少女を中心とする話3
19.少女を中心とする話3
ツバキがクラスに来て一ヶ月が過ぎて俺がこの世界に来て一ヵ月半が経とうとしている。最初は不安だったけれども今は新しい仲間と新しい居場所に満足してしまっている。けれども、決して帰りたくないわけじゃない、向こうの皆は元気にしているのか心配だ。親父やラル、剣術部の部長だったキノも元気でやっているだろうかと心配になる。それも、稀に見る夢で皆元気だよーって言ってくれる女の子が居るからきっと大丈夫なのだろう。その子がイツキって名前の女の子なんじゃないかと思っている。
そんなこんなでですがもう年も暮れで12月に入り空気は相当に冷たくなってきている、上着を着ていても差し込んでくる冷気にが肌を刺してくる。雪はまだ降ってきては居ないけれど、いつ降ってもおかしくないような寒さで曇り空を見るたびに雪の気配を感じる。
そんな日、朝はすっかり定着したこの三人で並んで歩いている。最初の頃はハルと二人きりで学校へ向かっていたが、ちょうど一ヶ月前に飛び級で同じクラスになったツバキも合わせて三人で学校に行く事になった。
寒くなっても元気なツバキとマフラーとニットの帽子がすごく似合うハルとのいつも通りの登校だ。
三人で同じクラスに行き授業を受けて部活動に出て帰るそんな日常を繰り返していた。安定してしまっている。このままでは帰る手立てなんか見つからないのではないかと思っていたそんな時に事件は起きたのだった。
この日放課後に先生に呼び出された僕たちクラス委員の二人は雑用のために学校に残っていた、部活動への参加が出来ない事を部長に伝えてツバキには遅くなる前に帰ってもらった。
雑用と言うのも、年末は学校が休みに入るため、色々な連絡事項をまとめた紙を複製する事だ。先生は成績を付けたり出席日数の足りない生徒のために補修をしたりと忙しいらしい。でもそれってどの先生も同じなんじゃないだろうか?
『ユウキ紙が足りなかったみたい、私取ってくるからちょっと待ってて』
席を立とうとするので手で制した『いや、俺が行って来るよ、ハルこそそこでおとなしくしてな』そう言うと、教室を出て職員室へと向かった。
『優しいな、ユウキは。ずるいよどんどん必要な人になって行っちゃう・・・』
紙を取って教室に戻ると窓から外の風景を見ているハルがいる。『取ってきたぞ、すぐに終わらせよう。さくっと終わらせて家に帰ろう』
『うん、そうだね、さくっとね、もう少しだしね』
雑用が終わって教室を出て職員室に向かう。
職員室に行くと例のごとくチーリ先生は居ない。あの人は一体いつ仕事をしているんだ?いつもタバコを吸いに言っているような気がするんだけど。しぶしぶ屋上へ行き先生に報告をしに行く。
屋上の扉を開けるとやはりタバコの香りがして、チーリ先生が居る。
『先生終わりましたよ、頼まれた紙の複製と種類別にして分かりやすいように机の上に置いておきました』
『おっ早いねー、悪いねー、お礼しなきゃねー』そう言うとタバコの先を捻り潰して屋上に置いてある灰皿へ入れる。慣れた手つきが何度見ても容姿と合ってないので違和感を感じる。
職員室まで連れてこられて、あたたかいコーヒーを入れてくれる。教室にはない暖炉の近くで飲むと身体の内側から温かくなる。
『ありがとうございます、おいしいです』ハルと一緒に居るとこういうことを言ってくれるから楽だ。
『うん、まぁこんなことしか出来ないけれど、帰る前に暖まってからじゃないと風邪引いちゃうしね』
『それじゃあ、ゆっくりして行って良いから。私は机に戻って仕事を終わらせないといけないから』そう言って戻っていく。
『すっかり暗くなっちゃったね、ツバキ大丈夫かな?』
『まぁ大丈夫でしょ明るいうちに帰ったしさ、でもまぁこれ飲んだら帰ろうか』
すっかり暗くなってしまったので、ハルを家の前まで送ることにした。
家の前まで着くとハルとツバキの母親が外に出ていた。こちらを確認すると手を振って声を掛けてくる。
『おかえりー、ってあれ?ツバキは一緒じゃないの?』
ん?何だって?と思いハルの方を見やると、向こうもこちらを見てきた。目が合うと二人声が重なった。
『『帰ってないの?!』』
えっ!?どういうことなんだ?
