イツキさんぽ3
16.イツキさんぽ3
今日、学校は休みで、散歩をしていたら猫と遭遇した。そして引き取ってくれる人をラル君と捜索することになった。
そして今なんだけど・・・お昼ご飯を食べて、これからどうしようかと考えていた時に思い出した。学校のおばあさん先生に相談してみようと思いそれをラル君に伝える。
『ラル君、あのさ、学校のおばあさん先生に相談してみたらどうかな?』
『おばあさん先生?誰の事?・・・もしかして、教頭のこと・・・か?』
『え?あの人教頭先生なの?大きくて姿勢がとても良くてちょっと怖いけど優しい先生』
『うん、そうだね、大きくて姿勢が良くてすごく怖い先生。確かにあの人は休みでも学校にいることが多いらしいからね、もしかしたら会えるかも知れない。・・・よし、学校もそんなに遠くないし行ってみようか!』
商店街と家と学校はちょうど線で結ぶと三角形になるような位置になっている。一本の川が街には流れているのだが、商店街から学校または家に向かうときは川を渡らなければならなかった。商店街と学校をつなぐ橋はかなり大きく作られていて、人の往来も多いいし、馬車なども通ったりしている。さらには獲れたての川魚を売っている露天なんかもあったりする。
そんな中二人と一匹で端を渡る。猫は気持ちよさそうに眠っていたので油断をしていた。突然木箱が軽くなる振り返り中を見るが姿が見えない。逃げちゃったぁ思ったが通り過ぎた露天で川魚を咥えている。『ラル君ストップ!』ん?と振り返るラル君を置いて露天へと駆ける。
『すいません、私の猫が勝手に・・・』私の?ではないけど面倒だったのでそう言った。
『ビックリしたよこんなに大きな猫?なのか?何なのか分からないのが魚を咥えて逃げる・・・かと思いきやその場で食べようとしてるんだもんな。とにかく代金頂いて良いかな?新鮮だけどそのまま食べるのはあんまり感心しないよ?その場で焼けるように準備があるから少し焼いてから食べさせなよ。』
すいません、ともう一度あやまってお金を出した。そこにラル君が来た。
『久しぶり、ごめんね、勝手に猫が食べちゃって。』
『もう良いよ、この子にも謝ってもらったし、お金も頂いたしね。ところで何だ?彼女か?』
ちょうど良くイツキが話しに加わる『なに?ラル君知り合いなの?』
『うんって言うか同級生だよ。クラスは違うからイツキはまだ会ったこと無いかもね』
『おお、君が噂の転校生ちゃんなのか、はじめまして、「ルウル」って言います、皆はルウって呼んでるよ。よろしく』そう言って右手を出してくる。
『えっと、ルウルさん。よ、よろしくです』こちらも右手を出して握手をする。
いきなり握手とかあんまり経験ないから手が震えちゃったよぉ。なんか人当たりが軽い人だなぁ。
『あ、そうだルウこの猫実は捨て猫で引き取ってもらいたいんだけどどうかな?』なんでもない事のようにさらっと言ってのける。
『うーん、面白いけど、ラルの頼みでもねそれは出来ないかな?この仔の食費を毎月出してくれるなら考えるよ』
『さすがは商人を目指しているだけの事はあるね。そう簡単には頷かないよな』
『それはそうだよ、それにこの猫どれだけ食べるか分かったモンじゃあないしね。たまに野良猫がこうやって魚を盗んでいくんだけど、だいたいは捕ったらすぐにどっかに行くところをこの猫はその場で食べようとしやがった、食い意地が面白すぎる』
食い意地が面白いって何ですか?って聞きたかったけど、うん、言いたい事は分かります。
おいしそうな焼ける匂いがしてきたので、猫に与える。モシャモシャとまた食べ始める。
ぺろりと一匹食べ終えたところで、自分から木箱の中に戻ろうとしたが、自分では入れなかったらしく私の足に耳をこすりつけてきたので木箱の中に猫を戻し、ルウルさんに挨拶をして学校を目指す事にした。その時ルウルさんとラル君がまた二人で少し話していた。
橋を渡りきると、すぐにもう学校の校舎が見えてくる、一番最初に見えてくるのが高等学校でさらにその奥、向かって右側が中等学校左側が小等学校といった造りとなっている。それぞれの建物はそれぞれ敷地が分けられているため、学校内でそれぞれの生徒が行きかうといった事はほとんど無い。
用事があるのは高等学校なので、そのまま正面にある正門へと足を進ませた。学校の正門は西にあり、北側に室内広場(体育館)、南側には校庭、その間に校舎がある。
なので私たちは街の西側にある商店街から橋を渡って、今正門から入ろうとしている。休日は正門は閉まっていて、横にある小屋に居る門番さんに開けてもらうことになっている。正門を大々的に開けるのではなく小さい門があるのでそこから中へと入れてくれるという感じ。
名前と学校で決められている番号を言うと調べてくれて、該当すれば入れてくれるといった形らしい。今日初めて知ったなんて事はないんだから。
中に入り職員室を目指す。実は学校内には寮があり少数ではあるが休みの日でも学校自体はひっそりと営業中という感じ。
『私、休みの日に学校来るのは初めてだよ~、なんか人気が無くて静かで全然別の場所みたい。』っていうか少し怖い。気が付いたらそっとラル君の洋服の裾をつまんでいた。
『イツキは部活動とかは入ってなかったの?』こちらを振り向かずに少し前を歩いてくれる。
『う、うん、運動は苦手だからなぁ。すぐに家に帰って本を読んだりしてたよ。そういえばラル君は何か部活動入ってるの?』そういえばラル君の何も知らないんだった。ハルちゃんに兄弟がいたって事はラル君にも居るって事だよね、多分・・・今度聞いてみよう。
『一応ね、庭球部だよ。って言っても皆遊び程度のものだから、気が向いたときに行く感じかな?』
『そ、そっかすごいね』考え事しながら聞いていたので返事がテキトーになってしまった。
すかさず。『はは、テキトーだな』とか言って人のことを笑ってくる。
話をしていたら自然とラル君の洋服から手が離れていた。勝手に動きすぎだぞ!?
