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イツキさんぽ2

 15.イツキさんぽ2



 この狸のような猫の飼い主を見つけるといってもどうしたら良いものか。

 まず重いので運ぶ事が困難だ、そして私には、引き取ってくれる人の心当たりがまるで無い。

 とりあえず思い当たるのが、近所に住んでいるラル君だ。家もすぐそこだし、優しい彼ならもしかして、もしかするかもしれない。

 早速猫を抱えながらラル君の家に向かう事にした。朝早いので迷惑になると少し考えて一度家に戻って木箱の改造に取り掛かる。

 家にある薪を使って木箱に車輪をつける、さらに片側二箇所の角に縄を通して引っ張れるようにした。これで持ち運びが簡単になる。

 その間、猫は窓から指す日差しの下、すでにリラックスモードで目を細めている。もう何で自分がこんな事をしているんだとバカバカしくも感じる。

 はぁーっとため息をすると、何かを感じたのか、猫はこちらにすりより甘えてくる。ズルイなぁもう、可愛いいじゃんか。ひと撫でして作業にうつる。

 木箱に車輪を装着させた頃にはすでに正午前になっている。そろそろラル君の家に行っても大丈夫だよね?よし、行こう。

 自分の家から歩いて五分としない距離にある、ラル君の家に向かう。車輪をつけた木箱に乗せた猫を引きながら向かう。猫は木箱の中でももぞもぞするだけで、まったりとお昼の気候を楽しんでいる様だ。

 お前のためにしているんだからも知らん顔はないよぅ。なんかムスッとしてるし、何?乗り心地悪いの?仕方ないので、家から持ってきたチーズを一欠けら木箱の中に放り入れる。するとおいしそうに舌でぺろぺろして齧り始めた。なるほど、こうやってここまでの大きさになっちゃったわけか、飼い主を責めることはもうできないなと思う。


 そんなこんなで、ラル君の家の前まで来た。そういえば、まだ自分からこの家に訪ねることはしたこと無かった事を思い出す。扉をノックする勇気を奮い立たせようとする、何で緊張するんだろう・・・。その場にどれくらい居ただろうか。決心をして一歩踏み出したときに扉が開いた、思わず『ひぃ』とか声出てしまった。そこにはラル君がいた。

『何してるの?何か用があるならノックしてよ、いつまで経っても動かないからちょっと怖かったよ?』口を緩ませて言ってくる。笑われたー><;

 恥ずかしいけど用件を伝えないと『え、えっと、そのあの、この猫がカワイイの!』あ、素直に感想言っちゃった。

『何?猫?どれどれ?』近づくと木箱の中にでっかい猫のような猪のような狸のような異様な生物が居た。

『ナニコレ、キモ』完全に引いている。『なにこれって猫だよ?捨て猫なの』

『うんまぁ確かに良く見ると猫に見えなくも無い・・・かな。でもこの不機嫌そうな顔は何だろうね?』

『キモイとか言うからだよー、かわいそうに』頭を撫でてやる気持ちよさそうな顔をする。かわいいなぁーお前は。

『へぇー人の言葉分かるんだね?すごいじゃん』面倒だからテキトーに褒めておこう。

『それで、自慢しに来たってわけ?』

『えっとぉ、さ、さっきも言ったけど捨て猫なのね・それで・・・』

『あ、嫌だよ?』まだ最後まで言ってないよー。

『俺は猫は可愛いと思うけどけど狸は可愛いと思えないんだよねないんだよね?ペットとしては見れないかな?』

 ううぅはっきりと否定された。しかも勇気を出したのに最後まで言わせてくれないし。食い下がってやる。

『で、でも猫だよ?よく見てこのふてぶてしい顔、オレンジ色の綺麗な毛並み、そして長い綺麗な尻尾それに、居場所が無くなるなんてかわいそうだよぅ・・・』言葉が尻すぼみで最後は消えてしまいそうになる。

『そんな事言われてもなぁ、それに母親に許可も取らないとダメだからな。でも許可とれてもやっぱり俺には育てる自信が無い。そもそもイツキが飼うのは無理なのか?おじさんなら「おうおう、狸の一匹や二匹朝飯前だぜ」とか言って許してくれそうだけどな』それと同時に食べてしまいそうな気もしないでもないがそれも運命。

『うーん、おじさんなら良いって言ってくれるとは思うんだけど、でもやっぱり遠慮しちゃうっていうか・・・』それにおいしく料理されてしまいそうな気もしないでもない。「家の前に太った狸が居たからおいしくいただこうぜ!」そんな事を言うのが目に浮かぶ。させないそんな事!

『じゃあ、テキトーに聞いて回ろう、この猫を連れて引き取ってもらえるかどうかをさ』

『一緒に来てくれるの?』ラル君を見上げながら言う。

『仕方ないね、じゃあ知り合いの家何軒か行ってみよう』こっちだよ。

 猫を引っ張りながら一緒に歩いていく、一軒目はラル君の隣の家だった。ラル君によればこの家はおじいさんとおばあさんの二人暮らしでとても仲良しの元気な夫婦らしい、この間もテニスの試合で優勝したとか。

 訪ねてみると、おじいさんは買い物に行ってもらっているらしくおばあさんしか居なかった。

『こんにちわ、おばあさん、元気にしていますか?』

『おやおや、ラル君ではないかい、久しぶりだね、ずいぶん大きくなってどうしたんじゃ?』

『おばあさん、昨日も会ったじゃないか』おばあさんは『はて?』と完全に忘れてしまっている。

『それに今日は女の子を連れて来るなんて、ユウキ君はどうしたんだい?いや、それともこのお嬢さんがユウキ君なのかな?』

『ここ、こんにちわ、私はイツキといいます。ラル君とは友達で・・・それで、今日はその、お願い事をしに来ました』それから捨て猫を拾った事と、ラル君に手伝ってもらっている事をどうにか説明した。