『帰ってないわよ。遅いと思って少し心配で外に出てたんだけど。。。どうしましょう』
『いや、とにかく探さないとダメでしょう!』こんな時間になっても帰ってこないのはどう考えてもおかしい。学校から一人で帰したのは、授業が終わってすぐなので15:00過ぎた頃だ、俺らが学校を出たのが19:00少し前なので、今はもう19:00を回ってるに違いない。その間に帰ってない理由、あり得るとしたらどんな事が二つ三つ思い浮かぶ。
中等学校の友達に会って遊んで帰っていない。
事故に巻き込まれて帰れない。
誰かに連れてかれた。
一つ目の可能性を信じて、ハルのお母さんには仲の良い友達の家に行ってもらう。
二つ目の可能性をお父さんに任せて自警団や街の数箇所を回ってもらう事にした。
三つ目の可能性はどうだろう?しかし、あっても手のうちようがない状況だ。
なら俺たちはどうするか、だ。ハルにはまだ家に帰ってくる可能性に期待して待たせておく。俺は公園やら周辺で遊ぶところを探し回る事にした。
寒い夜だけれども、走り回って汗だくになる。運動してかいた汗なのか、冷や汗なのか、どちらかなのか、もしくはその両方なのか。
だぁーチクショウー!どこに行ったんだ。暗くならないうちに一人で帰したのが間違いだった。暗くなっても良いから皆で一緒に帰っておけば。探している間そんな事ばかり考えてしまう。色々探し回ってみても何も情報を得られなっかったので、一度ハルの家に戻ることにした。もしかしたら家に帰っていて、ハルにお母さんにお父さんに怒られている最中なのかもしれないと期待して。
家の前に着くとハルが外に出ていた。
『おい、一人で外に居るな危ないだろうが!お前まで居なくなったら・・・』その先を言葉に出来ない。その先を何か言おうとする前にハルが駆け寄って来ておでこを俺の胸に押し付ける。
『どうしよう、ユウキ・・・ねぇどうしたら良いの?私に何が出来るの』顔を見ることは出来ない、いや見せたくないのかもしれない。小一時間ほど一人で家に居たのだ、俺みたいに何かをしていれば気も紛れるかもしれなかったが、ハルはじっと家で待っていたのだ。お父さん、お母さんそして、妹のツバキの帰りを、俺と同じ後悔をしながら、いや、俺以上に大きな後悔によって押しつぶされそうになって。
ハルの頭に手を置いて掛ける言葉を探す。なんて言ったらいいか思い当たらない『俺こういう時なんてハルに言ってあげれば良いのか正直分からないけど、後悔するよりも、何とか探して迎えに行ってあげられるように考えよう。でもとりあえず今は泣いて良いよ、泣き止んだら一緒に迎えに行くぞ?な?』上手く励ますための語彙が乏しい事が悔やまれる。でも俺の思いだ。迎えに行ってやるんだ!絶対に!
ハルは俺の胸の中で頷くと少しの間声を出して俺の洋服を濡らした。
少ししてハルが顔を上げた、目は赤く充血し、まぶたも赤くなっていた少し潤んだ目と目が合うと少し恥ずかしくなったのかクルっと背を向けた。
『ありがとう、もう大丈夫。うん、迎えに行かなくちゃだね。多分お父さんとお母さんがもう少ししたら戻ってくるから、そうしたら目撃情報とかがきっとある。この街は大体顔見知りだし、よそ街の人が居たら目立つしね多分何かしらあるよ。今日はもう遅いからユウキも帰った方が良いよ、本格的に探すのは明日になるかも知れないから、早く寝て明日たくさん手伝ってもらうよ』もう笑顔を作れるのか、強がりでも、それは強いから出来るんだ。とりあえず心配はないか、な?
『分かった、明日絶対迎えに行こうな!ハルも家の中にいろよ、一人で居ると危ないから』
『うん、じゃあね、明日ね、お休み』
家に帰ると、お母さんがご飯を用意していた。
『帰ったね、どうだった?見つかった?』どうやらハルのお母さんから話を聞いたようだ。
『知ってるんだ・・・見つかって、ない』
『うん、一応ね、ユウキが探すの手伝ってくれてるって伝えに来てくれたよ?ありがとうございますって、すいませんって言ってた。だから家の子ならドンドン使ってくださいって言っておいたよ。どうせ、ユウキは言わなくても手伝うんだろうからね』
『バレてるか・・・さすが母親じゃん』
『当たり前です!だからたくさん食べて早く寝て明日に備えなさいって事よ。気が済むまで無茶して来なさい』
さすがだと思った。少し気持ちが沈んでたのが一言二言会話を交わしただけで、こんなにも明日の事を考えられるなんて。本当に親ってやつは凄い。たった一ヵ月半しか一緒に居なくても、だ。
次の日の事を考えながら夢を見る。またあの少女が出てきた。
『いつもより元気ないねー?』最近は少し話をしたりする。
『ちょっとな、ツバキがいなくなっちゃって』ついつい本当のことを言ってしまう。
『え!?本当に?大丈夫なのかな?私どうしよう』
『お前がどうしようって思わなくても良いんだ、こっちの事は俺が何とかする、だからそっちは任せたぞ?お互い帰る時にちゃんと現状を守っていられるようにしよう』
『うん、やっぱり入れ替わっちゃったん・・・だよね?』分からない事を聞かれた。
『あぁ、多分だけどな、お前イツキって言うんだろ?』
『あなたはユウキ』
『『そう』』
『あなたは私でもあるのかもしれない、だから任せる、何とかして』
『任された、何とかする』
読んでいただき、ありがとうございまあした。感想やレビュー、評価を書いていただけたら幸いです。辛口なものでもお願いします。