職員室に着いた。
コンコンと扉を叩いて、返事が無いので失礼しますと言いながらラル君が先に中に入っていった。
職員室の休日も同じく静まり返っている。その部屋の奥にブルーのワンピースにボリュームのある白髪、綺麗な姿勢、大きな身体、キラリと光るメガネ、その奥に覗く鋭い眼光、まさしくおばあさん先生だった。
気配に気づいたのかこちらに振り返り一言『あなたたち、何をしているの?職員室に入るときはノックをして失礼しますとやってからにしなさい』
やりましたなんて言い訳は通じそうに無い、素直に謝ってしまおうと思い声を出したその時『すすす、すいま・・・』かぶさって、よりはっきりと『ノックも失礼しますも言いましたよ、教頭先生』怒った風ではなくて、にこやかに、軽やかに、朗らかに、ラル君らしくしかしはっきりと言った。怒られると思った。
『聞こえなければやっていないのと同じです!』やっぱり怒られた。『でも、私も気づけなくてごめんなさいね』
『いえ、こちらこそすいません、その通りです』和やかな雰囲気になる。
そこで、ようやく私に目を向けてくれる。まぁラル君の後ろに少し隠れちゃってたんだけど。
目が合い挨拶をする。『こ、こんにちわ』
『あら、この間の転校生さんね?たしかイツキだったかしら?それで今日はどうしたの?この場合、休みに何しに学校に来たのかしらね、それも職員室にという事よ?』
『それはですね・・・』ラル君が言い出したのと同時に『あなたには聞いてません』とすかさず言われてしまい、さすがのラル君も黙ってしまった。黙ったほうが良いと判断したようだ。こちらに視線を向けてくる。
『それは、この仔、捨て猫でそれで、あの私は飼えないし、ラル君も飼えないしで、色々な人に聞いてみたけどダメでどうしたらいいのか分からなくて・・・』だんだん何を言いたいのか分からなくなってしまう。
『最後までちゃんと言いなさいって前にも言いましたよね』
なんて言ったらいいのか分からなくて黙ってしまう、俯いてしまう、目を伏せてしまう、前を見なくなってしまう、つい助けを待ってしまう、強くならないといけない、何か、何か言わないと。
頭の中が真っ白になって、空っぽになって、何か言わないとという思いだけが浮かんでいる。
『助けて欲しくて・・・来ました』地面に落下するように出てきた言葉、自分でも聞き間違いかと思う、瞬間で後悔した。
『誰を?』優しく、とても優しく言われた。思わず顔を上げる。
そこにはおばあさん先生の鋭い眼光があった。怖い。でも、もう逸らさない。『この仔を助けて欲しくて、来ました』半分は本当で半分は嘘。半分の嘘が、後ろめたくて、最後のやっぱり消えていきそうな声になってしまった。
『どうやって?どうして欲しいの?』間髪いれずに聞いてくる。こちらが一生懸命言葉を考えている間に次のことを考えていないと出てこないだろう速さで。
『で、できたら引き取って、育てて欲しいと思っています』
『無理です。私には引き取って育てる事はできません、ごめんなさい』
またしても間髪いれずに言われる。こんなにスピード感の合っていない会話があるのか、まるでLTEと3G回線の差だ分かり辛ければそうだな、ハンターと海賊位の差でも良い。この教頭先生すごい頭の回転速いんだ、頑張れ!イツキ。ラルは思わず拳に力が入ってしまう。
『そ、そうですか、時間を取らせてすいませんでした』くるっと反転して帰ろうとする。おばあさん先生なら何とかしてくれる、そう思った自分が悪かったんだ、頼った自分がいけなかったんだ。あんなにすぐに無理だなんて・・・。意思とは関係なくまぶたが滲んでいく。
『にゅあー♪にゃー♪♪ぐるるる』いつの間にか、太った猫は教頭先生の足元に行っていて得意の耳を擦り付けるをしている。おい、何してんだ。
『あなた』鋭く刺さるように言葉が飛んでくる。
『今、自分が悪かったなんて思っている?・・・その通りで結構です。そういう考えもあります。ただ、私に頼った自分が悪かったなんて考えならふざけているわ。そんなのただいじけているだけ、どこにも前に進めない。それに一度でも頼った私に失礼じゃない。認めませんそんな考えなら変えることは許しません。何で私をもっと、もっと頼らないの?あなたの何倍生きていると思っているの?すぐに諦めるの?・・・ズルイわいじけて、隠れて、無かった事にしようなんて』