『そうなのかい、ユウキ君は本当に優しいね変わらないんだね?前にも同じような事があったような気がしてけどね?なんだったかね?』

『おばあちゃん、それはユウキが家出の子供と本気で喧嘩しちゃっておばあさんが止めに入ってくれた時じゃない?』

『そうそう、ユウキ君は家に連れて帰るって言って、家出の子は帰らないって言って、言い合いから殴り合いになっちゃって。「親が心配するだろ、居場所が無くなったらお前は後悔する。反省する事もできない、だから俺はお前にそうならせない」そんな事言っていたかね』

『確かに、俺もあの時は止められなかった、あいつの気持ちは痛いほど分かるから』それよりもといって話を切り替えた。

『思い出話も良いけど、今日はお願いがあるんだよ、ね?』と言ってこっちを向いてくる。

『えっとですね、あのお願いと言うのは、この子なんですが、ひ、引き取って頂だだけないでしょうか?』なんでここで噛んじゃうのー!

『ふふふ、可愛いけど、私たち夫婦は狸の育て方なんて分からないの』だから狸じゃないってー。


『ダメだったね?でもまだ最初だし、仕方ないよテキトーに頑張ろう』

『ダメだった事もそうだけど最後まで狸と勘違いされたまんまだったー、私のことだってユウキって人と間違えたままだったし』失礼しちゃう、ちゃんと女の子なのに。

『俺もダブった、以前のユウキとイツキが同じ様なことを言うなんてビックリしたよ。でもまぁ初めて会った時の方がビックリしたけどね』はははははと一人で笑ってる。嬉しそうな顔の後に少し寂しそうで・・・。

 それからいくつかの家を回ったが返ってくる反応は『猫は苦手で』とか『アレルギーが』とかまぁ仕方ない。猫好きでもう何匹飼っているという家に行って話をした時は、最初捨て猫の話をした時はノリノリだったが実際に見たら『え、誰?』とかもはや代名詞間違っちゃてる。みたいな事もあったりして、そろそろ心の疲れがピークを迎えた頃ラル君から休憩を提案された。もちろん大賛成。

『そろそろ、お昼ご飯にでもしようか?何か食べたいものある?』確かにもうとっくに正午を過ぎてしまっている。

『そうですねぇー、できたら魚料理の食べられるお店に行きたいです』先程から全く動かなくなった猫がグゥグルルと唸っている、どうやら空腹でご機嫌斜めみたい。

 ラル君は少し考えるそぶりを見せてから『商店街に行こう、テキトーにどこかにあるでしょう』

 商店街まで行くと、テントを張って店を出しているところや、ちゃんと家の中にお店があるところもあり色々なものが売っている。果物、野菜、鳥、豚、牛、乳製品などの食べ物だけでなく、木材や、レンガ、釘などの工具、他にも洋服だったり布や綿などの衣料品と色々なものが買い揃えられる。その中にはちゃんと飲食店などもある。そういった飲食店の入り口にはメニューが貼り出されていたりしてそれらを見ながら入る店を決められる。

 一軒のお店の前でラル君が立ち止まった。『うん、このお店なら魚料理もあるみたいだね、良い?』

 そういえば私、男の子と二人でこういうお店来たこと無いので、良いも悪いも分からないが、とにかく猫に食べさせられるものがあれば良いと思い大丈夫と言う意味を込めて頷いた。店の名前は「see/sea/she」

『あ、でも店員の人に動物入れて良いか聞かないとだね、少し待ってて』

 少しして戻ってきた。『大丈夫みたいだから入っちゃおう、もうずいぶんお腹空いちゃったよ』そう言って手で背中を押され中へ促される。

 二人で入って席に座りさくっと焼き魚とライスを頼んで料理が出てくるのを待つ。ちなみにラル君は豚生姜焼き定食を頼んでいた。メニューが豊富だった、まさかあるとは思わないよね。

 運ばれてきた料理を食べたが、猫にあげるには少ししょっぱいので、水で少し薄めてから一欠けら食べさせたが口に入れたと思ったら吐き出した。魚嫌いなの?と思ったが、皿に盛ってある料理には興味を示す。今度はそのままあげてみた、モシャモシャと食べている。食べ終わったのかすぐにグルルルと唸ってくる、また少しあげると、モシャモシャ食べる、すぐに唸る、魚をあげる、モシャモシャする、唸る、あげる、モシャる、唸る、あげるを繰り返す。すぐに魚は無くなる。『もう私の分全然無いじゃん!』猫はそれでも唸っている『無いってば!』そういって自分の皿にあるライスを分け与える。

『ははは。食いしん坊だね、そんなんだから狸みたいな体型になっちゃうんだよ。イツキの分のご飯ほぼ全部食べるとはすごいね、仕方ないから僕のをイツキに少し分けてあげるよ。』取り皿にお肉とご飯を分けてくれる。

『ご、ごめん。ありがとう』たくさん食べる方でもなし、これだけもらえれば大丈夫。

 でも、一人前を猫と半分に分ければちょうど良いと思っていたのにぃー、猫一匹でほぼ一人前丸々ペロッと食べちゃうのはヒドイよ。私も少し引くわ。

『ご飯も食べた事だし、もう一回引き取ってくれる人探そう。でも誰か当てがあれば良いんだけどな』

 店を出て商店街のお店に何軒か招き猫としてどうですか?と言って当たったものの全くダメだった、こんなにカワイイのにな。




読んでいただき、ありがとうございまあした。感想やレビュー、評価を書いていただけたら幸いです。辛口なものでもお願いします。

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