいな普段見かけないものだから、昨日に限って見かけるなんて偶然かもしれないけれど、調べる価値はありそうだな。オッケーだとにかくそいつを探しに行こうぜ!』
学校に着くと、まだ生徒の気配はほとんどない、それもそうだ、今はいつもならそろそろ起きる時間で、この時間から学校に来ているのは、部活動に勤しむ真面目な学生だけだ。
『静かね、先生は来ているかな?』
『まぁ、門は開いているから誰か来てるんじゃないか?最悪他の先生に伝えてもらっても良いと思う』
職員室についてノックをすると中から返事が聞こえたので、扉を開ける。
見回してみると、いつもの机にチーリ先生がいた。
『うお!おはようございます』
『あっ!ユウキおはよう、うおってなんなんだ?』
『おはようございますチーリ先生』
『ん?おおハルちゃんもいたのか、おはよう。それで、どうした?今日はずいぶん早いな何か用があるんだろ?』
『そうです、私とユウキは今日ちょっと学校をお休みします』
『親御さん了承は?』
ハルと俺は紙を渡す。
俺はちゃんと前日にお母さんに書いて貰っていたが、ハルの親は果たして了承するか?
チーリ先生は紙に目を通すとどちらともなく聞いた。『ちゃんと親に書いてもらったもの・・・だよね?』チラっとこっちに目を走らせる。こっちというのは俺の自意識過剰でもしかしたらハルを見たのかもしれなかった。自信をもって俺は返事をする。覚悟を決めたように、ハルが返事をする。『『はい』』
『はぁ、分かったよ。受け取ったー!』
『それじゃあ、俺たちはこれで失礼します』
『待てい!君たちこれからどうしようとしてるんだ?何かあてはあるのか?』これからツバキ探そうとしていること、さすがにバレてる。
『一応、目撃された馬車を探そうと思っています』
『そうか、その前に剣術部の部室に行って来るといいかも知れないなー』
『何でですか?』
『良い事があるかもしれないからだよ』
何があるんだ?ここまで言われたら行ってみるしかないか。『分かりました、じゃあ失礼します』
足は道場へと向かっている、現状の情報の少なさでは、少しでも何かを掴みたかったというのが、チーリ先生の言う事を聞いてみようと思った理由で間違いはない。せめて馬車の信憑性と現在どこにあるかなどといった情報があればラッキーなもんだろう。でも予想よりも自体は急展開を迎える、というか一気にゴール手前までワープしてしまったほどだろう。
道場に行ってみると、部長のシノが道場の入り口の前に制服で立っていた。
『おう、シノおはよう。毎日朝に来てるのか?』
俺の声に気づいたようでこちらに振り向く。
『ああ、お前かおはよう。あと、ハルさんもおはよう』
『ええ、おはようシノさん、どうかしたんですか?中に入らないんですか?』どうしてこの二人は会話がいつも敬語どうしなんだ?特にシノ俺には初対面からあんなに辛辣だったのに。
『それがな、こんなものが扉の下に挟まっていたんだ』
ん?何だ?紙に何か書いてある。
『ちょっと!これツバキの字だわ』まじか、この走り書きで良く分かるな。
『何て書いてあるか分かるのか?』
『うーん、多分「ときょうそう」かな?』何?全然意味分からないな、おい。
『いや「とまときらい」だろ』確かにトマトはおいしくない。
『何を言っているこれは「とうかいどう」に違いない』ってどこだそれ!
『そうか?「とけいとう」とも読めそうだが』突然後ろから声を掛けられた。誰だよてきとうなこと・・・ん?
『『『それだ!』』』三人で声を揃えてしまった。
『って、リンか、とにかくナイスだ』
『まぁなこれも部長への思いからくるもの。で何なんだこれは?』
『・・・ツバキのメッセージだ』
『待て、最初から話せ、こんな時間に二人でココに来た理由も何かあるんだろう?順を追って説明しろ。部長命令だ。』
昨日のことを一つ一つ自分たちでも確認しながら話した。
『なるほどな、その情報が本当なら馬車で連れさらわれた可能性があるな、その際相手は複数犯だと思われる。というか、拉致というのは基本的には複数犯で行うものだろうからな。この置手紙がここにあるということが少し理解しがたいな』何?部長、探偵さんですか?
『昨日ここで連れてかれた・・・って事はないわよね?』
『それはないぞ?私がここを閉めたときにはこの手紙は無かった、それは部長も覚えてるはずですよね?』
『うむ、そうだったな。だいたい18:30にはココを出ているので、その後になる』
『そう、だとするとやっぱりこれは後になってここに置かれた可能性が高いわね、馬車が通ったのが16:00位らしいから』
『それに、部活動中はココを開け放っているから連れさらわれた現場がココだったら私も気が付くだろうし、校内に簡単に侵入できる時間帯ではないからな』
『学校外でツバキをさらって、部活動が終わって人の出入りが少なくなってからこの朝までの時間の間にわざわざココにこれを置いたって事になるわけなのね?』ツバキは拳を強く握り締めている、こんなに怒った顔を見たのは初めてだった。
・・・。それぞれ考えをまとめてるのか、沈黙が流れる。
『なるほど、となると、これは・・・』
『そうね、この手紙は・・・』
『そういうことですか、部長・・・』
『・・・どういうことですか?皆さん』主人公が置いてけぼりだった。
リンに頭をチョップされる『ボケなのか?罠だって事だよ、しかも分かりやすく誘われてる』
『どうしよう、でも何のために?』
『人質をとる場合は必ず理由がある。何か金銭的な要求があったり訴えたい事があったり、または駆け引きの材料だったり。この場合は多分この中の四人の誰かに時計塔に来て欲しいんだろうもしくは四人にだけれども、それがどういった理由なのかわ分からないな』
『シノ、そんな事は関係ない俺はさ、ツバキを迎えに行ってやりたいんだ。ここにこんな手紙置くってことは俺が行かなきゃツバキに何があるか分からないって事だよな?』
『そうかもしれない・・・』
『かも、とかっていう可能性があるなら俺は行く。ハル、お前は大人たちに知らせてくれさすがに絶対大丈夫とは言い切れない、とにかく俺が行って努力するけど、ダメだった時は・・・任せるしかないから』
『何勝手な・・・』
『何勝手なこと言ってるんだ!お前は私の下僕だろう?弱気な事を言ってるんじゃない。それに一人で行かせるわけが無いだろう?なぁリン?』
『俺は、部長が行くところなら女子トイレだって付いていきます』
『ダメだよ皆そんな危険なマネはさせられない!・・・ダメだよ・・・』
『私は剣術部の部長だなんだ、部員を助けるのは当然だろ』
『ハル皆ツバキが好きなんだよ、まだ一ヶ月そこらしか一緒に居ないけれど、同じ時間を過ごしたんだ、仲間として。一生懸命やってくれていたのはシノだって分かってるから、こう言ってるんだ任せろよ』
『ごめんなさい、私の妹のために、危険な目に・・・お願い助けて』最後には涙声になっていたけれど確かに聞いた、助けてって言葉を。
『ハルさん、ごめんじゃない、ここはありがとうで良いんだ』
『んじゃあ行きますか!』
三人で時計塔に向かう事になった。ハルにはことの経緯をチーリ先生に話してもらって、そこから自宅に帰りメモのことを話すことにした。
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