静まり返る。三人が三人とも何かを考えてそして、答えを出そうとしている。
バシっと背中を叩かれる。顔を上げて横を向く。ラル君が背中を叩いてきた。『俺に以上に頼れる人が居るんじゃん、ちゃんと、さ』
イツキはもう一度おばあさん先生を見据える『先生、お願いがあります。この仔引き取ってもらえないなら、だれか引き取ってもらえそうな方とかいませんか?もしくは何か解決できる作戦考えませんか?』
『作戦ね、ふふふ。そうねー』と言って初めて考えてくれる。
『そうだ、これ、飴玉食べる?食べなさい』といって渡してくれる。三人で飴を食べながら考える。
ガリッ。飴玉を砕く音がした。『そうね、私に任せて。良い事考えたから今日のところは私がこの仔を預かるわ、良く見ると可愛いし。だから、そろそろあなたたちはお家に帰りましょう。次学校来た時にどうなったか話すわ』
『それと、イツキちゃん、頼る事は悪いことではないわ、でも無責任に頼るのは良くない。さっきみたいに途中で投げ出すような頼り方はダメ。でもそんな頼られるような人になれたら素敵だと思わない?』
『はい、心に刻みます。すぐに出来るかはは分からないですが、そんな素敵な人になれたらと思います』礼をしてありがとうございましたと言って二人で家に帰る。猫は全く寂しがるそぶりなっか見せないで、そっぽを向いていた。薄情な奴。
ラル君の少し前に歩いて出て振り返る。自然に笑みが零れる『ラル君今日はありがとう・・・ううん、いつもありがとう。心強かった、隣に居てくれて』
『どういたしまして、よく頑張りました。・・・教頭さ、怖いけど優しい先生だったね』
『だから、最初からそう言ってるじゃん!』
『まあ、泣かされてたけどね』
『な、ナイテナイ』
『まぁなんか良かったよ、今日のイツキは。じゃあまたね、迎えに行くね』
手を振って分かれる。
振り返らないラル君を見送る、見えなくなるまで。ありがとう。背中にもう一度言っておいた。
あれから一日空いて、週の始まり。
いつものようにラル君と登校をして、話をしたりしなかったり、笑ったり怒ったり。学校に着いて。教室へ向かう途中校長室の前に見覚えのある木箱がある。そこには貼紙がしてあり、「餌を与えないで下さい。」と書かれている。中には猫がいた、狸だかなんだか分からないような体型とぶすっとした顔は見間違えることは無い。あの仔だ。そこにちょうど教頭先生がやってきた。
『あら、おはよう』
『『おはようございます』』
『あの、これは??』訳が分からなかったので聞いてみた。
『校長先生に飼ってもらうことにしたのよ。それで、あの先生が学校にいるときはこうやって外に置いておいて生徒と触れ合わせてみようと思ったのよ。あなたたちも気になるだろうと思ってね。』
『そういうことだったんですね?それでその今持っている紙は何ですか?』注意書き以外にも何か貼るものがあるらしい。
『これは、この仔って名前がまだ無いから、あなたたちも名前で呼んでなかったし。そこで生徒たちに何か考えてもらおうと思ってね、募集する事にしたのよ。あと勝手に決めちゃったけど、この名前決めるのを管理するのはあなたたちよろしくね?』
『『えぇぇ!』』
『あら、無責任に頼っちゃダメよって言ったはずだけど』ここ怖いですよー。
紙にはあて先として、私の名前とクラスが載っていた。それだけではなく気安く考えてもらえるように考えた名前を紙に記入して箱に入れられるようにして後でまとめて回収するといった形をとることにした。予想以上の反響があり。単純に全校生徒400人前後だが、その半分から応募があった。さらにそこから候補を選んで再投票をすることにして。月に一度の全校集会の時に全生徒の前で発表したりとか大変な目にあった。
ちなみに、決まった名前は「シューゾー」まるで食いしん坊みたいな名前だ。・・・いや食いしん坊だからそうなったのか。
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